第14話 現れました
「今は眠っているようですし、夜まで待ちましょう」
「寝てる!?寝てるのこれ!?」
黒い球体にしか見えないんだけど!?
「これはお部屋みたいなものですね」
「これ部屋なの!?中に人がいるの!?」
「人ではありません、神さまです」
「これが、ウズメの友達なのか?」
「はい、どんな人かは、起きてからのお楽しみです」
こいつの友達とかすげえ心配なんだけど。
「てか呼んだんだから起きろよ!」
黒い球体を叩いてみる。
ぷにぷにしている。
どうやら衝撃は吸収されてしまうようだ。
「この方は夜を統べる女神です。朝のうちは寝てしまうんですよ」
「それ、現代語で言ったら夜型ニートだぞ」
「怒られると思いますよ」
まあ、神を侮辱するような発言だからな……。
「彼女には夜の平和を守るという使命があります」
「事件とかは夜の方が多い気がするが」
「彼女はそれをなるべくなくすように日々務めているのです」
大変そうだな。
事件なんてどこでも起こりそうだし。
ということは、夜の平和が完全に保たれた状態なら、事件は何も起こらないということか。
「名前はなんていうんだ?」
「彼女はツクヨミさんです」
ツクヨミっていうのか。
夜の女神だっていうし、この人も黒髪なんだろうか?
「おそらく夜の7時くらいになれば目覚めるでしょうし、それまで待ちましょうか」
「あと2時間もあるじゃねえか」
「どうしましょうか……一緒に寝ます?」
「寝ねえ。とりあえずその足で歩いて母さんの所へ行ってこいよ」
「そうですね!」
ウズメが立ち上がって、部屋を出ていく。
本当に動くようになったんだな……よかった。
「にしても、ほんとに不思議だなこれ」
部屋の真ん中に浮かんだままの黒い球体。
「サンドバッグ代わりになりそうだな」
殴っても衝撃は吸収されるし、ちょうどいい。
「てやっ、とうっ」
ボヨン、ボヨンと殴った分だけ球体が跳ね返る。
楽しいぞこれ。
「えいっ、えいっ」
連続で球体を殴っていたその時。
「……!!」
「へぶっ!?」
球体が反撃してきた。
思いっきり顔面に球体が直撃。
俺はそのまま後ろに倒れた。
ダメージシャットアウトで反撃モード搭載とか、高性能な部屋だな。
「お父様、お母様、今までありがとうございました。私、ちゃんと動けるようになりました!」
ウズメが歩いて父さんと母さんに挨拶をしに行った。
今までありがとうございましたってことは、もうコイツ天界に帰るのかな。
帰ってくれるといいんだけど。
あ、あの変な黒い球体は持って帰ってもらいたい。
「あら、よかったわねえ!やっと動いたんだね!」
「おお、おめでとう!今までありがとうってことは、天界ってところに帰っちゃうのかい?」
俺の聞きたいことを父さんが聞いてくれた。
退屈はしないけどその代わり疲れることも多いし帰ってくれていいよ。
たまに多々良をダシに俺のこと脅してくるし。
「いえいえ、ご迷惑でなければ私をここにおいてくれたことの恩返しがしたいなと思っているのですが・・・もう少し、ここにおいてはくれませんか?」
ご迷惑なんですがね。
「そういうことならもちろんいていいわよ!ウズメさんが一緒にいるとなんだかご利益がありそうだもの!」
あれっ。
「ああ、迷惑なんかじゃないぞ!ウズメさんがいればうちはにぎやかだからな!好きなだけいるといい!」
それにぎやかじゃなくて騒がしいっていうと思うんですよね。
父さんと母さんは分かってくれないらしい。
そもそもご利益なんてあっただろうか……。
なんかすでにご利益とは真反対の物体が上の部屋にありそうなんだけど……。
「ありがとうございます!これからも、よろしくお願いしますね!」
「ああ、よろしくな!」
「よろしくね!」
「幸さんも、よろしくお願いします!」
「帰れ」
「えええええっ!?」
ウズメが驚きの声を上げる。
いやえええっ、じゃなくてね?
