第18話 文化祭が始まりました 2
「さてさて!平成26年度、雛谷高等学校ミスター&ミスコンテスト!栄えあるミスター雛谷とミス雛谷に輝くのは、いったい誰なのか!!結果発表に移りたいと思います!」
やべえ、そろそろ壇上にずっと立ってるのもきつくなってきた。
視線がずっとこっちに向くのが辛すぎる。
「ただいま審査中ですー!おや?佐倉くん、なにやら緊張していらっしゃいますか?」
マイク向けんなこの司会!
絶賛緊張中だっつんだよ!!
「こ!こういう場に立つのは初めてで!とっても緊張してます!」
「なんと!佐倉くんはみんなの前に立つなどは苦手なご様子で!」
しっかりしろー!という男子の声と、かわいいー!という女子の声。
可愛いっていう誉め言葉はいらない。
「さて、どうやら決まったようですね!ではまず男性から行きましょうか!今年のミスター雛谷は……」
ドゥルルルルルルルルというドラムロールが流れる。
ちょっ、こういう時に唐突にスポットライトが動き出すとか聞いてねえ!
まぶしい!
デンッ!
「2年5組!佐倉幸くんです!」
俺かー!?
こんな俺が選ばれていいのか!?
審査員さん見る目ありますか!?
たぶん他の人と比べて質問の対応とかガチガチでしたよ!?
てかスポットライトの一点照射をやめないか!
熱いしまぶしいです!
「さあでは次は女性ですね!今年のミス雛谷は……!」
またドラムロール。
ただ、女子の優勝はなんとなくもうわかってしまう。
圧倒的だもんなあ……。
デンッ!
「3年5組!
やっぱりか!
男子から本日何度目になるのか分からないウオーッという声。
いい加減うるせえですね。
というか、スポットライトをガンガン浴びて全く動じない凜先輩すげえ。
去年のミス雛谷もこの人だし、なんだか貫禄あるなあ。
身長はそんなに大きいわけじゃないけど、なんだか大きく見える、気がする。
「それではミスター雛谷、佐倉くんに話を伺ってみましょう!いかがですか?」
まだあんのかよ!
もういいよインタビューは!!
「いやー、みんなが僕のことを選出してくれたおかげでミスター雛谷になることができました!2年5組のみんなありがとう!!」
これでいいだろ!
もう帰りたい!!
「はい!ありがとうございます!佐倉くんは2年生なので、また来年も参加することができますね!」
もうやらんわ!
みんなの前に立つとかやっぱり無理!!
「それでは天明さん、最後の文化祭、ミス雛谷に輝くことができましたがいかがですか?」
「最後の文化祭でこんな素敵な思い出を作ることができてうれしいです!私のことをミスコンに出ないかと言ってくれたみんな、ありがとう!」
うん、優勝するとみんな言うことは一緒なのかな。
俺はもう来年は出ないぞ!!
「はーい、これで文化祭1日目は終了となりますー」
ミスコンが終わった後、クラスでHRが始まった。
今日は早く帰りたい。
もう疲れちゃったよ……。
「それでは佐倉くん、ミスター雛谷おめでとうございますー」
「はい、ありがとうございます」
「なんだか棒読みではないですかー?」
「そんなことはありませんよ」
「棒読みですー」
もういいよ!ミスター雛谷はもういいよ!
ちやほやされるのは慣れてないんだよ!
早く帰らせてくれ!
「よっ、学校一のイケメンくん?」
後ろから佐々木が背中をつついてくる。
「やめろ、一番じゃないかもしれないだろ?」
今回は出てないだけとか、可能性はある。
まあ、来年は絶対に出ないけどな。
「明日は一般参加もありますー。皆さんのご家族や、地域の方がいっぱい来ますので、高校生として恥ずかしくないようにしてくださいねー」
はーい、とみんなが反応する。
恥ずかしくないようにって、ただおにぎりを売ってればいいだけの話だろ?
