第17話 親友の再会
しばらくして兎が泣き止んで落ち着いたのを待って、道花達は彼女を連れて藤花武芸女学院に戻ることにした。
裏切り者と呼んだ楓と仲直りしてもらう。自分達と友達になってもらう。その約束を果たしてもらうためだ。
来た時に通った道を今度は逆向きに走っていく。玉座に道花と並んで座って揺られながら兎はすっかり意気消沈した様子で俯いて沈黙していた。
兎殺しと呼ばれて恐れられた程の彼女だが、やはり負けたのはショックだったのだろう。道花も同じ武芸者として負ける悔しさは分かっていたので、到着するまでの間彼女の頭を撫でてやっていた。
校門に着く頃には兎は元の凛とした表情を取り戻していた。目的地に着いたのだ。いつまでも引きずってはいられないと彼女も覚悟を決めたのだろう。
兎は綺麗な少女の瞳で校内を見る。
「ここにあの裏切り者がいるんですね」
「もう、裏切り者じゃないでしょ。ちゃんと話し合って仲良くするんだよ」
「はい」
道花はちょっと不安に思ったが、楓は兎のことを本当に仲の良い友達として嬉しそうに喋っていたし、悪い事にはならないだろうと信じることにした。
「道花、じゃあ俺達はここで」
「うん、今日はありがとうね」
豪達とはここで別れることになって、低獄中のみんなは帰っていった。
面倒を見る約束は今日だけなのでしばらくは会うことは無いかもしれない。
道花は璃々と兎と一緒に、校内へ足を踏み入れることにした。
ここを出た時はまだ昼休みだったけど、今は放課後になって少し経った時間だった。
まだ楓が教室に残っているか心配だったけど、教室の前の廊下で雑談している同じクラスの女生徒に頼むと快く呼んでもらえた。
楓はいつもの人懐っこい純情そうな顔をして教室から出て来た。
「道花ちゃん、何かとても綺麗な女の子があたしに会いに来たって言われたんだけど……」
そこで彼女の動きがピシリと固まった。道花の後ろに隠れようとした兎を見つけて。
「う、うさちゃん……何でここに……」
やっとそれだけを言った楓に、兎は意を決したように道花の背後から出て来て、両腕を振り上げて楓に向かって掛かっていった。
「この裏切り者―――!」
「ええ!? なんでえ!?」
たいして力の入っていない駄々っ子のような拳だ。
ポカポカと殴られながら楓は意外そうに驚いていた。兎は腕を振り上げながら訴えた。
「だって、勝手にどこかに行っちゃって。わたしは一人で白雪中に通うようになって……一緒に行こうって約束したのに!」
「え? だって、親の転勤で代わることになったって言ったよね?」
「そんなこと知りません!」
「ええええ!?」
楓は心底意外なことのように声を上げる。兎の訴えは続いていく。
「約束を信じていたのに! 何があっても一緒に同じ中学に行くって信じてたのに!」
「そう言われても……」
どうやら楓は事情をちゃんと説明していたのに、兎はそれでも約束が守られると信じていたようだ。
道花が仲睦まじい親友の再会を見ていると、璃々がこっそりと声を掛けてきた。
「道花さん、後はこの二人に任せて……」
「うん、そうだね」
友達同士が再会して積もる話もあるだろう。
道花は後の事を楓と兎に任せて、その場を後にすることにした。
校門前まで璃々を送る。外に出ると運転手と立派な車がもう待っていた。
ドアを開けられ、璃々は上品なお嬢様の仕草で後部座席に腰かけて、道花に話しかけてきた。
「それにしてもあの兎殺しにまで勝ってしまうなんて、さすがは道花さんですわね」
「えへへ、それほどでも」
あれは本当に危ない勝負だった。どちらが勝っても負けてもおかしくない戦いだった。
勝つためとはいえ、剣を手放してしまったという点では、剣士として負けと見られてもおかしくはない。
みんなは道花の勝利をただ純粋に祝福してくれたが。
剣は拾って再び道花の腰にある。口が聞けたら俺を捨てるなよと文句ぐらいは言われたかもしれない。
続く璃々の言葉に道花は表情を引き締める。
「これで昇り調子であの男との決闘に望めますわね」
「うん、頑張るよ」
璃々が気さくに手を振って、車が発進していく。
見送って、道花は考えていた。
決闘のことも勇一の実力も道花はよく知らない。
それでも負けるわけにはいかないなと。
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