第15話 紹介しました

「ほいユキちゃん、アクアリオの最新刊」

「お、ありがと」

 多々良から漫画を受け取り、カバンに入れる。

「そうそう、昨日ウズメがやっと体動くようになったんだよ」

「おー!歩けるようににゃったんだね!?」

「そういうことだ」

「おー!ウズメさんとお出かけとかしたいにゃー!」

 多々良とウズメでお出かけとか、嫌な予感しかしない。

 2人とも猪突猛進気味なところあるからなあ。

「あ、そうそう、今夜俺の部屋に来てくれよ」

「多々良を連れ込んでにゃにする気!?」

「何もしない。紹介したい人がいるだけだ」

「紹介したい人?」

 多々良が首をかしげる。

 まあ、紹介する人がいて俺の部屋に来いって言っても意味不明だよな。

「ウズメの友達が夜に来るんだよ」

「あ、そうにゃんだー!放課後じゃダメにゃの?」

「残念ながら、夜にならないと来ないんだ」

「へー、夜にしか来にゃい神さま……ツクヨミ?」

「多々良、神さまとか結構詳しいのか?」

 ウズメのことも知ってたし……。

 調べてみたら、ウズメもツクヨミも割とマイナーらしいじゃないか。

「そこは……まあほら、興味があった時期があってね?」

「つまり厨二病……」

「そ、そういう言い方はよくにゃいんじゃにゃいかにゃ」

 知らなかった……。

「ま、まあたたらのことはいいじゃにゃい!そういうことにゃら夜にユキちゃんの部屋に行くよ!何時にゃんじくらいがいいかにゃ?」

「んー、7時以降ならいつでも大丈夫だと思うぞ」

「分かった!夜ごはんの時間があるから、8時くらいに行くよ!」

「了解」

 最近すっかり習慣化してしまった、多々良と手をつないでの登校。

 やっぱり多々良とは何かが違うんだよなあ……。

「んにゃ?ユキちゃん顔赤いよ?どうしたの?」

「ああいや、なんでもない」

 顔に出てしまっていたようだ。

「ツクヨミさんも綺麗にゃ人にゃの?」

「めっちゃ美人。神さまってすげえなって思うくらい」

「へー!ユキちゃん、周りに美人さんが増えてドキドキしちゃうね?」

 昨日ドキドキさせられました。

「って待て、俺はウズメにはドキドキしないぞ?」

「うそつけー」

 ……いやまあ、ちょっとドキドキしたことはあるけども。

「ウズメと違って、ツクヨミは正統派の美少女だったぞ」

「にゃ!これはユキちゃんが惚れてしまうぞ~!でも、相手は神さまだよ?」

「惚れてない。かわいいのは認めるけど」

「おやおや?ユキちゃん、他に好きな子がいたり?綺月きづき?それとも凜先輩?」

 どっちも違うわ。

 というか凜先輩はほとんど話したことないだろ。

 姫川は……友達って感じだし。

「多々良……って言ったらどうする?」

「やーもううれしー」

 完全に冗談だと思われてやがる……。

 よし、ちょっと揺さぶってやろう。

 多々良の両肩をつかみ、こっちを向かせる。

「多々良、落ち着いて聞いてくれ。俺は本気で……多々良のことが大好きなんだ!」

 どうだ参ったか!