今日みたいにミスコンがあるわけでもないし、楽勝だろう。
「それでは、明日は頑張ってくださいねー。お疲れさまでしたー」
「さようならー」
「なあ、明日の夜みんなで飯でも食いに行かねえ?」
佐々木がそんな提案をしてきた。
「みんなっていうのは、クラス全員か?」
「そんな打ち上げがあるんならとっくにみんなで企画でも練ってるだろ。俺と佐倉と倉持と秋川、あと多々良と姫川だよ」
みんなってそういうことか。
「多々良、どうする?」
「行くー!みんにゃとごはん、久しぶりだし!」
「倉持と秋川もいいよな?」
「うん、俺はいいよー」
「僕も、明日はバイト休みだから大丈夫だぞ」
となると後は姫川か……。
名前読んだら来るかな。
「姫川ー!」
「なに」
隣の4組の教室から、姫川が出てきた。
「明日、俺たちと飯食いに行かね?」
「佐倉たちと?」
「そうそう、6人で」
「いいよ、行こう」
「クラスの友達とか、大丈夫か?」
「クラスの打ち上げは面倒」
左様でございますか。
「多々良も行くんだよね?」
「うん、たたらも行くよ!」
「よし、じゃあ決まりだな!」
明日はみんなで夕飯か。
たまにはこういうのも楽しそうだ。
「そんじゃ帰ろうか」
「そだね」
多々良と手をつなぎ、学校を出る。
「この前後ろから見たら恋人みたいだって言ったけどよ、今は親子のように見えるわ」
「わっ……そうだよな、佐々木もこっちの方向だよな」
後ろから佐々木がついてきた。
おそらく倉持か秋川と話していて遅れたんだろう。
「まあ、多々良は仕方ねえよな、それが一番安全だ」
「うん、ユキちゃん、頼りになるし」
おやおや、デレいただきました?
うーん?なんかあまりテンションが高くなさそうだな。
「そういえば、姫川が多々良の体調が悪そうとか言ってたけど、本当に大丈夫なんだよな?」
「あ、うん、それは……うん、大丈夫」
「ほんとか?いつもよりテンション低くね?」
「たたらにだってそういう時はあるのー」
ぷいっと顔を背けられてしまう。
んー、さっき明日の夕飯を決めたときはちょっとテンションが高かったような気がしたんだけどなー。
これが難しいお年頃ってやつなのかなー。
「多々良、あんまり佐倉を困らせてやるなよ?」
「にゃっ、ゆ、ユキちゃんは関係にゃいよ!」
「ほんとかー?」
「……ほんとだもん」
え、なんか俺に関係あるの?
「あ、そういえば佐倉、ミスコンの時に好きな人がいるって言ってたよな!?お前アレ誰のことなんだよ~!」
「っ!」
多々良のしっぽが一瞬上がった。
そして何も言わず、こっちを見つめてくる。
「佐倉のことだし、多々良のことなんじゃねえのか~?」
「ちょっ!」
「えっ!」
本人の前でそれを言うのかこいつは!!
や、やめろ!
「おっ、俺は!あんまり初対面の女子とか苦手だしっ!あまり近寄って来てほしくないからそう言ったんだよっ!」
「ほんとか~?」
「……ほ、ほんとだよ」
嘘です。
本当は佐々木の言う通りです。
俺は小さい時からずっと、多々良のことが好きなんです。
ただ本人が本気にしてくれないだけで。
いつになったら俺の思いが伝わるか、少し楽しみにしてるんです。
だから!本人の前でそういうこと言うのはやめてください!
俺の言葉で俺が伝えたいんです!!
