赤色が青色になるまで

物語の始まりというのは、いつも唐突にある。


それは

いつの日かに訪れた偶然であるからだ。


とても普通で、すごくどうでも良い、そんな一瞬なのだ。


普段は

信号の赤に捕まらない時間なのに、

いざ気づいてみれば青くない。


最近は、信号機の色は青くはないんだが、そういう話ではなく。


止まれという意味の色をしている。

車が行き交う。やがて待てば、信号は青に。


進めという色に変わるだろう。


これはこの社会で、日本で、俺には常識だ。

常識とは即ちルールである。


人間社会のルールは、いつかの誰かの意思によって、善意的にも悪意的にも作られる。


社会で決められたそれは、俺のルールになる。

社会で生きるのだから、当然とも言える。

信号の赤に足を踏み出すのなら、怪我をして当然だ。


人は誰かのルールの上でしか生きられない。

どんなルールを選ぶかは自分次第だが。


隣に同じ学校のルールに従った服装の人間が、

赤い信号に踏みだそうとしていた。


歩きながら小さなスマホの画面に目を落としている。


咄嗟に肩を軽く叩く。


「おはよう…………あ、ごめん。人違いだった」


少女は不思議そうな表情を浮かべる。


顔もまともに確認せずに彼は歩き出した。

進んでも良い色を信号機がしていたから。

ただ、そういう理由にしておくことにする。


彼もまた、気難しい少年であるようだ。

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