繰り返す君を君自身は知らない
奴は仲間を失った。
片目を失った。
片腕を失った。
そうしてなお、絶望を前に膝を折ろうとも。
何度でも立ち上がる。
歯を食いしばり進み続ける。
だが悲願が叶った試しはない……。
《
……まったく、どこまで理不尽であれば気が済むのか。
繰り返すばかりの
*
「君を知りたい」
ダイヤの鳥。ルビーの花。
エメラルドの木。サファイアの池。
アメジストが散りばめられた石畳。
――祭りとも揶揄されるほどの式典に次ぐ式典を終え、親睦会に移行した前期初日の正午。
会場である中央大通りからは逸れた人気のない広場で、真っ直ぐなその言葉を聞くのはこれで何度目になるだろう。
つい、腕を捻り上げ力任せに壁に押さえつけた――言い訳をさせてもらうとすれば、第一師団総勢約2万名弱の作り上げる人波に揉まれて神経が高ぶっていた――私の蛮行を受けて、怒りを露わとするでもない。和解を求めんとする姿勢に、だからお前は死ぬのだと吐き捨ててやりたい気持ちをぐっと呑み込む。
「これから一年、同じ小隊の一員として過ごす相手のことを知りたいと思った。周りの評価だけで判断するのではなく俺自身が関わって……可笑しいかな?」
だから私は「知ってどうするんです」と返した。
知る必要などないのだという意味も込めて。
「どうって」
「実力なら今後の授業で自ずと知れるでしょう」
腕を離して距離を取る。
振り返った
……若く幼い。
「無用な知識は有事に迷いを生むだけです」
「……君は君自身を無用なものだと言うのか」
「少なくとも、あなたにとっては」
あと少しというところで私を庇うなどとつまらない死に方をされるのはもうまっぴらだ。
実力だけを認めたら後の全ては嫌ってくれ。
それこそ、庇おうなどという愚かな考えが1ミリだって浮かばないくらい。
「俺はそうは思わない」
「死にますよ」
事実、英雄になれと、私の敷いたレールに乗せられて死に至っているのだから……。
関わらずに済ませることができるならそれに越したことはないと言える間柄であろう。
脳裏をよぎった過去という名の幾多の未来に思わず嘲笑が浮かぶ。
まるで
「だって、私があなたを殺すから」
「……穏やかじゃないな」
「そうでしょうとも」
穏やかだった日々などもう記憶のどこにも残ってはいない。
――共に生きて、共に死のう。
英雄譚にその名が刻まれるまで。
私は君を死地へ追いやる。
代わり、この身の全てでもって君を生かす。
生かしてみせる。今度こそ。
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