「にゃ、にゃんだ、そうだったんだ……ユキちゃん、好きにゃ人、いにゃいんだ……」
多々良が少し寂しそうに、それでもどこか安心したように、ほんの小さな声で呟いた。
「多々良、今何か言ったか?」
「え、にゃんもにゃいよ。ほら、早く帰ろうよ」
「え、え?」
多々良に手を引っ張られる俺。
佐々木はさっきの多々良の言葉が聞こえていたのか、にやにやしながら、俺と多々良のことを見ていた。
「お、いたいた、佐倉くんはっけーん!」
後ろから、声をかけられた。
振り返るとそこにいたのは……。
「り、凜先輩……?」
「そ、天明凜だよ!ちょっとお話ししたくなって、ついてきちゃったんだ!」
明るい笑顔でそういう凜先輩。
佐々木は、突然の凜先輩の登場に固まっている。
「とはいっても……あたし、邪魔かな?」
凜先輩が、多々良を見ながら言った。
「邪魔にゃんてことにゃいですよ。ユキちゃんとたたらは、ただの腐れ縁ってやつですから」
「そういえばキミたちは前喫茶店に来てくれたよね!もう何回か聞いたかもしれないけど、あたしは天明凜、よろしくね!」
「
「そうなんだ!うれしいなあ!……えっと、キミは佐々木くんだよね。さっき、佐倉くんの話を聞いてたよ」
「あ、はい!佐々木です!よろしくお願いします!」
佐々木がガチガチになりながら挨拶をする。
佐々木も美人には弱いんだな……。
「佐倉、固まってるぞ」
「ユキちゃんはいつもこんにゃ感じだよ」
ははは、俺も初対面の女性には弱いんですよ。
「え、えと、お話って、な、なんですか?」
「もー、さっき壇上ではちゃんと喋れてたじゃん!ほらリラックスリラックス!」
羽で背中をぺしぺし叩かれる。
「ほらユキちゃん、落ち着いてって」
多々良がぎゅっと手を握った。
初対面の人となかなか話せないこの性格、何とかしていかないと!
「まあ話っていうのは、さっきのミスコンの話なんだけどね?」
「み、ミスコン、ですか」
「そうそう!その時に佐倉くん、アクアリオを読んでるって言ってたよね!」
あ、そういうことか。
「アクアリオはいつもこいつに貸してもらってます」
「いつもたたらが貸してます!」
元は多々良が好きで、俺も読むようになって、俺も好きになったみたいなもんだからな。
「あ、そうなんだ!今度ちょっと話し合おうよ!連絡先、交換しよ!」
凜先輩がケータイを出した。
「はい!」
凜先輩と多々良が連絡先を交換する。
「ちょっと佐倉くん?キミの連絡先もちょうだいよ」
「俺もっすか」
「当たり前じゃん!」
ケータイを出して、連絡先を交換する。
俺の数少ない連絡先の中に、さらに数少ない女性の連絡先が追加された。
母親を女性と数えなければ、3人目だ。
「佐々木くんは、アクアリオ読んでる?」
「いや~、俺は読んでないっすね」
「なんだ~、それは残念。それじゃあ佐倉くん、多々良ちゃん、佐々木くん、またね」
凜先輩が去っていった。
そうか、凜先輩もアクアリオが好きなのか。
「……なあ多々良、俺もアクアリオ読んでみようかなって思うんだけど」
「いいよ!」
佐々木、分かりやすいなあ……。
「さ、300円のお釣りです!あっ、ありがとうございました!」
文化祭2日目。
今日は一般の人たちが来る日だ。
……つまり、俺のような初対面の人が苦手なヤツにとっては、最悪の日だ。
なんでおにぎり屋にしたんだろう。
しかも結構人気。
早く交代の時間になってほしい。
「ユキちゃん、接客業のバイトとかできにゃさそうだね」
「絶対やりたくねえ」
在宅ワークとかがいい。
あー、でもパソコンとかもそんなに得意じゃねえんだよな……。
「仕方にゃいにゃー、たたらが代わってあげるよ」
「大丈夫か?」
「色は分からにゃいけど、おにぎりは種類別に分けてあるし、大丈夫だよ!ユキちゃんはお金の計算をお願い!」
「申し訳ない!」
俺情けない。
ちゃんと話せるようにならないと……。
ちなみに多々良と一緒のシフトだが、佐々木と倉持と秋川は同じシフトではない。
俺たちの後が3人の仕事だ。
一緒がよかった……。
まあ、多々良と一緒でよかった。
「ユキちゃん、これが終わったら一緒に回ろうね」
「おう、行こうな」
「昨日、綺月と行ったところに行きたいな」
「ん?ああ、分かった」
あれ、俺昨日姫川とどこに行ったかとか言ってないんだけど……あ、姫川が教えたのかな?