「……ユキちゃん、たたらをあせらせようとしてるでしょ」

「バレてる!?」

「ざーんねん、たたらちゃんには今のユキちゃんが黒く見えているのだ!」

 ……なんともめんどくさい能力だ。

「そんにゃことしにゃくてもユキちゃんがたたらのことを大好きだにゃんて昔からわかってるよ」

「え」

「そうでもにゃきゃ、こんにゃめんどくさい体質の子と一緒にいてくれにゃいもんね」

 多々良が笑顔で言った。

 そんな多々良を見て、俺は。

「にゃっ!?ちょ、ユキちゃん!?にゃに!?」

 多々良を抱きしめていた。

 道端だけど。

 幸い、人通りが全くないので、誰にも見られてはいない。

「ゆ、ユキちゃん!ここお外だよ!は、恥ずかしいよっ!」

「多々良、勘違いをしないでほしいんだけど、俺は多々良の体質のこと、めんどくさいだなんて一度も思ったことはないぞ」

「にゃっ」

「ずっと一緒にいて、今更めんどくさいなんてあるか。それが多々良なんだから、めんどくさいなんて、絶対ないから」

「急に真面目っ!?ゆ、ユキちゃんストップ!」

 多々良が俺の胸を押した。

「自分の体質の事、自虐的に考えることしなくていいからな」

「わかった!わかったから!遅刻しちゃうから学校行こ!」

 多々良が真っ赤な顔で俺の手を引っ張った。

「きゅ、急に真面目ににゃられても困るし……でも、そういってくれて、うれしかったよ。ユキちゃん、ありがとう」

 そういって、ほんの一瞬だけ、俺に抱きついた。

「……多々良を焦らすことに成功」

「……あぁーっ!?」

 学校に行く途中、多々良に何度も腰のあたりを殴られて大変だった。

 痛くはなかったけど。

 少しは俺が思ってること、伝わったかな?


「なあ多々良、朝っぱらから何でそんなに顔が赤いんだ?」

「にゃ、にゃんでもにゃいから!!」

 教室に入って早々、佐々木につっこまれた。

 ハッハッハ、焦る多々良、見てて面白い。

「熱があるわけじゃないんだよな?」

「熱はにゃいよ……登校中にユキちゃんに急に抱きつかれただけ」

 ちょっと待てその悪意のある伝え方はやめろ。

「佐倉……お前多々良と一緒のベッドで寝たりいきなり抱きついたり……ほどほどにな?」

「誤解だし俺悪くねえしそのかわいそうなものを見るような目をやめろ」

 誤解は解いておきたいけど、なんで抱きついたかとかの理由を話すのはちょっと恥ずかしいんだよな……。

「ちょっと聞いてよ佐々木っちー。ユキちゃんったら学校行く途中にいきにゃりたたらの肩をつかんで『俺は本気で多々良のことが大好きにゃんだ!』って言って抱きついてきたんだよ?」

「やっぱり佐倉……」

「それこそ誤解だ!!というかそれ冤罪!!」

 抱きついたのそこじゃねえし!!

「抱きついたってのを否定しない辺り、本当に抱きついたんだな……」

「……」

「てかどういう流れで登校中に抱きつくようなことになったんだよ?」

 やっぱり聞かれるよなー。

「そ、それはだな……多々良が、自分の体質をめんどくさいとか言うからであってな……」

「はーん、そういうことか」

 佐々木はどうやら理解してくれたようだ。

 さすがは俺の幼なじみ(男ver)、俺のことはよく理解してくれるぜ。

「まあ、佐倉とか、俺たち以外の奴らからしたら、多々良の体質はちょっとめんどくせえかもしれねえよな」

 さらっという佐々木。

 てめえ多々良を目の前にして言うんじゃねえよ。

 気にしちゃったらどうすんだよ。

「でもまあ、俺たちは多々良の体質なんて全く気にしてねえからな?それに関しては俺も佐倉とは同感だ」

「……うーん、そんにゃもんにゃの?」

「そんなもんだよ、多々良。めんどくさいとか思ってたら、俺はすでに小学校のころから付き合いをやめてるね」

「わっ!ユキちゃんひどいにゃー!」

「冗談だよ」

 めんどくさいとかそれ以前に好きだし、仕方ないね。

 というかめんどくさくないし。

 ……むしろ多々良の目のおかげで役得な部分もあるし?

