第2話 狩人

 

 ソロはいつもの洞窟に戻ると獲物を洞窟の奥へと運んだ。まず横取りしてくる魔物は居ないが鳥がついばみに来ることもあるのでここに置いておくことにした。だがよくみると床に埃が積もっている。

 ソロは尻尾で辺りの埃を掃き取り、そしてきれいになったところに肉を置いた。ついでに洞窟の掃除をすることにした。箒のように尻尾を使い、端からきれいに掃いていく。そしてソロは洞窟中の埃を外へと掃きだした。

 見ると自分の尻尾に大量の埃が付いていたので、ソロは大きく尾を一振りしてそれを落とした。


「こんなもんか」掃除を終えて一息つこう、そう思った時だった。


         (ん?)


 ソロは何かに気が付いた。森の方から気配を感じる。

(何だろう、こちらに近づいてくる?)そう思い、ソロに緊張が走った。

 何故ならこの森でソロに近づくモノは居ない。竜に敵う魔物などこの森には棲んでいないのだ。だとすれば「外」から来た者。

 森の「外」からわざわざ竜の前に現れる者


「「竜狩りか!」」


 ザァ!と音を立てソロの鱗が逆立った。奥歯を噛みしめ牙をむき出し、鼻からは炎が噴き出ている。かつての憎しみと悔恨がソロをつつみ、ゴォォオオっと火山の噴火口から聞こえる様な轟くような唸り声を上げた。

(まだ決まったわけでは無い。)ソロは冷静になろうと自分にそう言い聞かせた。

フーっと煙を吐き、そして大きく深呼吸をした。幾分かは落ち着いた気がする。それでも心臓はドクドクと音をたていた。

 何が来たかは分からない、良いモノか悪いモノかどちらにしろ確かめなければならないだろう。そう決心し、ソロは洞窟を飛び出した。




 その頃、男は森の深部を歩いていた。目指す場所が近づいているのが分かる。

(もうすぐだ、やっと・・・)男は胸ポケットに手をあてると大きく深呼吸した。心臓が高鳴っている。(やっと、ここまで来たんだ)

 男は目を閉じここまでの道のりを思い返している様だった。そしてぎゅっと剣を握りしめ、また森の奥を目指し歩を進めた。


 木の根に足を取られないよう慎重に進んでいるとき、目の端に黒い影が映った。

 とっさに剣を抜き身構えると大きな木々の奥から赤黒い毛並みの犬が現れた。だが犬と呼ぶには大きく5メートルはあるだろうか。よだれを垂らしギラついた目でこちらを見据え近づいてくる。

 がっしりした顎は人間を小枝の様にかみ砕くだろう。想像するだけで恐ろしい。そして本当に恐ろしいのはそんな犬の頭が「二つ」あることだ。


(「双頭犬」本物を見るのは初めてだ。)


 男は恐怖を抱きつつも好奇心にかられていた。


 双頭犬は少しずつ距離を詰めてくる。あまり距離を詰められるのは良くない、そう判断し男は駆け出した。

 その瞬間、双頭犬も飛びかかってきた。それをすんでで避け木々の間を駆け抜ける。すぐに追いつかれることは分かり切っていること、だから手早く倒さなければならない。

 男は木々の間隔がなるべく狭い場所へと走った。双頭犬はものすごい勢いで迫ってくる。


(ここだ!)


 そう思い、男は木の後ろに身を隠した。

 双頭犬はすぐに追いつき木の後ろに隠れる男を襲った。が、そこに男の姿は無い。

辺りを二つの首で見回し、鼻をひくつかせた。


(ココニ、イル)


 双頭犬は確信していた。しかし男の姿は無い。


(!)


 双頭犬は気が付いたが男の一撃の方が速かった。


 双頭犬の頭上、木の上に男は居た。持っていた短剣を足場に木を登り太い枝へと渡り、待ち伏せていたのだ。広い場所でなら躱せていたかもしれないが木々が邪魔して双頭犬は避けれない。木々の間隔が狭く身動きの取りづらい場所を選び、頭上に控え不意を突いたのだ

 狙うのは一つ双頭犬の二つの首をつなぐ頸椎、二つの首を相手にしていては埒が明かない。

 男は渾身の一撃を双頭犬に叩き込んだ。双頭犬は絶命の声を上げるとその場に崩れ落ちた。

「はぁ・・・」男は安堵のため息をつき、剣に付いた血を払う。

 強敵だったが落ち着いて対処することが出来た、そう思うと自分が強くなっていることを感じられる。

 剣を鞘に収め、渇いた口を水筒の水を飲んで潤した


 一息つき、男は双頭犬を調べ始めた。毛皮や爪、牙が防具や武器に使えないかと考えていたのだ。

「こいつを使えばもうちょっと良い装備に出来るかもな。いや、商人に売った方が・・・」そんな考えを巡らせている時(ふっ)と頬を風がかすめて行った。

 普段なら気にも留めない様なこと、でも今日は何故だか違う。辺りを見るが何の気配もない。森を入ってからずっと魔物や獣がこちらを伺っていたのにそれが消えている。それどころか小動物や虫たちまで息を潜めているかのような静けさが辺りを覆っていた。

 男は大きな木に背中をあて剣を抜き、様子を探った。


(なんだ、いったい何が)


 そんな男を大きく獰猛な瞳が見据えていた。だがそれに男はまだ気が付いていない。

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