「あ、はい!塩おにぎりですね!ユキちゃんお願い!」
「あいよ!」
うん、こっちの方が楽だ!
おにぎりって案外売れるんだな!
並んでる人多いな!
……おや?
並んでいる人の中に、なんだか見覚えのある人たちがいる。
すごい美人で、並んでいる人たちが全員一瞬立ち止まって見てしまうほどだ。
というか、人というよりは……。
「なあ多々良、あれって……」
「お釣り200円でございまーす!ありがとうございましたー!……あ、ウズメさんだね!」
何しに来てんのあいつ。
あれ、隣にツクヨミもいないか?
昼間に起きれるんだ?
客がすべて捌けると、並んでいたウズメたちが前に来る。
「こんにちは!見に来ました!」
「帰れ」
「幸さんひどいです!」
突然の超美人の来客に、クラスがざわつく。
「ウズメさん!にゃに買って行くの?」
「あ、おにぎりですね!お金はもらってきたので、おすすめをください!」
「おすすめかー」
正直どれもありきたりなおにぎりなのでおすすめと言われても困るだろう。
「ユキちゃん、どれにしようか」
「これでも渡しとけ」
昆布のおにぎりを2つ、多々良に持たせる。
「これ!200円ににゃります!」
「200円……これを2枚ですね!」
おお、この女神、金の計算はできるんだな。
「それでは私たちはこの学校というものを回ってみますね」
「ばいば~い!」
……ツクヨミが何もしゃべらなかったんだけど。
絶対眠かったんだろアレ。
きっとウズメが無理やり呼び出して起こしたんだろう。
結局このあと30分、客足が止むことはなかった。
「佐倉ー!交代の時間だぜ!」
「あとは僕たちに」
「任せろー!」
なんか変なポーズをして3人が現れた。
なんともノリのいいやつらである。
「ほらほら佐倉、お前は早く多々良とデートして来い」
「佐々木っちにゃに言ってるの!?」
佐々木がいきなりとんでもないことを言ってしまったせいで、多々良のしっぽがピーンと立った。
ついでに毛が少し逆立った。
え、怒るの?
俺嫌われてるの?
「多々良、もしかして俺と一緒に行くの嫌……?」
「……行くよユキちゃん!」
多々良が俺の腕を引っ張ってどこかへ連れていく。
ただし片目しか見えていないせいで微妙に距離感がつかめていない多々良は、周りの人とぶつかりそうになってしまう。
「多々良危ないぞ」
「……1年4組」
「え?」
「1年4組、行くよ」
昨日も来た1年4組の教室。
出し物は休憩所兼簡易喫茶店。
席に座ると、多々良が目の前に向かい合わせで座った。
……そういえばこの席、昨日姫川と座った席だな。
「多々良?」
「……嫌じゃにゃいよ」
「え?」
「だから!ユキちゃんと一緒に行くの、嫌じゃにゃいんだって!」
バン!と机を叩く多々良。
周りが少し驚いた目でこっちを見た。
どうしちゃったんだ。
「文化祭一緒に回るの、多々良から誘ったんだから……一緒に行くの嫌にゃわけにゃいじゃにゃい」
多々良が机に突っ伏しながら言った。
「多々良、昨日からどうしたんだ?」
「……にゃんでも……にゃくにゃいか。うーん、勝手ににゃんかいろいろ考えちゃってるだけ」
多々良が悩むなんて珍しいな……。
「迷ってるってことか?」
「そうだね……今までこんにゃこと、にゃかったからね」
机に突っ伏したまま、うーんうーんと頭を振る多々良。
突然動きが止まり、多々良が顔を上げた。
「……ユキちゃんさ、本当に好きにゃ人、いにゃいんだよね?」
いますが、目の前に。
「好きな人だったらこの前多々良に言ったじゃないか」
「……そうじゃなくてー。あれ本気じゃにゃかったじゃん」
本気だったんですが。
やっぱり伝わらないよなー……。
「なんだ?多々良、好きな人でもできたのか?」
いたら困るんだけど。
お願いしますいないでください。
「そういうわけじゃにゃいんだけど……自分の気持ちが、どうにゃのか分からにゃくて……」
す、好きかどうかってことだよな……?
