第17話 文化祭が始まりました
今日は待ちに待っ……てはいない、文化祭の日だ。
人が多い、帰りたい。
1日目は学内だけでの文化祭だけど、全校生徒が学校内を歩き回っている。
誰が1年生で誰が2年生で誰が3年生だか分からない。
うかつに声かけたくない。
「佐倉、こういうの苦手だよね」
隣を歩いている姫川に言われてしまった。
「ああ、こういうのっていうか……うん、人混みは苦手なんだ」
「前からそうだよね。手でも引いてあげようか?」
「べ、別にいいよ」
今、俺はなぜか姫川と2人で文化祭を回っている。
うん、どうしてこうなった?
「佐倉、うちチュロス買いたい」
「おう、いってら」
「行ってくる」
倉持は図書委員の仕事、多々良と佐々木と秋川はクラスで店番だ。
ヒマなのが俺だけという……。
「はい、佐倉の分」
チュロスを買った姫川が、俺の分もよこしてきた。
「俺今日は全然金持ってきてないぞ?」
「いい。付き合ってもらってるから、これおごり」
「あ、ありがとう……」
付き合ってもらってるっていうか、お互い暇だから一緒に行動してるだけなんだけど……。
「姫川は人混みとか大丈夫なのか?」
「朝は、鳥人もそうだけど、飛んでいる鳥も多いから空も混む。人混みは、平気」
「そうか……」
「うちは、人混みより、人前に出る方が緊張する。だから、佐倉はすごいと思う」
「何が?」
俺なんかすごいことしたっけ。
てか高校は行って人前に出たことってないんだけど。
「うちなら、ミスコンとか、絶対に出れない」
「俺もあれは自主参加じゃないんだよなあ……」
推薦で勝手にエントリーされてしまっただけ。
別に人前に出るのが得意というわけじゃない。
「佐倉、ああいうのやってみない?」
姫川が指差した先に、コスプレ撮影所というものがあった。
どうやら7組……女子クラスの出し物らしい。
「へー、コスプレして写真が撮れるのか」
「佐倉、イケメンだしかっこいい服着ればいい。一緒に撮ろう」
「姫川と?」
「多々良との方がいいか」
「いや、姫川がやりたいんなら俺はいいぞ?」
「……じゃあ、行こう」
姫川と一緒に7組の教室に入る。
「わっ!佐倉くんだ!いらっしゃい!」
女の子が近づいてくる。
俺はキミのことは知らないんだけども……。
「佐倉くん顔がいいからかっこいい服にしようよ!選んで選んで!」
「うちはどれにしよう」
「えーと、4組の姫川さんだよね。姫川さんもかっこいい顔してるし、身長高いからかっこいい服とか似合いそう!佐倉くんへのおすすめは……これ!」
知りもしない女子に勝手に服を決められてしまった。
なぜだ……。
「写真撮るからそこで着替えてね!」
着替え用の小部屋に押し込まれる。
ご丁寧にカーテンまでついてる。
へー……騎士の格好ねえ。
なんだ、剣も持つのか。
姫川はどんな服だろう。
顔立ちはすっきりしているし、短髪も相まって姫川はかわいいというよりかっこいいといった感じだ。
「んっ、羽が……」
「あ、じゃあ姫川さん、これ着るといいよ!羽が出せるようになってるから!」
「ありがとう」
姫川の声が聞こえてくる。
腕と羽が両方あるとある意味大変そうだな。
「こんな感じでいいのか?」
着替えて教室に入ると、キャーという歓声が上がった。
「佐倉くんかっこいいよ!いいねいいね!」
おおふ、かっこいいと言われちゃった。
でもこの空間は女子しかいないから緊張しかしない。
早く写真を撮ってこの教室を出たい。
「お待たせ佐倉」
姫川が着替えて出てきた。
姫川も、俺と同じような騎士の格好をしていた。
身長高いから本当に似合うな……。
「なあ姫川、俺姫川が持ってる剣がいい」
「え、これ?佐倉がそういうなら、交換しよう」
姫川が素直に交換に応じてくれた。
俺の剣は細身のレイピアで、姫川の剣は反りの入った片刃のサーベル。
俺サーベルの方がいい。
「ほら、姫川はレイピアの方がいいよ」
「そういうもんかな」
「2人ともかっこいいよ!ほらほら、写真撮ろうよ!」
テンションが上がった女子に連れられ、カメラを構えられた。