「まあほら、ユキちゃんにはいつも迷惑かけてるというか……ね?」

「なーにが『ね?』だよ。迷惑なんかどこにもねえし」

「……たたらは、たたらにゃりに気にしてるんだよー」

 ……まあそりゃあしてるよなあ。

 そういうのは、本人にしか分からないだろうし。

「まあ確かに多々良は色がよく分からねえし距離感もつかめねえから自分が気にするところも色々あるだろうけどよ、少なくとも俺たちはめんどくせえだなんて思ってねえから、多々良もそこは覚えておいてくれよ」

 佐々木が多々良にそう言った。

 ……え、ちょっと待ってかっこいいじゃん。

 そういうセリフ、俺が言いたいんだけど。


「あー、相変わらず数学はわけ分からねえな。ノートだけは書いてるけど。」

「よし、じゃあ佐倉ここ答えてみろ」

「ぜんっぜん分からないです。」

「お前ちょっとは勉強してくれよ」

 先生ががっくりうなだれた。

 すいませんね、数学だけはまじで苦手なんですよ。

 多々良も数学が苦手だから、2人してまったく勉強しようとしないんですよ。

 教えられるの倉持しかいないし。

「ユキちゃん……ぷぷぷ」

 いやいや、あなたも指されたら答えられませんよね?

「じゃあ後ろの佐々木」

「あー、ちょっと分っかんねえっすね」

「理解してほしいんだけどここ学校なんだよなお前ら」

 先生の額に青筋が立った。

 ちょっと先生、牛乳飲んでます?

 カルシウム足りてますか?

「よし決めた。次の期末テストは赤点だったやつは冬休み補習な。クリスマスとかねえからな、覚悟しとけよ」

「クリスマスなし!?横暴だ!!」

「うるせえ、お前はどうせ誰かと出かけるんだろ。赤点取ったらその楽しい予定もなくなるからな」

 クラス内から俺と同じように横暴だという声が聞こえる。

「よし、じゃあお前らやっぱり赤点じゃなくて平均点以下なら全員補習な」

 騒ぎが一瞬で収まった。

「……みんにゃ!いいこと思いついたよ!みんなで0点取れば平均点も0点だから平均点以下にゃんてにゃらにゃいよ!」

 多々良がとんでもない案を出す。

 うん、確かにそれは平均点以下なんていないかもしれないね。

「そんなことになったら全員補習にするわバカ。花丸、お前は問答無用で補習でもいいぞ」

「訴える」

「おうやれるもんならやってみろ」

 このクラスは数学の教師に反乱でもしたいんだろうか。

 いや確かにクリスマスなしは絶対嫌だけど。

 クリスマスは毎年多々良としっとり過ごすと決めているんだ。

「まあどうせ冬休みの補習なんて毎年やってるからな、お前らテスト頑張れよ」

 こりゃ倉持に少し教えを請うしかないですね。

 クリスマスのためだ。

 今年はまあ、にぎやかになるかもしれないし。

「というわけで、この問題は倉持が答えろ」

「結局僕ににゃるのか……」

 先生、それはナイスな判断だ。


「ん、今日は多々良と2人で昼飯か」

「佐々木っちはサッカー部の部員と、くらもっちゃんは図書委員の仕事、アッキーは他クラスのお友達と。みんにゃはお友達いるよ?」

「俺が友達いないみたいに言うのやめろ?」

 悲しくなってくるんだけど。

「実際ユキちゃんってば佐々木っちとくらもっちゃんとアッキーと綺月以外に友達って言えるようにゃ友達いにゃいじゃにゃい」

「実際のこと言うのやめろ?」

 本当に悲しくなってくるから!