「もう、幸ったらウズメさんにひどいこと言わないで。ゴメンねウズメさん、あれは幸の照れ隠しなのよ」
おい話をでっちあげるな母さん。
「確かに、幸は好きな人には冷たくしちゃうからなあ」
そんなこと一回もないぞ、父さん。
息子の気持ち理解してもらっていいかなあ!?
好きな人に冷たくしちゃうならいろいろ対応が変わっちゃう子もいるぞ!?
「まあ、そうだったのですね!アマテラスさんから聞いたことがありますよ、つんでれっていうんですよね!」
「ちげえっつってんだろー!!!」
家の中に俺の絶叫が響いた。
『な、何今の~~~~!?ってか、ここどこ!?』
上の階から戸惑いの声が聞こえてきた。
夜にはまだ早いが、どうやら俺の絶叫であの球体が目覚めたらしい。
「あ、ツクヨミさんが起きましたね」
ウズメも気づいたようだ。
「え、ツクヨミさんって、何の話?」
何も聞かされていない母さんが首をかしげる。
「誠に勝手な話ですが……今日、上の階に私のお友達を呼んでいまして」
「ウズメさんの友達!?神さま?」
「はい、私のお友達のツクヨミさんです」
「おお!……でも名前しか知らないわ」
「仕方ないです、ツクヨミさんは本当は重要な女神様なのですが、なぜか影が薄くて……」
なんかかわいそうな神様だな……。
「母さん、ウズメさんの友達だ。もてなしてあげなさい」
「もちろん!ツクヨミさんの夕飯も用意するわ!」
母さんが夕飯の準備に取り掛かった。
「幸さん、ツクヨミさんに会いに行きましょう」
「そ、そうだな」
とりあえず、こいつがこの家にしばらく居続けることは決まったらしい。
騒がしい日々が続きそうだな……。
「あ、ツクヨミさん、お久しぶりです」
何も知らないツクヨミを放置しておいて何食わぬ顔で挨拶をするウズメ。
こいつなんかずれてんな。
「え、あれっ、ウズメ!?あ、うん久しぶり……ってそうじゃない!ここどこ!?」
律儀に反応してから慌てだすツクヨミ。
銀色の短い髪に、やはり神の恵みか、見る者を魅了するような顔だ。
身長はどうやら俺より低いようだ。
……というか、今まで気づかなかったけど、ウズメって身長高いんだな。
俺が172㎝、ウズメはそれより高い。
178㎝くらいだろうか?
ツクヨミはぱっと見150㎝くらいか?
結構小さいな。
「ここは私が住まわせてもらっている家です。この人が、私を助けてくれた佐倉幸さんです」
「あ、ええと、佐倉幸です」
あんまりそうは見えないんだけども、この人も神さまだよな。
「えーと、ウズメを助けてくれてありがとう……ってそうじゃなくて!ウズメを助けた!?話が見えてこないんだけど!?」
「あ、それに関しては私が説明します」
いや最初からこいつに説明しといてくれよ。
何も知らなかったんかい。
「久しぶりに天界から降りてきたら、なぜか体が動かなくなってしまいまして……倒れていた私を、ここにいる幸さんが助けてくれたんです」
「ああ、最近天界にいないと思ったら……」
「先ほど動けるようになりまして、神さまの力を見せてあげるという名目で、ツクヨミさんを呼び出しました」
「そんなことで私呼ばれたの!?」
「はい」
「いやあ、久しぶりに会えてうれしいです」
「そ、そうだね……なんだか釈然としないけど……」
この人結構常識人かもしれない。
「えーと、ウズメが動けるようになるまでこの家にウズメを置いといてくれたんだよね?」
「ま、まあそういうことになる、な」
「うーん、ありがとう?」
「俺、ツクヨミさんに感謝されるようなことはしてないと思うんだけど……」
「いや、ウズメは私の友達だし……」
全く納得いっていない様子で、俺に感謝の言葉を述べるツクヨミ。