「ポーズはどうする?こんな格好だし、せっかくならかっこいい感じにしないか」
「いいぞ、どんな感じにする?」
「斜めに向かい合って、剣を合わせよう。2人の騎士の誓いのようでかっこいい」
「あれ?姫川、そういうの好きなんだ?」
「……悪い?」
「そんなこと言ってないんですが」
7組の教室を出た後、1年4組の出し物である休憩所に来た。
休憩所というだけあって、休憩して話しているだけでもいいし、頼めば飲み物も出てくる。
なんとも斬新な出し物だ。
「うーん、確かにこの写真はかっこいいな……」
さっき現像してもらった写真を眺める。
俺も姫川も、騎士の格好をしている。
俺の髪の毛は黒、そして姫川の髪の毛は白。
対比的な感じがなんとも良い。
「ほら、姫川の分の写真もあるぞ……姫川?」
姫川は黙ってずっと何かを考えていた。
「どうかしたのか?」
「騎士の設定を考えてた」
「……設定?」
「彼らは、同じ孤児院で育った幼なじみ。2人とも剣術に秀でていて、良き友人であり、良きライバル。その強さを認められて、王国騎士団に入団、その後も、他国へとその強さを轟かせ、いつしか彼らは2人合わせてこう呼ばれるように―――疾風迅雷、と」
こいつは何を言っているだろう。
「佐倉の方が疾風、うちの方が、迅雷……」
だせえ。
「……なあ、姫川ってそういう……ちゅ」
「聞かなかったことにして」
「いまさらそんなこと言われても」
忘れられないわこんなの。
というか姫川がそういうキャラだとは思ってなかった。
「厨二……というか、かっこいいのが好きなのか?」
「……そう。まあ佐倉は幼なじみだし、こういうのを受け入れてくれるかなあと……引いた?」
「いや全然?」
「ならよかった」
表情は全く変わらないが、安心したという感じがちょっと伝わってきた。
こいつほんとに表情硬いなあ……。
「昔から、かっこいい騎士とか、そういうの大好き。さっきの騎士をやってる佐倉、結構かっこよかった」
「惚れちゃう?」
「かっこよかった」
そういうことではないらしい。
「自分のこういう……騎士の姿も、自分じゃないみたい。かっこいい」
「確かに姫川の騎士の姿もかっこいいよな……苗字に姫ってつくけどな」
「うち、可愛いのとか、あんまり興味ない」
大人しくてかっこいい系女子が実は少女趣味とか、結構いいなとか思うけど、どうやら姫川はそうではないらしい。
純粋にかっこいいのが好きなんだな。
「さっき、写真を見てちょっとテンションが上がっちゃった。うち、この写真大切にする」
「そういや、男装コンテストとかいいんじゃないか?」
「……人前に出るのも、写真が貼り出されるのも好きじゃない。目立つの、好きじゃない」
「そっか」
「それに、学校の男装コンテストは男子の学生服を着てちょっと男っぽく見せるだけ。違う」
違うってことは、やっぱりさっきみたいなコスプレの方がいいということか。
「うちの騎士のコスプレ、似合ってたでしょ?」
「ああ、男の俺でもかっこいいと思ったな」
「……」
姫川の顔が少しだけ赤くなった。
おお、珍しい。
「まあでも、佐倉のかっこよさには敵わない。佐倉は、見た目は本当にかっこいい」
「なあ、それだと中身がかっこ悪いみたいに言われてるようなんだけど」
「人付き合いが苦手で、勉強も得意じゃない」
「ぐっ」
「初対面、特に女性とは何を話していいかわからなくなるとか……見た目とのギャップが大きい」
散々な言われようだ。
ただし当たっているので何も言えない。
「てか、見た目とのギャップってなんだ」
「チャラ男系のイケメンは、人と話すのが得意、それで、気になった女の子はすぐにお持ち帰りしちゃう」
「ねえ、俺の見た目でそんなイメージ持たれるの?」
だいぶ心外だ。
チャラ男系って……。
「まあ、冗談。佐倉は、人当たりのいいイケメンのイメージ。お持ち帰りとか、できそうに見えない」
「それならいいんだけどな……?」
「うちは、佐倉のお持ち帰りの対象に入っちゃう?」
「何言ってんだ!?」
さすが高校生!
