Scene.31 Sランク

れい……我が力の一部を授けよう。これであの忌まわしい天使を退けるのだ」


 魔法陣から漏れ出すサマエルの魔力が麗に注がれる。それを微動だにせず受け入れる。


「力は授けたぞ。さあ行け、麗」

「仰せのままに」


 木林はホウキに乗って祭壇を後にする。スマホアプリで消息を絶った塩田の元へと向かうために。




「クソッ! 今回もダメか! オイ高沢! 結界をぶち破るからお前も援護してくれ!」

「ひ……ひ……ひぃぃ!」

「高沢! クソッ! コイツもダメか!」


 塩田と高沢の周りに転がっているのは部下及び同僚の死体。散々もてあそばれたためか、欠損が著しい。

 高沢はもはや命令に従うことすら出来ない程恐怖で怯えきっていた。そんな彼を美歌は舐めまわすように半泣きの高沢の顔を見る。


「ギヒヒヒヒ……怖えよなぁ? 怖えよなぁ? オレの事がションベン漏らすくらいに怖えよなぁ?」


 もう駄目だ。絶望のどん底にいた高沢だったが神は彼を見捨てはしなかった。すぐそばの結界の壁がぶち割れ、篠崎しのざきとリリム達がやってくる。


「し、篠崎さんっ!」

「大丈夫ですよ。助けに着ましたからもう安心ですよ」


 いつものように張り付いた笑顔で篠崎は対応する。だが美歌を見るやその表情と口調は崩れる。


「また会ったな。美歌」

「美歌、だぁ? オレの事は美歌様と呼べよクソブタが」

「調子に乗るなよクソガキが!」


 篠崎は能力を発動させる。



 ≪歪曲門ディストンシェン・ゲート



 彼が念じると空中の空間に亀裂が入る。そしてその隙間からアパッチが現れた。


「ぶっ放せ!」


 篠崎が指示を送る。直後アパッチ下部に取り付けられた30mmチェーンガンが火を噴いた。隠匿用の結界をさらに破壊し、美歌に弾丸の雨が降り注ぐ。が、彼女の防御用結界を傷つけることはかなわなかった。


「もういい。ミサイルを放て!」


 篠崎は指示を出す。ならばと取りつけられた対戦車ミサイルを発射する。美歌を狙って一直線に飛び着弾、強烈な爆風と爆音をあげた。


「やったか……?」


 煙と炎が立ち込める中、純白の光球がヘリ目がけて発射される。それはアパッチのコックピットを直撃し大爆発を起こす。無論コックピットは大破、パイロットも即死だ。

 コントロールを失ったヘリはきりもみ回転しながら落下していき、墜落、横転、炎上した。爆炎と煙が消えると、無傷の美歌が涼しい顔で立っていた。


「オイオイ。まさかとは思うがあんなオモチャごときでオレを止められるとでも思ってんのか? 甘えんじゃねえのか? アマアマだぜ?」

「野郎!」


 篠崎が口をギリリと噛みしめる。どうしたものかと考えていたところ、木林と乃亜一行が合流する。


「遅かったじゃないか!」

「うるさいわね! こっちだって全速力で駆けつけたんだから! それよりみんな! 配置について!」


 木林が地面に黒い光で魔法陣を描く。その頂点の部分がひときわ大きく光る。サバトの幹部たちがミストとリリムを中心として円陣を組む。


「LSJXNSUQBU……」


 木林が日本語として発音出来ない謎の呪文を唱え始める。すると塩田、乃亜、真理、篠崎、そして木林の5名を点とした五芒星の魔法陣が完成する。


「SPMRIFNIOKQDSUD!!」


 木林が詠唱を終えると中央にいたミストと長身の女目がけてエネルギーが一気に流れ込む!