うん、こんな状況飲み込めるわけないよな。
「私、どうすればいいのかな?ウズメの力は見ただろうし、帰っていいんだよね?」
「ああ、それなんだけど、なんか俺の親がうちに来てくれたことを歓迎して夕飯を作ってくれてるそうなんだ。食べて行ってくれないか?」
「え、ええ?一緒にご飯?いいけど……私人間じゃないよ?」
「ああ、ウズメは普通に一緒に飯食ってたし大丈夫だと思う」
「じゃあ、いただこうかな……えと、幸くんだよね?」
「あ、はい」
「私は夜を統べる女神、ツクヨミ。よろしくね」
「よ、よろしく」
ツクヨミと握手をする。
うおお、女の子の手だ。
なんというか、ウズメとは違ってかなり女の子っぽいな……。
「ウズメは天界に帰らないの?」
「私は幸さんのお母様に恩返しがしたいので、しばらく帰るつもりはないですね」
「だよね。うーん、私も地上のことはちょっと知りたい気もするし……幸くんに少し教えてもらおうかな?」
「俺の苦労が増える……」
「……?」
小声で呟いたため、ツクヨミに聞こえなかったのだろう。
ツクヨミが首を傾げた。
なんか、ウズメとは違って素直に可愛いと思えるな……。
「そういえば、ツクヨミさんって夜を統べる女神なんだろ?夜の平和を守ってるって聞いたから、てっきりこっちのことはよく知ってるのかと……」
「夜になると、お店が閉まっちゃったりするから……実は、あまりよく知らないんだよね」
店が閉まるってそれめっちゃ深夜じゃないですかね。
そんなに活動時間が遅いのか。
「でも、平和を守るって、ここの夜はそんなに物騒なのか?」
「私が目指しているのは、夜誰が一人で外出しても安心してお出かけができるような世界なんだ」
そりゃ大変そうだ。
そういう事件は、まあ結構聞くからな……。
たとえば、発情期の犬人が夜に一人で歩いていた女性に襲い掛かった、なんていう話は、ニュースで何回か見たことがある。
逆もしかりだ。
亜人にとって発情期ってのはかなり面倒らしいからな……。
そういう事件は、被害者の心に大きな傷を負わせてしまう。
できれば、起きてほしくない事件だ。
ツクヨミは、どうやらそういう事件を未然に防ぐために活動しているらしい。
「大変そうだな」
「平和な世界を作るためだからね!」
めっちゃ良い子じゃんこの子。
どっかのアホ女神とは大違いだ。
「む、今なんだか幸さんにおバカにされた気がします!」
大正解だよ。
「にしても、こうやって普通に男の人と話すのって弟以外だと初めてだなあ」
「ツクヨミさんって弟がいるのか」
「うん、スサノオって聞いたことないかな」
お、その名前は知ってるぞ。
ゲームに出てくることもあるからな。
無双系ゲームで武将の武器の名前だったりな。
「私は昼は寝て夜はこの日本を見守ることをしてるから、あまり人と話すこと自体少なくて……高天原の大宴会の時くらいなんだよね」
高天原の大宴会とやらは知らないけど、普段から仕事漬けの毎日っていうことだよな。
大変そうだな……。
「たまに、こんな風にウズメに呼び出されることもあるんだけどね」
完全に迷惑じゃねえか。
「というわけで、こんな風に普通に会話をした男の人って幸くんが初めてかな」
おっ、女神の初めて、いただいちゃいました。
あ、いや、いかがわしい意味ではなく。
「私の友達、ということで幸さんは話せているのかもしれませんが、こう見えて幸さんも女性に対する耐性がなくて、あまり話すのが得意じゃないんですよ?」
「なんで言っちゃうんだよこのニート女神!」
「ニート!ニートって言いましたね!またおバカにされました!」
普通に話せたのはお前みたいな色物がくるって思い込んでたからだよ!
案外普通に女の子で驚いたけど!