そういう話に興味あり気のお年頃ですね!?
なんて破廉恥な!
「そんなことしねえよ」
「……そう、女の子的に、どうなんだろう」
「さあな」
俺は女の子じゃねえし。
「まあでも、佐倉は多々良が大好きだもんね」
「だ、大好きって……」
いやまあ好きだけど。
Side 多々良
「ユキちゃん交代!」
「はいよ~、よっしゃ店番だ倉持」
「分かった、今は何が売れてる?」
「案外塩おにぎりが人気だな」
店番を交代し、フリーの時間になる。
今日はユキちゃんとは一緒に行動できないみたい。
その代わり、明日はユキちゃんと一緒に文化祭を回ることになっている。
「佐々木っちとアッキーはどうするの?」
「俺はサッカー部のマネージャーと回ることになってる」
「ありゃ、佐々木っち、もしかして彼女?」
「んー……」
曖昧な返事をする佐々木っち。
なんだ、そういうことじゃないのか。
「俺は後輩に一緒に回ろうって誘われた」
「アッキーも彼女?」
「後輩であって彼女じゃないかな~、というか、佐々木のも彼女じゃないでしょ」
ありゃりゃ、佐々木っちとアッキーにフラれちゃった。
どうしようかなー、誰かが近くにいないと危ないって前ユキちゃんに言われちゃったからなー。
誰か、一緒に回ってくれる人はいないかなー。
ユキちゃんも、シフトが終わったらミスコンに参加しちゃうし。
「……あ!
5組の教室の前に、綺月が立っていた。
でも、声をかけたけど反応がない。
嬉しそうに、何かの写真を眺めている。
「綺月ー?」
「……あ、多々良。どうかしたの?」
なかなか表情の変わらない顔で、こちらの顔を見下ろしてくる。
鷲と人間の混血である綺月は、身長が非常に高い。
身長184㎝の綺月は、たたらからするとものすごく大きい。
「みんにゃ文化祭一緒に回ってくれにゃいの。綺月、一緒に回ろう?」
「うちは最後に残った選択肢?」
「そういうわけじゃにゃいから!」
というか、さっき見ていた写真が気になる。
表情を変えない綺月が、珍しく微笑んで嬉しそうに見ていた写真。
なんなんだろう?
「ねえねえ綺月?」
「なに?」
「その写真、にゃにが写ってるの?」
「見たい?」
何その返答。
見ない方がいいってことかな。
「見たい!」
それでもたたらは見たい!
「これ、さっき撮った写真なんだ」
綺月がさっき嬉しそうに眺めていた写真。
中身は、ユキちゃんと綺月のツーショットだった。
「かっこいいでしょ?」
2人とも、騎士のコスプレをしている。
確かに、すごくかっこいい。
「どこで撮ったの?」
「7組のコスプレ撮影所だよ」
「ユキちゃんも綺月も、楽しそうだね!」
「ああ……佐倉と一緒に文化祭を回っていたんだ」
……ユキちゃんが?
ちょっと意外かもしれない。
ユキちゃんと綺月が2人きりでいることなんてめったにない。
それも、文化祭を一緒に回るなんて……。
「とってもかっこいい写真だね!」
「でしょ?騎士姿の佐倉、すごくかっこいい」
……ん?