つまり気になっている人、って感じか……?
おのれ、そいつは誰だこのクソ野郎。
「昨日ね、自分でちょっと考えたんだけど……にゃんだか、全然よく分からにゃくて」
「そ、そうなのか……」
でもなんで俺に好きな人がいるかどうか聞いたんだ?
もしかして俺……?
だとしたら大歓迎なんだけど……。
「でも、せっかくの文化祭だし気にしてられにゃいかにゃーとか思ったんだけど、一緒にいると、どうも気ににゃっちゃって」
「……えっ!?」
大声を出してしまった。
ごめんなさい皆さんこっち見ないで!
「……あっはは。ユキちゃん、顔真っ赤だよ」
「あ……え、あ……」
言葉にならない。
えっとつまりだ……多々良は、多々良は?
俺のことで悩んでる……ってことだよな!?
「ねえユキちゃん、たたらから提案があるんだけどさ……」
「なっ、なんだ!?」
「お、落ち着こうよユキちゃん」
落ち着けねえ。
落ち着けねえよ!!
「佐々木っちの言ってた通りさ……で、デート?してみようよ」
多々良が、顔を赤くして言った。
もし実現するとしたら、いつになるんだろうと思っていた、多々良との初デート。
それがこんな形で実現するとは思ってなかった。
まあ、恋人ってわけじゃないけど……。
「ででで、デートって何をするんだろうな!?」
「ユキちゃん!お願いだから落ち着いて!たたらも恥ずかしくなるから!!」
どうしよう、落ち着こうにも心が全く落ちつかない。
まずいですよ!
「きょっ、今日一日はたたらがユキちゃんの恋人ってことにしてあげる」
「!!!」
多々良が俺の恋人……だと!?
「どどどどどどうすればいいんだろうか」
「落ち着けー!」
腹にパンチが飛んできた。
全然痛くなかった。
「と、とりあえず手をつにゃいでよ。さすがにこの人混みじゃ危にゃいし……」
「りょ、了解」
デートという言葉のせいか、お互いガチガチに緊張している。
これはきついっすね……。
いつも、学校に行くときのように手を―――
「ゆ、ユキちゃん」
「にゃんだ?」
「噛まにゃいでよ……」
仕方ないじゃないですか。
こっちだって緊張してるんですよ。
「こ、恋人なんだから、いつものようにじゃにゃくて……」
……あれか。
多々良は、あの伝説の貝殻つなぎをしろと言っているのか。
「い、いいのか」
「やってみようよ……」
ほれ、とでもいうように、多々良が手を開く。
それに応じて、多々良の手に、俺の手を絡めた。
「―――イィッ……!」
いつもと違うつなぎ方ってだけで、背筋が伸びた。
なんだろう、このこっぱずかしい感じは……!
