偶然のサービス
「そろそろ車洗おう」と弟が言うので、近場のスタンドに洗車に行くことにした。スタンドまでの道のりと、洗車機への停車は運転慣れした弟に任せる。
車を停めて、機械を操作する弟が、これはああで、これはなんだっけとぶつぶつ言っていた。
「アンテナ立ってる?」
「わかんないな」
「ちょっと見て」
「はーい」
言われるがまま一旦外に出て天井のアンテナを確認。立っていない。
「立ってないよ」
「じゃあいいや。後はえーっと……サイドミラーってどこで閉じるの?」
「車の鍵を閉めたら勝手に閉じるけど……それ以外だとわかんないな」
二人で首を傾げる。ミラーを閉じないで洗うモードもあるらしいがちょっと怖い。
いくつか車内のボタンを見た後、弟が「あった!」と声をあげた。どうやらミラーを閉じるボタンが見つかったらしい。
「じゃあこれで……よし!スタート!」
機械のボタンを押し、急いで窓を閉めてエンジンを切る。そういえば洗車中に車の中にいるのって特別な感じがして好きだったなと思い出した。あれは小学生くらいの頃だったろうか。
「あ、虹」
「え?……ほんとだ」
昔を思い出しながら迫りくる洗車機のブラシとフロントガラスを見ていると、隙間から差し込んだ光と飛び散る水で綺麗な虹ができていた。それはちょうどフロントガラスに弧を描いている。数秒の間しか見ることはできなかったがなんだか得した気分で、偶然ながら良いサービスを受けたようだった。
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