「綺月もかっこいいよ?」
「そ、そうかな?ありがとう」
「綺月、ユキちゃんとにゃにかしゃべったの?」
「ああ、うちの話をいろいろ聞いてもらったよ。佐倉、話を分かってくれる」
ユキちゃんったら、綺月とずいぶん仲良くしたみたい。
「―――佐倉に対する好感度が、少し上がった」
少し恥ずかしそうな、うれしそうな顔をする綺月。
……なんだろう、こんな綺月、初めて見たかもしれない。
「にゃ、にゃに?綺月ったら、ユキちゃんのこと好きににゃっちゃったり?」
「……どうだろね、うちは、誰が好きとかはあまりよく分からないから」
う、嘘だ。
色が分からなくても、これは分かる。
綺月が、見たこともないような顔をしている。
「話の分かるやつだ、とは思ったかな」
「そ、そうにゃんだ……」
感情表現の苦手な綺月のことだし、もしかしたら本当に分かっていないのかもしれないけど、多分本心では……。
そ、そっかー……。
「じゃあ、一緒に回ろうか多々良。人が多いし、多々良の身長では危ないから、うちが負ぶってあげる」
「あ、ありがとう」
綺月におんぶされて、学校内を歩き回る。
いつも、ユキちゃんにおんぶしてもらっている時よりも視線が高い。
「大丈夫?重くにゃい?」
「ああ、多々良なら全然重くないね」
24㎏でも普通に重いと思うんだけど……。
「多々良、元気ない?どうかした?」
「え!?そ、そんにゃことにゃいよ!?」
さすが鷲、目つきも鋭ければ勘も鋭いのかな?
でも、ちょっとびっくりしただけで元気がないわけじゃ……。
実際、ユキちゃんのことは嫌いじゃないけど、お付き合いとかそういうのは、まだちょっと考えにくい。
でも、一緒にいたくないのかと聞かれたらそんなことは全くない。
実のところ、たたらも自分の気持ちがよくわかっていないところがある。
自分の気持ちが分からないくせに他人の気持ちに気付いて動揺するなんて、たたらはなんてめんどくさい子なんだろう……。
「多々良、アイス売ってる。食べよう」
「……」
「多々良?」
「へっ!?アイス!?ああうん、アイスね!食べよ!」
まずい、この場はいろいろ考えないようにしないと。
誰が誰を好きとか、気にしてちゃダメだ。
だってね、好きになっちゃうのは仕方がないことだもん。
「多々良、何食べる?」
「オレンジのアイスにしようかにゃ」
「じゃあうちはストロベリーかな」
綺月ったら、ほんとにベリー系のアイスが好きなんだね。
ユキちゃんは、きっとバニラのアイスを選ぶんだろうなあ。
って、さっき考えないって決めたのに!
「多々良、やっぱり調子悪いんじゃ?」
「だ、大丈夫だから!にゃんでもにゃいよ!」
今日は文化祭、楽しくやりたいのに……!
「き、綺月はアイス大好きだよね」
「うん、アイスは大好き。冷たくて、おいしい」
無表情からほとんど変わることはないけど、アイスを食べている時の綺月はなんとなく嬉しそうだ。
さっきとは違う嬉しそうな顔だ。
さっきのは……そう、なんというか、女を感じさせるような表情。
多分、多々良がしたことないような表情だと思う。
「多々良、早く食べないとアイス溶けちゃうよ?」
「あっ!」
「多々良、やっぱり体調悪いんだよね?」
「そ、そんにゃことにゃいって!その……ちょっと考え事してただけだから!」
「それならいいんだけどね?」
アイスを食べ終わって、また綺月に背負ってもらう。
「多々良、どうやったらそんなに胸が大きくなるの?」
「えっ」
綺月がいきなりそんなことを聞いてきた。
「そんにゃこと聞かれても……自然とおっきくにゃってただけだよ?」
「そうか……ほら、うちは全然ないからさ」
確かに、他の女の子と比べると綺月の胸は小さいかもしれない。
でもそれは鳥人全体の特徴だ。
なぜなら飛ぶために空気抵抗を抑えた体つきになるから。
だから、綺月も
「仕方ないとはわかっているんだけど、幼なじみが大きいと、少し気にしちゃうな」
綺月が肩をすくめた。
そういえばユキちゃんはどうなんだっけ。
女の子の身体とか、興味あるのかな。
うん、たまに多々良を背負ってる時に黒く見えることがあるし、多分興味あるんだろう。
「いったん戻ろう」
そういって、綺月は2年5組に向かって行った。
「うん?たたらたちの教室?」
「うん」
店の前の受付じゃなくて、教室の中へ入っていく。
「あれ、姫川どうしたんだ?」
「佐倉、多々良の体調が悪いらしいんだ」
「えっ、多々良、大丈夫なのか!?」
ユキちゃんが慌ててたたらのおでこに手を当てる。
「熱はなさそうだな……多々良、どこが悪いんだ?」
「べっ、別にどこも悪くにゃいよ!綺月が早とちりにゃだけ!」
「そう?多々良、なんか調子悪そう」
そ、それは綺月のせいで……!
