刈リ取ル者としての生活

Scene.26 いじめは犯罪なんだよ

 学校に通ってる者にとっては長い夏休みが終わり、新学期が始まった頃。

 パソコンにプリンターをつなぎ、印刷を始める。1枚や2枚といった程度ではなく、十数枚も。


「よし。終わった」


 乃亜は指紋が付かないようゴム手袋をはめて印刷の出来栄えをチェックする。


「これらをテレビ局や新聞社の入り口に貼り付けてくれ。念のため監視カメラに映らない場所にしとけよ。念のためな」


 そう言って真理とミストに何枚もの印刷用紙を渡す。


「へぇ~声明文ねぇ。ま、いいんじゃないの? こういうの嫌いじゃないぜ」

「出来ればこれを見て悔い改めてほしいんだが……これだけやっても実際にいじめをやっている奴は変わらないんだろうな。そもそも奴らはいじめをやっているという自覚すらねぇだろうし」

「だったらこれやるなんて無意味なんじゃないの?」

「半分無意味だろうけどほんの少しでも効果があるならやるに越したことはねえって事さ。それにこれを見て依頼しようって人が増えればそれだけ人を救えるって事さ。そういうわけだ。頼んだぞ」


 真理と乃亜は≪超常者の怪力パラノマル・フォース≫で異形の姿となり、ミストは一応はゴム手袋をはめる事で指紋が紙につかないようにして、それぞれの目的地へと飛び立っていった。




 深夜のTV局の入り口。深夜番組の関係者以外はおらず早朝のニュース番組の関係者も出社していない時間帯。

 そこへ声明文を持った刈リ取ル者が現れる。とはいえ結界の中に隠れ、さらに≪光迂回ライト・ディトゥーアル≫で透明になっているので誰も気づかないが。

 彼は慣れた手つきで正面入り口前、かつ監視カメラの視界に入らない場所にガムテープで声明文を張り付ける。

 メディアの朝は早い。5時には朝のニュースが始まり、新聞の配達も始まる。一晩のうちに主要のTV局と新聞社を回らなければならないので時間との勝負だった。


 その日の夕方、さっそくTVが食いついてきた。


「今朝未明、各主要TV局ならびに新聞社に刈リ取ル者と名乗る者からの声明文が届きました。声明文は入り口前にガムテープで貼り付ける様にしておかれており、文章は全て同じとの事です。警察は悪質な挑発行為とし、犯人の特定を急ぐとともに声明文の分析、鑑定をしているとの事です」

「ただですねぇ。例え加害者側が悪いとしても命を奪っていい理由にはならないんですよ。命の尊さというものが何でわからないのかと本当に頭に来てるんですよ」


 ニュースキャスターのアナウンスの後に、自称コメンテーターは例えいじめの加害者であったとしても更生する機会を奪う行為は許されないとお決まりのようなことを言っていた。

 まぁ刈リ取ル者に加担するようなことは口が裂けても言えないだろう。そんな事言ったら確実に干されるのは目に見えている。


 更に数日後、週刊誌が食いついてきた。何と有り難い事に全文を公開してくれることになった。




「いじめは犯罪である。

 靴を隠せば窃盗罪だし傷つけたら器物損壊罪。

 暴言を吐いたら名誉棄損罪か侮辱罪。

 暴力を振るえば暴行罪あるいは傷害罪。

 金を脅し取れば恐喝罪。

 全て警察に逮捕され裁判所で裁かれるべき悪質な犯罪行為である。

 でもいじめなら何となく許される雰囲気がある。それが許せない。


 今まで殺処分してきた寄生虫共は罪の意識があまりにも希薄だった。

 いや、希薄なんてもんじゃない。皆無だ。0だ。

 どいつもこいつも相手が自殺しても「あいつが勝手に死んだだけでオレは何もやってない」と当たり前のように言っていた。


 悪いことをしている。という自覚があるのならまだ更生の余地はある。

 だが、そもそも自分は悪い事をしていないし、した覚えもない。と言うのなら

 もはや警察に突き出しても無駄だ。それ以前に本来悪を裁くべき警察すら

 いじめくらいで逮捕歴をつけるのは

 将来を奪う行為だから出来る事ならしたくない。と及び腰だ。


 だから俺がいる。法で裁かれない悪を刈る正義のヒーローである俺がいる。

 いじめられている犠牲者に告ぐ。

 我等に助けを求めよ。必ずや救いの手を差し伸べよう。

 人をいじめている犯罪者共に告ぐ。

 貴様らに呼吸をして良い場所はこの地球上にはどこにもない。

 貴様らの命をってその罪を償わせる。


 刈リ取ル者」




「ぐうの音でも出ない程の正論」

「よく言ってくれた!」

「刈リ取ル者の言う事に全面的に同意」


 週刊誌に掲載された犯行声明文を見たネットの反応は上々だ。

 やはり匿名なだけあって本音が出やすいし、「いじめ=悪」という単純な図式で安心して悪を叩く正義の味方になれるというのもあるだろう。

 それに、過去にいじめを受けて育った人も少なからずいる。そういう人には刈リ取ル者の声明文は力強く響くのだろう。


「ネットじゃ結構反響大きいねぇ。人間たちで言うスターっていうの? そんなのになった気分だなぁ」

「だろうな。これで仕事が増えてくれれば万々歳なんだが」


 乃亜達は反響の良さにとりあえず一安心した。




 一方その頃、警察署内ではあわただしく作業を進めていた。


「指紋は取れたか?」

「全ての声明文とガムテープを鑑定しましたが容疑者らしい指紋は取れませんでした」

「そうか。他に何か分かったことは?」

「インクからプリンターの機種は特定できましたが販売された数が多過ぎて特定できません。都内だけでも膨大な数になります。ネットで購入した可能性もありますし……」

「クソッ。手がかりなしか……」


「あ、そうそう。刈リ取ル者は複数の人数で構成されたグループだと思います。でないと1晩であれだけの数の……」

「そんなことは分かってるんだ! それ以外の情報はあるのか!?」

「い、いえ。特に何も……」


 刑事が苦い薬を口に含んでいるかのような顔でやり取りをする。


「刈リ取ル者め……絶対に捕まえてやる!」


 刑事達は決意を新たにする。だが追いかけている相手が人知を超える存在であるというものに気付けるものは結局誰一人として現れなかった。

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