「ゆゆゆユキちゃん!!」
「なんでしょう!!」
動揺して2人とも大きな声を出してしまう。
周りの視線が痛い。
「こ、この状況を佐々木っちとかに見られたらとっても恥ずかしいことににゃるから……いつものにしよう!」
「俺もそれを言おうと思ってた!!」
結局、いつも通り手をつないで、3階まで降りてきた。
1年の教室が最上階っていうのが、少し面倒なところだ。
「で、どこに行きたいんだっけか」
「ほら、昨日綺月と行ったっていう……」
7組か。
「い、行きますか」
「うん……」
どうしよう。
今日なんというか、持たないかもしれない。
「あーっ!佐倉くんまた来てくれたー!ミスター雛谷、おめでとう!」
「あ、ありがとう……」
昨日応対してくれた女の子が、また受付に立っていた。
やっぱりこの子のテンションの高さはやりづらいなあ・・・。
「あらあらぁ?今日は違う女の子なの?もしかして……浮気?」
「彼女なんていません!」
一応今日一日俺は多々良の恋人ということにはなっているが、嘘は言えない。
「にゃに言ってるの!ユキちゃんはたたらの彼氏でしょー!?」
多々良さぁん!?
あなた心なしか目がグルグルしてませんか?
「佐倉くん彼女いたんだね!?」
「ちょっと待ってくれ!!」
いったん7組の外に出て、多々良の肩をつかむ。
「落ち着け多々良!今日一日は恋人かもしれないけど、これ噂が広まったりしたら今日一日じゃ済まなくなるぞ!」
「……にゃっ」
気づくのおせえ。
「たっ、たたらはユキちゃんの彼女じゃにゃいよ!腐れ縁!」
あ、はいじゃあそれでいいです。
「そうだったんだー!びっくりしちゃったよー!あれ、じゃあ昨日の姫川さんは?」
「姫川も幼なじみだ」
「へー!今日も撮っていく?」
「そのために来たんだよ」
「じゃあ私がおすすめ探してくるから!」
おすすめって……俺が自分で選ぶんじゃないの?
「花丸さん花丸さん、おすすめがあるんだけど、これどうかな?」
着替えのスペースから違う女子が多々良に手招きをしている。
「にゃーに?」
多々良、どんな服を着てくるんだろう。
「佐倉くん、これどうよ」
これ、と言って手渡されたのは、異国の王子様のような格好。
なんとなく、白馬が似合いそうだ。
「せ、せっかくおすすめしてくれたし、着ようかな」
「やったー!」
着替えのスペースに移動し、制服を脱ぐ。
俺がこの服ってことは、多々良も俺に合わせたような服になるのかな?
「やーもう佐倉くんかっこいー!」
「カーテン開けるな!!」
思わず叫ぶところだった。
着替え終わっててよかった。
「ほらほら、花丸さん待ってるよ!」
背中をぐいぐい押され、撮影する場所に連れていかれる。
俺より先に着替え終わっていたらしく、多々良が待っていた。
……お姫さまのような、ドレス姿で。
「あ、ユキちゃん来たー!」
可愛い服を着せられて、ちょっとテンションが上がった多々良。
うん、こっちの方が多々良らしいや。
「やーやーユキちゃん。かっこいいじゃにゃいの」
「お、おう……」
うん、小さなお姫さまっていうかわいらしい感じ。
このドレスを選んだあの子はセンスあるな。
多々良に、よく似合っている。
「……にゃ、にゃんか言ってよ」
「かわいくて言葉が出なかったんだよ」
「……っ!」
多々良の顔が赤くなった。
「ほーらー、佐倉くん、花丸さん、イチャイチャしてないで写真撮るよー」
「イッ、イチャイチャしてねえし!」
ポーズを取り、写真を撮ろうとする……が。
「ポーズに納得いかない!」
文句が飛んだ。
「佐倉くん!王子と姫の結婚式のように、花丸さんをお姫さまだっこしなさい!」
「なんで!?」
「いい写真が取れそうな気がするから!」
ぜってえ面白がってるだろコイツ!!
