凍える春の朝

ある朝に産まれた瞬間の子鹿のように震える。


凍えそうな身体を差し込む朝日が優しく照らす。

この肌寒い日に暖房が勝手に切れていたようだ。


春先の寒さは冬のそれに匹敵する日がたまにある。

まさに今日だが、暖房の自動でオフになる設定を切り忘れたことで、よりその寒さを実感する結果となった。


さっき急いでつけた暖房の効果はまだ少しだが、いつも通り学校に行く準備をする。


前日にやっておくという習慣はない。


俺の物語は今日、今この時からだ。

寒いし明日からにしようとか思ってないぞ!

こういうのは思い立った日に始めた方がいいんだ。

思いついたのは正確には昨日だとか細かいことは置いといて。


リビングでキンキンに冷えたゼリーを朝飯にする。

とても冷たい、がこれはこれで好きでもある。


「行ってきます」玄関を出る前、振り返って言う。


誰もいない玄関先に自分の声が響くを感じながら、外に出て空を見上げる。


寒い朝の日は、空が澄んで綺麗だ。

陽射しが視界に入って邪魔なくらいに。

何も始まらないのなら、自分がすれば良いのだ。


その逆もまた然り。別に頑張る必要はない。


だから俺の物語は、こんな端書きから筆を進めることにしよう。


寒々とした冬のような春の空を下に一人の男は決意した。

今ここから全てを辞めることにする。

俺は俺のため、俺だけに生きる。



ここから始める物語は、そんな彼の物語だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る