「!?」

「うおおおお!? 何だこりゃあ!?」


 ミストが驚きの声をあげる。まるで身体に直接ハイオクのガソリンでも注入されたかのように強烈なパワーが身体中からあふれ出てくる。


「あんたたちに私たちの魔力を集めて授けたのよ。行きなさい!」

「おっしゃあ任せとけぇ!」

「任務続行します」


 ミストとリリムが同時に拳と剣で美歌へと立ち向かう。2人がかりで美歌の結界に打撃と斬撃を食らわす。最初こそ変化なしだったが数発殴った時点でピシリとひびが入る。


「なっ! テメエ、調子こいてんじゃねえぞ!」

「……ぐっ!」



 怒った美歌がミストに蹴りを食らわす。結界は破れた上に腕にびりびりとしたしびれを感じたが何とか受け止めきれた。前だったら結界ごと腕がブチ折れていたところだろうが今なら違う!

 2人は更に攻撃を加える。美歌の結界に入ったヒビは大きく、多くなり、やがて完全に結界はバリンと音を立てて砕け散った。


「な、何ぃ!?」


 結界がぶち割れた事に驚く美歌。直後、リリムがブロードソード状の魔力で出来た武器で美歌の右腕を切断した。切り離された腕が宙を舞い、ぼとりと落ちる。


「あんたたち、斬った右腕を潰しなさい! くっつけられない位に!」

「わかってらぁ!」


 ミストが全力で何度も何度も踏みつぶす。ぐしゃり、とかメキメキ、といった音が聞こえ骨と肉とが混ざり合う。やがて完全な挽き肉状態にしてもはや再生不可能な状態になるまで痛めつけた。リリムは手ごたえがあったのを見て少しだけ笑みを浮かべていた。


「お前らもやればできるじゃん。お礼にちっとはやる気出してやるよ」


 右腕を切断されたにもかかわらず涼しい顔をしている美歌が自らの魔力を結晶化した大鎌を空中から生み出す。それで斬りかかるが2人の結界を破れるほどではない。


「右腕斬り飛ばされててまだそんな余裕かよ。おめでてえな!」


 大鎌を振るうが片手だけで握っているせいか思うように力が入らず、威力は低い。これならいけそうだ。そう思って美歌とリリムと戦っている隙にミストが死角となる右側から襲い掛かろうとした、その直後だった。



 右腕の断面がボコボコと泡立ち、新しい腕が生えてきた。


「なっ!?」


 ミストは生えてきた腕に首根っこを掴まれ、空中に放り投げられる。そして地面に落ちて来る直前の最高のタイミングで両手で握られた鎌で腹を両断されてしまった。

 彼女は真っ二つに切断され、力なく地面に倒れる。分断された2つの身体はやがて紅い霧となって宙をふわふわと漂った。


「そんな……! 部位の再生なんて上位の悪魔でも難しいのに!」

「キャハハハ! その表情ツラ、見たかったんだぜ? ホラどうした!? もっと本気で怯えろよ!」


 美歌がわらった。ミストが怯える。リリムからもかすかな笑みが消えた。

 両手で握ることにより鎌の威力は何倍にも増した。彼女の結界をいともたやすく切り裂き、腕、足、そして胴体を両断していく。ワンサイドゲームだった。


「ぐはっ!」


 バラバラに切断されたリリムのパーツからやはりミストと同じように霧が噴き出て漂う。負けた。そう思った時美歌は大鎌を消した。


「もうおしまいか。ま、今日は少しは楽しめたから大目に見て見逃してやるよ。オレを倒す方法は次回までの宿題にしてやる。せいぜい無い知恵絞ってオレを楽しませてくれよなぁ? お前らは貴重なオレのオモチャなんだからよぉ?」

「美歌……舐めやがって!」

「えー? 何言ってんだお前。お前らもオレも見逃した方がお互いのためになって良いだろ? お前は死ななくて済む。オレはおもちゃを壊さずに済む。どっちも得するじゃねえか。じゃあな」



 そう言って飛び去って行った。


「助かったのか。俺達」

「完全に負けたけどね」


 完全に負けたのは精神的にキツイがとりあえず見逃してもらったことにはホッとした。警察のサイレンがこちらに向かって近づいてきたのを聞いて闇社会に生きる者たちはそれぞれの方法で散っていった。

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