「ほら早く!」
「ゆ、ユキちゃん?従わにゃくてもいいんだからね?」
早くと言われちゃ仕方がねえ。
「ユキちゃん!?」
俺は言われた通り、多々良を持ち上げた。
「いいじゃんいいじゃん!最高の一枚になるよ!」
ああうん、最高っていうか、とんでもねえ思い出の一枚になりそうだ。
言われてこんなことをしちゃう辺り、俺も混乱しているのかもしれない。
渡された写真は、緊張した表情でお姫さまだっこをする俺と、それに驚く多々良という、なんとも締まらないものだった。
「……変にゃ写真だね」
「ま、まあいい思い出にはなっただろ」
「……あ!ちょうどいいところに!」
俺を見つけた凜先輩が、7組の教室に入ってきた。
「キャー!ミスター雛谷とミス雛谷がそろった!!」
受付の子が大きな声を出した。
やめてそういうこと言うの!
恥ずかしいから!
「り、凜先輩?どうしたんですか?」
「佐倉くんにお願いがあるの!」
多々良は今着替えている。
この教室に入ってきてまでお願いということは……。
「私と一緒に写真を撮ってくれないかな!」
やっぱり!
なんで俺を指名するんだよ!
「お、俺ですか?」
「そう佐倉くん!」
「なぜに?」
「ちょうどいいところにって言ったじゃん!こういうのには興味あるけど、1人ってなんか嫌じゃない?」
つまり、ここに男がいれば誰でもよかったってことですかい?
「ほらほら!文化祭の思い出ってことで!ミスター雛谷とミス雛谷で仲良くしていこうよ!」
ぐいぐい来ますねこのミス雛谷。
「俺どんな服着ればいいんですかね?」
「うーん、じゃあこれで!」
早めに終わらせよう。
「ユキちゃん?もっかい撮るの?」
あ、多々良が出てきた。
「多々良ごめん!凜先輩に一緒に写真撮ろうって言われちゃって!ちょっとだけ待っててくれるか?」
手を合わせて謝る。
ほんとごめん。
「あ、そ、そうにゃんだ……」
「終わったらすぐ戻ってくるから」
「……今日は多々良がユキちゃんの彼女にゃのに」
「ごめん!あとで何かおごってやるから」
「どうしよっかにゃー。たたらはお金でつられるほど軽い
多々良が教室を出ていく。
ほんと申し訳ない。
すぐ終わらせますので。
凜先輩に指定されたのは、中世風の男性服。
なんというか、普通の男性用の服だ。
凜先輩は何を着てくるのだろう?
「お、佐倉くん、中世風の服も似合うね!」
「あ、ありがとう」
この子やたら褒めてくれるな。
さて、早く出てきてください凜先輩。
「こういうの、どうかな!」
凜先輩が勢いよく出てきた。
露出度高めの、踊り子のような服。
……って、刺激が強いですね!?
「あっ、のっ!ちょっ、そ、その!」
「んー?どうしたのー?」
凜先輩が顔を近づけてくる。
ち、近い近い近い!
「ヴァァァァァァァァァ!?」
勢いよく後ずさる。
踊り子の服はセクシーな服だ。
胸のあたりは結構開いており、鳥人族の凜先輩では近づかれると見えそうだ。
俺にはその刺激は強すぎる!!
「は、早く写真を撮って終わりにしましょう!」
撮影場所に行き、凜先輩とポーズをとる。
「ほらほら、もうちょっと近づこうよー!」
「ちょっ、まっ!いやっ!」
「ほーらー!」
踊り子らしく、大胆なポーズをする凜先輩。
手が俺の腰に触れた。
「◎△$♪×¥●&%#?!」
結局、椅子を持ってきてもらった。
俺が椅子に座って、踊り子を眺める、というようなポーズの写真が出来上がった。
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