……いや、綺月のせいじゃない。
こんなの、勝手に多々良が動揺してるだけだ。
綺月の変化に、戸惑ってしまっているだけだ。
「ほ、本当ににゃにもにゃいから!それに、ユキちゃんはもうすぐミスコンに参加しにゃきゃいけにゃい時間でしょっ!」
「あ、本当だ。倉持、俺行ってくるわ」
「任せろ。もし1位に輝いたら僕らで祝ってやる」
「おう!というわけで、多々良のこと頼めるか?姫川」
「ああ、うん。多々良も体調悪いわけじゃないみたいだし……ミスコン、見に行く」
「うわあ、恥ずかしいなあ」
Side 幸
『さあ始まりました!平成26年度、雛谷高等学校ミスターコンテスト、ミスコンテストを開催しまーす!!』
歓声が沸き起こる。
ステージの上に立つのは緊張するなあ……。
ステージの上に立っている学生は、書類審査でファイナリストに選ばれた男女4人ずつ、計8人だ。
おおう、みんな緊張してなさそうだな……。
てか、俺は男子の中で一番端に立っている。
ただし、男子の一番端といっても、みんなから見れば真ん中だ。
そう、隣はファイナリストの女子だ。
しかも、よりにもよって……。
「あ、佐倉くんだ」
「どうも……」
隣に立っているのは、学校一の美少女、
うわあ、近くで見ると本当に超美人なんだなあ……。
「あらら、緊張してるね?」
「こ、こういうの初めてで……」
「いくつか質問されるから、その質問にちゃんと答えられるようにできれば大丈夫だよ」
ニコッと笑いかけてくる凜先輩。
ああ、こういうの慣れてるんだろうなあ……。
『ファイナリストに選ばれたのはこの8人!まずは男子!1年2組
笑顔を心掛け、お辞儀をする。
女子からキャーという声が上がった。
これ、一部は俺に向けられているんだろうか……。
『続いて女子!1年3組
男子からウオーッ!!という声が上がる。
女子のファイナリストが1年生しかいない理由は、おそらく凜先輩がいるからだろう。
多々良が言っていたが、2年の生徒はほとんどが出場を辞退しているらしい。
というか、1年生にはこんなきれいな子が3人もいるのか。
凜先輩が卒業した後はすごそうだなあ……。
『さて!では質問に入っていきたいと思います!そうですねえ、端っこから行きましょうか!』
司会が一番端に立っている男子にマイクを向けた。
秋野くんだったっけか。
緊張してきた。
「大丈夫大丈夫、リラーックス」
凜先輩が声をかけてくれる。
「じゃあ次は佐倉くんに質問していきましょう!」
あっという間に俺の番!?
ちょっと待ってくれ、そんなに時間たった!?