「ユキちゃんって本当に残念だよね」

「残念言うな」

 あんまり話すの得意じゃないんだよ。

 話せと言われたら話せるけど。

 あんまり美人な人だと話すの難しいかもしれない。

 凜先輩とか。

「ユキちゃん、顔はかっこいいのにねー」

「おい俺に問題点があるとでもいうのか」

「顔がちょーよくておはにゃしも上手にゃら、いうことにゃいんじゃにゃい?」

「それ完璧じゃん」

 残念ながら俺は完璧じゃねえ。

「まあでもあんまりユキちゃんがほかの女子に取られちゃったら多々良の世話をしてくれる人いにゃくにゃっちゃうね」

「そ、そうだよ。お、俺はそれを見越してみんなとしゃべらねえんだぞ?」

「じゃあユキちゃんいろんな人に話しかけてみたら?」

「……」

「あっはははは!!」

 多々良に盛大に笑われた。

 そうだよ、このクラスの女子に話しかけるのすらハードル高いんだよ。

 ツクヨミと普通に話せたのはウズメみたいなのが来ると思って身構えていたってだけだ。

「早く昼飯食っちゃおうぜ」

「ねえユキちゃん知ってる?」

「話聞こうか?」

 それに知らない。

「周り見てみにゃよ」

 辺りを見回す。

 クラスの女子と、何度も目が合う。

 みんなして、俺から目をそらしていく。

「なにあれこわい」

「ユキちゃん、注目されてるんだよ。イケメンくんがおんにゃの子と2人でご飯食べてたらみんにゃ気ににゃるでしょ」

「俺ってそんなに注目されてるの?」

「クラスの子からはユキちゃんっていいよねって話よく聞くよ」

 知らなかった。

 俺結構狙われてる?

「ただみんにゃユキちゃんが人と話すの苦手にゃの知ってるから、ユキちゃんに気を遣ってくれてるんだよ。あとたたらと付き合ってると勘違いしてるとか」

「俺はその勘違いで一向にかまわないんだけど」

「残念にゃがらユキちゃんとたたらはお付き合いしていませーん」

 うーん、多々良ってそういう気は全くないんだろうか。

「多々良ってさ、好きな人とかいないの?」

「ユキちゃん」

「……えっ?」

「って、言ってほしいのかにゃ?」

 多々良が意地悪な顔をした。

「じ、実際のところ、どうなんだよ」

「ユキちゃんったら顔赤ーい!」

「話聞こうか?」

「……んー、実際のところねえ。にゃんていうのかにゃ、この人が好きだにゃーとか、恋とか愛とか、あんまりよく分からにゃいんだよね」

「そっかーよく分からないかー」

 そりゃちょっと残念だ。

「まあいつか分かるようににゃるでしょ。いつか、ずっと一緒にいたいにゃって思えるようにゃ人がいるかもしれにゃいじゃにゃい?」

「見つからないかもしれないぞ」

「その時は……じゃあ、ユキちゃんに彼女がいにゃかったらユキちゃんで」

 彼女作らなくてもいいかな。

「でもユキちゃんは作ろうと思えばいつでも彼女作れるんじゃにゃい?」

「俺にそんな会話スキルがあればな」

「無理そうだね」

 絶対無理だな。

「5限にゃんだっけ」

「体育だな」

「あー体育……たたら、卓球は苦手にゃんだよねえ」

「俺はバスケットボールだ。あんまり得意じゃないけどな」

「そもそもユキちゃん体育そこまで得意じゃにゃいよね」

「そうなんだよな」

 走りも球技も全く得意ではない。

 得意じゃないけど、ある程度は走れる。

 体力だけは、ある方だ。

「イケメンでスポーツ万能にゃらもう完璧だよね」

「俺はそんな漫画かなんかの主人公じゃねえんだって」

「勉強もできてトークスキルもあればいうことにゃし!」

「勉強もできなくてスポーツもやる気なくてトークも得意じゃなくてすみませんね」

「いいんじゃにゃい?完璧すぎにゃいほうが人間らしいよ」

 むしろポンコツなまであると思うんだ。

「まあほら、面食いって言葉あるじゃにゃい?」

「俺その言葉嫌い」

 内面まで見てくれないじゃないですか。


「さすが6限」

 周りのやつらは軒並み寝ている。

 さすが6限というより、さすがは国語、だろうか。

 木晴こはる先生の前でよくそんな爆睡できるな。

 ……俺もノート書き終わったら寝ようかな?

