第三章

第21話 いよいよ訪れた決闘の日

 いよいよ決闘の日がやってきた。

 道花は朝起きるなり部屋のカーテンを全開にして開けた。

 春の日差しが降り注ぐ。良い決闘日和の朝だった。

 窓を開けて朝の空気を吸い込む。気分は落ち着いていた。

 もう慌ててもしょうがない。決闘の時間は午前中、あと数時間で始まる。


 道花はその時間になるまで寮の部屋で精神を集中させて瞑想して過ごすことにした。そんな道花に同室で同じ天剣の武芸者でもある兎が付き合ってくれた。

 二人黙って姿勢を正して座っている。時間が過ぎていく。

 時計の針が回り、約束の時間はすぐに訪れた。


「行こう」


 道花は目を開けて、天剣を手に取って立ち上がった。

 兎も頷いて後に続く。

 部屋の鍵を閉めて、寮から決闘をする会場までの道を歩いていく。

 決闘とは何をするのだろうか。分からないまでも校内でする行事なのだろうと道花は思っていたのが。


 試合会場に近づくにつれて人が増えてきて賑わってきて、まるでお祭りかスポーツ大会のような盛り上がりを見せてきてびっくりしてしまった。

 この学校の生徒だけでなく、知らない人や大人達もいっぱいいる。田舎から出てきて都会の人混みに慣れていない道花と兎は面喰ってしまった。


「人がいっぱいいるね」

「こんなに大勢、どこにいたんでしょうか」


 人混みに慣れてないのは兎も道花と同じだ。どっちも都会の地元民じゃないのだから仕方ないかもしれない。

 なぜかテレビ局のカメラまで来ている。他人事のように見ていると、近づいてきてマイクを向けられてしまった。


「春日道花さんですね。今日の決闘の意気込みを聞かせてください」

「ええ!?」


 いきなりマイクを突きつけられて道花にどう答えろというのだろうか。

 兎の方をちらりと見ると、彼女も困ったようにしていた。せめて邪魔にならないようにと兎はカメラの範囲外に身を引いた。

 黙ったまま困っていると切れた兎に吹っ飛ばしますと氷天弓を出されそうだ。道花は出来るだけ頑張って答えられることを絞り出した。


「が……頑張ります!」


 言えたのはやっとそれぐらいのことだった。

 リポーターの人はたったそれだけの言葉でも満足したようだ。


「ありがとうございます。頑張ってくださいね」


 リポーターの人が微笑んで去り、人混みの向こうから璃々と楓がやってきた。


「道花さん、早くもテレビデビューですわね」

「え!? 今のテレビに出るの?」

「道花ちゃん、応援してるからね」

「うん、頑張るよ」


 道花がやる気を出していると、会場の方から昴がやってきた。


「気合は十分って感じね、道花さん」

「おはようございます、昴先生。勇一君は?」

「弟ならもう会場で待ってるわ」

「そうですか。早いですね」


 彼もやる気になっているのだろうか。

 思えば結局、彼の実力を見る機会は無かった。

 最弱と自称しながら最強と呼ぶ道花に勝つ自信を見せていて、今まで戦いを避けるように応対し、訓練をする様子も見られなかった。

 彼の実力は全く未知数だが……

 でも、やれるだけのことをやるだけだ。道花は戦うことを決意して会場へ向かった。




 何回か練習しに訪れたことのある練習場だが、今日はまたとても賑わっているのが外からでも分かった。

 まるで甲子園かコンサート会場のような賑わいの声が会場の外まで響いている。

 いつもは学生が利用しているだけの場所だが、今日は一般の人達も大勢来ている。

 道花が覚悟を決めて中に入ろうとすると、やってきた男達がいた。

 豪と低獄中の人達だ。いつもラフな格好をしているが、今日はちょっとキメて来ている。そんなちょっとしたお洒落さを感じた。


「いよいよだな、道花。今日は一般の入場もOKだと言われたから堂々と応援に来たぜ」

「ありがとう、豪君」

「みんなで道花を応援するぞ! フレーフレー!」

「あ、応援は始まってからでいいからね」

「そうか」

「では、道花さん。わたくし達は観客席の方から応援していますから」

「うん」


 道花はみんなと入り口で別れ、一人控室に入って待った。

 決闘でこんなに大勢が集まるとは思わなかったが、みんなに恥じない試合をしたい。そう思う。


「そして、勝つ!」


 道花の闘志は十分に漲っていた。

 やがて係員の人に時間が来たことを告げられて、道花は天剣を持って決闘の舞台へと向かった。




 細い廊下を歩いて開けた舞台に出て驚いた。

 いつもはがらんとして数人の生徒達が駄弁っているだけのような観客席が今日は超満員で賑わっていた。


「決闘ってこんなに大事だったのか」


 道花は改めてびっくりしてしまうが、すぐに表情を引き締める。会場の反対側の入り口から勇一が姿を現した。

 お互いに舞台の中央へと歩みを進め、二人対峙して向かい合った。


「よう、逃げずに来たな、ナンバー1」

「相手になりに来たよ、ワースト1」


 ついに、大勢の観客達の前で決着が付けられる。

 その試合の開始が告げられる前に、道花は彼と話をしておくことにした。


「それにしても驚いたよ。校長先生が唯一の男子生徒である君の実力を見せるために決闘を開くと言っていたけど、こんなに大勢見にくるなんてね」

「何を言ってやがる。みんなお前の天剣を見に来たに決まってるじゃないか」

「え? そうなの?」


 道花は驚いてしまう。思い出せる限り、そんな話は無かったと思う。

 校長先生は確かに共学になって初めてにして唯一の男子生徒である勇一の実力を見せるために決闘を開くと言っていた気がする。

 彼は呆れたように肩をすくめた。


「お前なら何も言わない方が自然体で全力の力を発揮できる。先生達はそう思っていたんだろうな」

「なら期待に答えないとね」

「その期待を最弱がひっくり返したら面白いと思わないか?」

「させないよ。みんなが応援してくれているからね」


 会場はすでに大きな歓声で盛り上がっている。

 道花はその中で確かに自分を応援してくれている人達の声を聞いた。

 勇一は馬鹿にしたように鼻でせせら笑う。


「呑気なものだな、観客は。みんな最強様の天剣の力を信じてやがる。お前を聖女か何かだとでも思っているんだろうな」

「どんな噂になっているのかはわたしも知らないんだけど。でも、やる事は決まっているよ。この天剣道花でわたしが勝つ」

「天剣道花か」

「そう、それがわたしの剣の名前」


 時が来る。いよいよ決闘の開始が告げられた。

 大勢の観客達の応援の声が膨れ上がる中で、道花は剣を構えて突撃した。

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