In the Distant Past 31
*
「おぉあぁぁぁっ!」 外見は二十代半ばに見えるまだ若い
長剣の刃を踏み折ろうと足を撃ち下ろすいとまは無い――小さく舌打ちを漏らして、アルカードは肩口から仕掛けたタックルで若い吸血鬼の体を吹き飛ばした。
単純な
なすすべも無く背中から転倒した
おそらく彼らには
反応は悪くない、が――
続いて刺突を繰り出そうとするよりも早く横合いから攻撃を仕掛けられて、アルカードは追撃を断念して撃ち込まれてきた刺突を躱した。平
一撃で肩を叩き割らんとして繰り出した撃ち下ろしを、
「くぅっ!」 あわてて転身しながら
そのまま
その程度の
続く一撃で防御に翳した長剣ごと頭蓋を叩き割ろうと真直に剣を振り下ろす――より早く、横合いから飛び込んできた六十過ぎの外見の壮年の
その一撃で鋒を撃ち落とされて体勢を崩し、アルカードは
一瞬の躊躇も無く武器を棄てるというのは、敵としても予想外だったのだろう――手放した
それを見届けるよりも早く――アルカードは攻撃を仕掛けた。
長剣を両手で保持した
「がっ……」 右肘の関節を挫かれる寸前のところで、
それで関節技から解放された壮年の
繰り出すよりも早く右手首を掴んだ手を手首を返す様にして握り替え、今度は手首近くにある急所を千二百キロある握力で押し込みながら腕を肩越しに背中に捩じ上げる――急所を押し込んだときに力の入れすぎで手首の骨が砕けたらしく、右手の指の力が抜けて落下した長剣ががちゃんと音を立てて床の上で跳ね回った。
肩越しに手を背中に廻し、頭の後ろでもう一方の手で肘を掴んで広背筋と上腕三頭筋を伸ばすストレッチの動作から、伸ばす側の腕の手首を掴んで下側に引き下げた様な動きだ――技をかける側の体の位置によっては左手での肘撃ちやナイフによる攻撃はおろか、足で相手の足を踏んだり蹴ったりといった行動も含めて、まったく反撃出来なくなる。
「ッがぁぁぁぁッ!」 極められた肩が痛いのか、それとも握り潰された手首が痛いのかはわからなかったが、
右手のひとりが撃ち込んできた斬撃を翳した
ふっ――
鋭く呼気を吐き出しながら、アルカードは深く踏み込み様に水平に翳した
アルカードはそのまま背中に捩じ上げて肩を極めた右腕を手前に引きつけ――肩に力がかかって関節がはずれたのか、ゴキリという鈍い音が聞こえてきた――、捕まえた
倒れ込むより早く右手首を掴んでいた右手を放し、そのまま顔を掴んで後頭部から床に叩きつける――手にした曲刀で頭蓋をぶち抜いてとどめを呉れようとするよりも早く、先ほど吹き飛ばしたふたりの
全方向から六人――相手が騎兵ならどうとでもなる数だが、歩兵が同時に六人となると一度に捌き切れる数でもない。
小さく舌打ちを漏らして、アルカードは床を蹴った――状況打開のために敵に突っ込んだりはしない。それをするためにはすでに敵との間隔が詰まりすぎている。
が――
「――ぎゃああ!」
残る仲間たち全員に切り刻まれて、背中から突き飛ばされた
前述したとおり、貯水槽の原液の補充とその供給の停止はフロートバルブによって行われている――貯水槽の液面が上昇すると水面に浮いた
したがって、貯水槽の構造物が破れて水が流出すれば、原液の供給が止まらなくなる――周囲には流出した大量の調製培養液の原液が存在し、先ほど02を釜茹でにするため熱湯に変えたときに発生した大量の水蒸気も存在している。
つまり――レベル4
靄霧態に変化し、包囲網の外側で再び人間態に戻って――手近にいた
合計五人の
無論、霊体武装や霊的武装を所持していれば
これが
だが――
胸中で咆哮をあげ、アルカードは床を蹴った――手前にいた二十代後半の若い女の
ぐぇ、というお世辞にも色気があるとはいえない悲鳴をあげて、女が顔面から床に倒れ込んだ。
「ちぃぃぃぃっ!」 背後から殺到してきたふたりの若い男の吸血鬼が、こちらの腰元あたりを狙って刺突を繰り出す――若干遠間に過ぎた攻撃ではあるが、
だが――
「――な!」
すでにこちらを捉えたものと確信していたのだろう、目標を失った剣の鋒が互いにぶつかり合って火花を散らすのを目にして、ふたりの吸血鬼が驚愕の声をあげた――さもありなん、こんな蝿の止まりそうな遅い刺突など問題にもならない。彼らが刺突を繰り出してからそれがアルカードの体に触れるまでの瞬きする間もない刹那の時間に、アルカードははるか遠くに跳んでいる。
「馬鹿な――」 世迷言を無視して、アルカードは再び間合いを詰めた。疾走しながら、右手で保持した
ふたりまとめて斬り斃そうと
再び体勢を立て直し、まだ長剣を強振する攻撃動作が終わらないまま顔だけをこちらに向けた女の
女が残った左目を殺意に爛々と輝かせながら眼球に喰い込んだ物体を引きずり出し、叩きつける様にして足元に投げ棄てる――銀色の五百円硬貨が、床の上で一度だけ跳ねて澄んだ音を立てた。
唇をゆがめて笑ったとき、視界の端で若い吸血鬼が長剣を振り翳すのが見えた。その刀身が紅い激光を放ち、パリパリと音を立てて電光を纏わりつかせる。
あれは――
ひぅ、という軽い風斬り音とともに、攻撃態勢に入った
しっ――歯の間から息を吐き出しながら、アルカードは
解き放たれた
急激な気圧の変化によってレベル4
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