「さあ佐倉くん、クラスと名前を教えてください!」
「はい、2年5組7番、佐倉幸です」
これでいいのか。
「ありがとうございます!このミスコンにかけた思いとか、ありますか?」
思い……。
「みんなが俺のことを選出してくれたんで、みんなの期待に応えたいと思ってます!」
これでいいのか。
「じゃあそうですね……今、彼女はいたりしますか?」
「今彼女はいませんね」
一瞬、女子たちがざわついた気がした。
「じゃあ、好きな人はいますか?」
好きな人か……。
いることにはいる。
でもなあ……この場で言うの、恥ずかしいんだよなあ。
なんでかって、今視界にいるからだ。
う~ん……。
「い、います」
また、女子がざわついた。
視界の端で、2人ほどびっくりしているのが見えた。
「おおっとこれは重大発言!佐倉くんの心を射止めている女の子は誰なんでしょうか!」
うるさい。
「へぇ~、佐倉くん、好きな人いるんだ」
凜先輩がにやにやしている。
この状況でにやにやしてるって、場慣れしすぎでしょう……。
「じゃあそうですね……好きな漫画とか、ありますか?」
「漫画……悠久のアクアリオでしょうか」
私も好きー!という声が聞こえた。
「では異性に関する質問を……異性の最初に見る身体のパーツは?」
うおお、答えづらい質問。
「ああ……あの、実は初対面の人と話すのちょっと苦手で……最初は肩辺りとか、見ちゃってますかね……」
やべえこの答え照れる。
キャーという声が上がった。
なんで声が上がったんだ。
「では趣味はありますか?」
「今のところ趣味っていうのはなくて、これから見つけていけたらと思っています」
笑顔!笑顔を心掛ける!
「見つかるといいですね!では最後!将来の夢とか、ありますか?」
将来の夢か……。
「そうですね……特にこれがやりたい!っていうのはないんですけど、仕事に就いて、家庭を持って、子どもと一緒に明るい家庭を気付いていけたらいいなと思ってます」
やりたいことが決まっていない以上、いいことを言えた気がした!
「ありがとうございました!2年5組、佐倉幸くんでした!」
よし終わった!終わった!
「さて、男性への質問は終わりましたね!みなさんは誰に注目してますかー!?」
女子から大きな声で男子の名前が挙がる。
やべえ、俺の名前も呼ばれてる……。
「さてさて、次は女性への質問と行きましょう!まずは去年のミスコン優勝者にお話を聞いてみましょう!」
男子からまた大きな声が上がる。
「今年も参加ありがとうございます!クラスと名前を教えてください!」
「3年5組22番、天明凜です!」
「はいありがとうございます!今年の参加に対する思いとか、ありますか?」
「去年、優勝したんですが、今年も出てみないかと言われて、参加を決意しました!だからみんなの期待に応えたい……となりの佐倉くんと同じかな!」
司会にニッコリと笑顔を向ける凜先輩。
すると、ウオーッという声と、佐倉てめえコノヤロー!!という声が男から聞こえてきた。
男、怖い。
「じゃあ去年と同じ質問しちゃいますね!彼氏とかできました?」
「できませんね~」
「即答!男性の皆さん聞きましたか!学校のマドンナには彼氏はいないようですよ!」
また男子からウオーッという声が上がる。
たぶん凜先輩が何を答えてもこの声が上がるんじゃないか。
「好きな人、できました?」
「そうですね~、気になる人、はできたかな?」
男子からギャーッという声が上がった。
この学校で一番の美少女と言われる凜先輩。
そんな人に気になる人ができたという。
男子は自分を指さして、「俺か?」みたいな、淡い期待を抱いている。
「ただ、私自身今まで彼氏なんてできたこともないですし……気になっているんだけど、これがどういう気持ちなんだろうな~って、自分で考えてます」
「なんと!今まで一度も?」
「そうなんですよ~」
「いやー!もし私が同じ高校生なら、思わず突撃しにいっちゃいますね!」
「あ、あはは……」
会場が変な笑いに包まれる。
「にしても、去年に引き続き、すごい美貌ですね!保つ秘訣はあるんですか?」
