つまんない話だけど聞いてくれるかい

 あのね、君も知っていると思うんだけど、この近くに橋があるじゃないか。で、その橋の下、一応歩けるようになっているだろう? そう。時々犬の散歩をしている人がいたりキャッチボールをしている男の子がいたりするところ。

 あそこにさ、こないだ私も下りてみたんだ。何のことはない、階段を下ればすぐなんだけれど、ちょっと緊張したな。

 空気が綺麗で風が気持ちよく、景色も良くて……なんて言えればよかったんだけれどそんなにいいものではなかったよ。ほら、さっき言っただろう。犬の散歩をしている人が多いって。そう、察した? そうなんだよ、ちょっと足元に気を付けないと危ないんだ。

 せっかく土手があるから腰を下ろして読書でも、なんて思ったりもしたけれど、そんなことができそうな場所じゃなかった。仕方ないからただぼんやり歩いてきたよ。

 それでね、川辺に石が積んであるのがわかるかな。岩場みたいな、テトラポッドなのかな。よくわからないけれど。

 あれにさ、色んなものが引っ掛かっているんだ。ビニールごみとか、空き缶とか、ペットボトルとか。一番驚いたのは炊飯ジャーだな。なんであんなところにあるんだろうね。

 ……って、誰かが意図的に捨てたんだろうけど。

 まあなんでもいいさ、それでね、色んなものが引っ掛かってる様子を見て私は思ったわけ。

 もしこの石の隙間に足が挟まってしまったら、私もこのごみと同じになるんじゃないかって。

 笑っちゃうだろ? つまんない話だよ。つまんない話だけど、一瞬でも本気でそう思ってしまって、それ以上そっちに近づけなかったし見ることもできなかった。実際そんなことにはならないし、もし挟まってもさすがに放置されて死んでしまうことはないと思う。今思えばね。

 ん? 悩みがあるのかって?

 そうだなあ、人間誰しも何かひとつくらいは悩んでいるんじゃないかなあ。はぐらかすな? そう怒らないでよ。

 私としてはさ、君にこんな話を聞いてもらえただけで十分なんだ。だからまた今度話をしようよ。君の話を聞くのも面白そうだな。

 まあそういうわけだ。それじゃあね。聞いてくれてありがとう、ほんとにそう思ってるよ。

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