本屋に行きたい、けど
『本屋に行きたい』
電話先の彼女は言った。話の流れも何もない突然の発言に俺は何も返せなくて、ただひとつ息を吐いた。
『本屋に行って本を買いたい』
「……行って買えばいいじゃん」
『ないの、欲しい本が』
俺はまた言葉を失う。
欲しい本がないのか欲しい本が置いていないのか、恐らく後者なのだろうけれど、だったらネットで買えばいい。
『ネットで買えよって思ったでしょ』
「まあ」
『そうじゃないの、本屋に行って、本がたくさん並んでいるあの空間で欲しい本を見つけて、ついでに視界に入った気になる本も手に取って、思ったより重くなった鞄に少し笑いながら帰りたいの』
それもわからなくはないが。
実際問題求めている本が確実に置いてあることはそんなにないし、欲しい本がベストセラーだとかなんちゃら賞受賞だとかそういうのじゃなければ更に難しいだろう。
「でもないんだったらネットで買った方がいいじゃん」
『わかってるよ、わかってるけど。それでももし今度本屋に行った時置いてあったらと思うと注文できなくて』
「そもそも本屋にそんな頻度で行かないでしょ」
『行かないけどー……行った時ー……」
段々と彼女の歯切れが悪くなる。
ああ、これは注文の背中を押して欲しいんだな。それじゃあ。
「俺が頼んであげようか?」
『え?』
「でもプレゼントっていうのはなんかキャラじゃないし、本の交換でもする?そっちは俺の欲しい本を買って送ってよ」
『……あんたの欲しい本って何』
「うーん……考えとく。思いついたら連絡するからそっちの欲しい本の情報送っといて」
『え?それって――』
「よろしくー」
一方的に電話を切る。向こうで頭を抱えているだろう彼女のことを思い浮かべて、俺は少し笑った。
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