「秘訣……お菓子をあまり食べないようにしてることと、お風呂上りに化粧水を使ってるくらいかな?」
女子から嘘だー!という声が上がる。
確かに、それだけでその美貌はすごいが……。
「天明さんは、好きな漫画とかありますか?」
「今まで言ったことないんですが……実は、私も悠久のアクアリオ、読んでるんです!」
男子から歓びの声が上がる。
そうだよな、俺も読んでるけど、男子とか特に読んでる人は多いよな。
凜先輩も読んでるのか。
「では、最後に何か一言お願いします!」
「いつもは喫茶店『エメラルド・エア』でバイトしてます!売り上げのために、みんな来てね~♪」
マイクを持って高らかに言う凜先輩。
男子から、行くー!という声が一斉に上がった。
凜先輩も何言ってるんだとは思うけど、それに乗せられる男どもも男どもだ。
「はいありがとうございます!それでは次!苫米地結奈さん!いやー、珍しい苗字ですね!」
「そうですね、いつも言われますね~」
凜先輩、すげえな。
ハキハキしゃべるし、笑顔も忘れないし、この人慣れすぎでしょ。
たぶん何度も壇上に上がってしゃべってるんだろうなあ……。
「緊張してる佐倉くん、可愛かったよ?」
「うれしくないっすね……」
Side 多々良
そっか、ユキちゃん、好きな人いるんだ。
誰なんだろう、ちょっと気になる。
「佐倉の好きな人、多々良なんじゃない?」
「やだにゃあ綺月、そんにゃことにゃいと思うよ」
もしかして、ユキちゃんの好きな人って、綺月だったりして……。
……もし、ユキちゃんに彼女ができたら、たたらは邪魔になっちゃうよね。
普段から、ユキちゃんにしてもらってることを、ひとりでしなくちゃいけなくなるんだよね。
大変そう……そう考えると、ユキちゃんの存在って大きいなあ。
「うちは、佐倉の好きな人は多々良だと思ってる」
確かにこの前、ユキちゃんにいきなり好きだと言われた。
でもあれは、多々良を焦らせようとしていたんだよね。
あれ、本心じゃないんだろうなあ……。
でもあの後、ユキちゃんに抱きしめられた。
あれはさすがに焦った。
でも、ユキちゃんは嬉しいことを言ってくれたんだよね。
でもでも、それと好きとは、違うんじゃないのか。
なんだか今日、悩みっぱなしだなあ……。
「多々良、佐倉のことになると結構悩んじゃう?」
「えっ!?」
綺月がかがんで、たたらの顔を覗き込んでいた。
「にゃ、にゃんで?」
「なんか今、多々良がめんどくさいことを考えてるような顔をしてる……ような、気がした」
「めんどくさいことって……」
自分のこと、めんどくさい女だなって思っただけで……。
「ほらその顔」
「にゃっ」
おでこをつつかれた。
「綺月、たたらがにゃにを考えてるか、分かるの?」
「いやいや、何を考えてるかまでは分からないけど……今日元気なかったのも、何か悩んでたからなんでしょ」
「ま、まあ……」
「さっき、佐倉が好きな人がいるって言った瞬間、多々良の顔が変わった。だから、今日悩んでたことは、佐倉のことなんだろうなあって」
す、鋭い……。
「驚いた顔をしてるね」
「そ、そこまで言われちゃったらね……」
「……まあ、佐倉と多々良は幼なじみだけどさ、うちとも幼なじみだってこと、忘れないでほしいかな?」
そ、そうだよね……。
クラスが違うから、最近話すことが少なくなってたけど、綺月だって小学校のころからずっと仲いいんだもん。
それに、綺月は鋭いところがあるから、何かわかっちゃうのかもしれない。
「好きな人がいるって言っても、多分、佐倉の中の一番大きい存在は多々良だと思うよ。もし気になるんだったら、佐倉に直接聞いてみればいいんじゃない?」
「ちょ、直接かあ……」
それは勇気がいるなあ……。
それに、たたらはユキちゃんの彼女ってわけじゃない。
図々しくないかな。
「ほらまた何か考えてる」
「あうっ」
綺月に優しくチョップされた。
あんまり、考えすぎるなってことかな。
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