第8話 練習場へ
賑やかな学食。
道花は璃々と楓の少しぎくしゃくとした関係を気にしながらも昼食を食べ終わった。
まだ入学式の当日だ。お互いに知り合って間もないのだから、数年来の友人のように仲良くするのはまだ気が早いのかもしれない。
そう思うことにした。まだ焦ることは無い。
二人と一緒に空になった食器を返却口に返し、学食を出る。
昼の太陽の眩しい良い天気だ。
「では、町へ行きましょうか。案内しますわ」
「うん、そのことだけど」
せっかくの璃々からの提案だったが、道花はそれよりも見たい場所があった。
「戦う場所を見たいんだ」
「入学試験で戦ったあの場所ですか」
そう、試合をする練習場だ。おそらく校長先生の言っていた決闘もそこでするのだと思う。
入学試験の時に行ったことはあったが、また戦いをするのならもっと現場のことを見て確認して慣れておきたいと思った。
そのことを璃々に告げた。
「璃々ちゃん、付き合ってくれる?」
「喜んで!」
道花の提案を璃々は喜んで受けてくれた。ありがたい友達だった。
道花の見た感じ、璃々の実力は同じクラスの中でもかなりの上位者だ。
校長先生も璃々は強いと太鼓判を押してくれている。
一人では気づかないことでも彼女なら気づくことが出来るかもしれないし、剣を交えた練習相手としても璃々の実力なら申し分が無かった。
これより上を望むとなると先生や上級生に頭を下げることになるだろう。私的な用件でそこまで迷惑を掛けるつもりは道花には無かった。
また新入生としてこの学校に入ってきたばかりで、それほど目立つこともしたくはなかった。
璃々の言っていた誰とも関わらずにひっそりと暮らしたいとまで思っているわけでは無かったが。
すぐ傍にいる友達と剣の腕が磨けるなら願ったりだった。
「ありがとう、璃々ちゃんがいてくれて良かった」
「道花さんほどの達人にそう褒められるなんて光栄ですわね。あなたは帰って。しっ」
「あたしも行くよ!」
犬を追い払うような璃々の態度を跳ね除け、楓が興奮気味に言った。
彼女が来たがるなんて意外だった。
楓は見た感じ、それほど戦いが好きなようには見えなかったが。
どちらかというと家庭的な風に見える。
「あたしだって春日さんの戦いに興味あるから!」
「そうですか。あなた如きが見て分かる戦いとは思えませんが」
また楓と璃々が睨み合っている。道花は背後から璃々の両肩を掴んで回れ右をさせた。
さすがに背後からいきなり掴まれたのにびっくりしたのか、璃々があたふたしていた。
「み、道花さん!?」
「練習場への道忘れちゃった。案内してくれる?」
「は……はい! 仕方ありませんわね」
道花が手を離すと、璃々は数歩歩いて先に立った。
案内してくれる璃々の背中を見ながら、道花は楓にこっそりと囁いた。
「楓ちゃんも、何か気になることがあったら教えてね」
「うん」
楓が頷くのを見届けて、道花は璃々の案内で校内を移動することにした。
練習場までの行き方は別に忘れたわけでは無かった。ただ口論を止めさせる口実に利用しただけだった。
それでも璃々が気前よく案内してくれたので、言って良かったなと思ったのだった。
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