 あれ、多々良は起きてるのか。

「花丸さん、ここ分かりますかー?」

 先生は起きてる生徒の中で、多々良に答えを聞こうとする。

「……」

 しかし、多々良は何も答えない。

 というか、反応しない。

「あら?花丸さーん?」

「……にゃ!?はい!」

「えーと、先生の話聞いていましたか?」

「あ……ごめんにゃさい、聞いてにゃかったです」

 起きてはいたけど授業は聞いてないと。

「体調悪いですかー?」

「い、いえ!そんにゃことは!」

 そういう多々良の顔が赤い。

 ぼーっとして、顔が赤い、か。

 ……明日から多々良は学校休みかな。

 ツクヨミに会わせられるだろうか。

「じゃあ佐倉くんで」

「えっ」

「佐倉くんも先生の話を聞いていなかったんですかー?」

「あ……いや、多々良が体調悪そうだから気になって」

「そうですかー。じゃあ佐倉くん、ここ、分かりますか?」

 じゃあって何だよ。

 まったく、俺が答えなきゃいけないのかよ。

 こう見えて一応ちゃんとノートは取ってだな。

「分かりません」


「ちゃんと勉強しておかにゃいとほんとにテストやばいかもねー」

「赤点だけはどうしてもまずいから、テスト前は倉持に教えてもらおう」

「たたらたち2人だけだと勉強しにゃいもんね」

 帰り道、多々良を引っ張って歩いていく。

 やっぱり、多々良の足取りに力がない。

「今日どうする?多々良ちょっとつらいだろ?」

「うーん、ちょっとおにゃかがむずむずするー……」

 うん、完全にあれだね。

「ユキちゃん、多分明日から学校お休みすると思う」

「ああ、そりゃ仕方ねえな」

「寂しいから、たたらの部屋来てくれる……?」

 上目遣いで、こっちを見てくる多々良。

 その仕草はずるい。

「し、仕方ねえな。その代わり、しっかりしてくれよ?」

「う、うん。がんばるよ」

 こりゃ大変そうだな……大丈夫だろうか。

 俺もちょっと気を強く持たないとな……。

「てか、ツクヨミはどうする?会いに行くか?」

「うん、今日はまだ大丈夫そうだし、会いに行くよ!」

 大丈夫だとアピールするために両手をぐっと握る多々良。

 大丈夫ならいいんだが……。

「てか体温高くねえか。手あっついぞ」

「この状態ににゃったら仕方にゃいよ。ほんとに、明日来てくれにゃかったら寂しくて噛みついちゃうからね」

 噛みつかれちゃうのかー。

「多々良って確か……」

「にゃーに?」

「ちょっと、口開けてみて」

 多々良が口を開ける。

 多々良の犬歯は猫の血を受け継いでおり、かなり立派な牙が2本生えている。

 他の歯は人間に似てるのに、ここら辺なんというか、よくできてるなあ。

「噛みつかれたら完全に出血するね」

「血、出ちゃうからねー」

「怖いっすなー」

 あんまり寂しい思いをさせないように、頭をなでておく。

「子ども扱いしにゃいでよー」

 難しいお年頃だ。

「どうする?8時に行くって言ってたけど、やっぱり今からユキちゃんの部屋に行く?」

「ああ、そうだな。多々良もあんまり体調良くないしな」

「ユキちゃん、ありがとね」


「なんでもういるんだよ」

 家に帰ってきて部屋に入ると、黒い球体が部屋のど真ん中に居座っていた。

「ユキちゃんこれにゃに?」

「これがツクヨミだ」

「……たたらは人間みたいにゃのを想像してたんだけど」

「いや、この中にいるんだよ」

「にゃにしてるの?」

「寝てる」

 触ってみても、やっぱり反応はない。

 ただぽよんぽよんしてるだけだ。

「このにゃかで寝てるの?」

「そういうことだ。夜になると起きるんだよ」

「あ、そうにゃんだ。んー、どうしよっかにゃー、ちょっと寝てもいいかにゃ?」

「え、俺のベッドで寝るの?」

「おやすみー」

 多々良が俺のベッドに入り、寝始めた。

 お、俺のベッドで多々良が寝てるよ。

 ちょっとちょっと、これちょっとあれじゃないですか。

 ……っていっても、小さいころから何度も一緒に寝たりしてるからなあ。

「せっかく借りたし、アクアリオでも読むか。どうせツクヨミが起きるまでまだ時間あるし」

 扉絵には、囚われのメインヒロイン、エアが大きく描いてあった。

「そういえば多々良の話だと今回はこのエアを助ける話なんだっけか。どうなるかな」

 今のところ全部読んでいるだけあって、続きはやっぱり気になるもんだ。

 さて、読みますか。


「なあヴィルザルガ、エアを助けるために、俺はどうしたらいいと思う?」

「この遺跡の仕掛けは難解じゃのう……それに、この遺跡は広い。じじいの身体にはキツイものがありますな」

 エアを助けるために思考を巡らせる主人公のネロと、魔道士のヴィルザルガ。

「じじいって……」

「ネロや、わしはみたまんまの老骨じゃよ」

 ヴィルザルガが笑う。

「俺、エアを助けられなかったら……」

「ネロ、やる前から弱気になってどうする。エアは大切な仲間じゃろう?」

「そうだけど……この遺跡は広すぎる。仕掛けだって多いし、なにより今自分たちがどこにいるかも分からないんだぜ?」

「まだ焦る時間じゃない。わしも力になるから、一緒にエアを助けるのじゃ」

「……分かった、頼むヴィルザルガ、俺に力を貸してくれ」

「ああもちろん、じじいにできることなら」

 固く手を結ぶネロとヴィルザルガ。

(そう、最初から諦めてたら何もできないんだから。ネロ、頑張ってね……!)

 本当のヴィルザルガは、心の中でネロを応援している。

 自身の身体にかけられた呪いは、まだまだ解けそうにないから。

 本当の自分を見てもらうまで、じじいはじじいらしく、エアのために必死で頑張るネロを、応援しよう。


「いやもうヴィルザルガいい人すぎるでしょ、俺やっぱりこのキャラ大好きだわ」

 本当のヴィルザルガの姿は、とんでもない美少女だ。

「幸くん、何読んでるの?」

 ツクヨミが後ろから漫画を覗き込んでいた。

「うおっ、起きてたのか」

「うん、さっきね」

「帰ってきたらいきなり部屋にいたからびっくりしたよ」

「一緒にお話の練習してくれるって約束したから……えっへへ」

 そういえばウズメが家にいなかったな。

 あいつどこに行ったんだ。

「それで、起きてみたら幸くんが何か読んでたからちょっと気になって」

「そうなのか。これは漫画って言ってな、物語を絵で表したものなんだ」

「物語なんだね。あと……そこの人は?」

 ツクヨミが指を差した先には、多々良がいた。

 俺のベッドの上で丸まって寝ている。

「多々良ー」

「……」

 ぴゅん、としっぽが動いた。

 おい。

「多々良、ツクヨミが起きたぞ」

「うーん、さっきよりお腹がむずむずするー」

「ちょっとだけ我慢してくれ」

 多々良を起こして、ツクヨミの前に座らせる。

「紹介する、こいつは俺の幼なじみの多々良だ」

「幼なじみ……小さい時からの仲、ってことだね。私は夜を統べる女神、ツクヨミ。多々良ちゃん、よろしくね」

「ユキちゃんとにゃがい付き合いの花丸はにゃまる多々良だよ。ツクヨミちゃん、よろしく!」

 ツクヨミと多々良が握手をする。

 いいじゃん、かわいい女の子同士が仲良くしてるところとか。

 とはいえ……。

「すまんツクヨミ、多々良は今日体調が悪いらしいんだ。紹介だけになっちまうけど、多々良をよろしくな」

「体調悪いなら仕方ないね……次はちゃんとお話ししたいな。多々良ちゃん、これから私といっぱいお話ししてくれると嬉しいな」

「うん、次たたらの体調が良くにゃったら……今日は帰るー……」

「じゃあ俺多々良を家まで送っていくから、ツクヨミはこの部屋でちょっと待ってて」

「うん、分かった」

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