「うるせえ!お前のことを例えたらなあ……怪しい箱を開けてみたらパンドラでしたっていうレベルだからな!」
「怪しい箱って私のことですか!?私パンドラの箱ですか!?さすがにそんなにひどくないですー!」
中身がひどかったよ、キミは。
「ふふ、ウズメと幸くん、けっこう相性よさそうだね」
どこをどう見てそう思ったのかを小一時間問い詰めたい。
見切り発車もいいところだ。
「こんな変なのと相性いいって何かの間違いだろ?」
「変なのって言われました!」
「あっはは、そういうところだよ、とっても楽しそう」
ツクヨミがおかしそうに笑った。
……神さまってのは、何をしてても可愛く映るもんなんだろうか。
ウズメも外見だけなら超絶美人だしな……。
「お父様、お母様、こちらが私の友達の、ツクヨミさんです」
ウズメが父さんと母さんにツクヨミを紹介する。
「ご紹介にあずかりました!つっ、ツクヨミです!よろしくお願いします!ウズメを助けていただきありがとうございました!」
ツクヨミが深々と頭を下げる。
律儀だなあ。
神さまなんだから、「よくやった、人間よ」でもいいんじゃないの?
ただ、一応神さまと言っても人間の形態をとっているからなあ。
そこんとこ、どうなんだろう。
「あらあら、かわいいじゃない!ツクヨミちゃん、よろしくねえ~」
母さんがツクヨミの頭をなでる。
完全に子ども扱いじゃないか。
……まあ、(見た目は)大人なウズメとは違い、ツクヨミはちょっと幼いというか、俺たちと同年代のような見た目だ。
さすがに多々良レベルで顔が子供っぽいわけではないけど。
「こりゃまたかわいい人が来たもんだな。キミも神さまなんだよな?」
「はい、夜を統べる女神、ツクヨミです」
「そうなのか~!ツクヨミさん、よろしくなー!うちにはいつでも来ていいからな!」
「あっ、ありがとうございます!」
おいいつでも来ていいとか言うな。
ウズメがいつまでもいちゃうから。
「まずはみんなでご飯を食べましょう!ウズメさんもツクヨミちゃんも座って座って!」
母さんがウズメとツクヨミを椅子に誘導する。
うちってこんなに椅子あったっけ。
……ああ、そういえば多々良の家族と一緒に家で飯を食うこともあるから椅子の予備があるのか。
普段は3つしか使わないからなあ。
「人間の手料理はあまり食べたことはないなぁ」
「私たちは食べる必要がないですからね。でも、お母様の作る料理はとてもおいしいですよ?」
「楽しみです」
テーブルをみんなで囲む。
俺の隣にはツクヨミが座った。
「箸、上手に使えるか?」
「こっ、子ども扱い!?私だってこれでも神さまだから、幸くんよりずっと年上なんだよ!?」
「そうだった、悪い悪い」
「私の見た目が子供っぽいのかな!?」
うーん、身長は小さいけどそんなに子供っぽくは見えないんだよなあ。
多分からかってみたくなったんだろう。
普段の俺ならこんな事しなさそうなもんだけど……女の子と話すの、あんまり得意じゃないし。
「じゃあ食べるか!いただきます!」
「「「「いただきます」」」」
いつもより、いただきますの声が増えている。
なんか、にぎやかだ。
今日の夕飯は母さん自慢の肉じゃがだ。
さすが母さん、和食の味付けは最高だぜ。
「うん!やはりお母様の料理はとっても美味しいです~!」
「……!これ、すごくおいしい!」
ツクヨミが笑顔になった。
人を笑顔にできる料理ってすげえな。
「さすがだな母さん」
「もちろん!料理は得意中の得意よ!」
もう店でも開いたらいいんじゃないっすかね。
きっと儲かりまっせ。
「母さんの肉じゃが、うまいだろ?」
「こんなおいしい肉じゃが食べたことないよ~!」
ツクヨミが笑顔で肉じゃが……いや、肉とジャガイモだけをほおばる。
いんげんとしらたきとにんじんはどうした。
「ツクヨミさん?あなたにんじんを食べていないようですが?」
「ぐぎゅっ……」
ツクヨミが変な声を出した。
こいつにんじん苦手なのか。
「……」
ウズメが無言でツクヨミを見つめる。
「……」
ツクヨミは、にんじんを見たまま動きが止まっている。
「……」
ウズメに便乗してか、父さんも母さんもツクヨミを見つめた。
俺はどうしようか。
「……あむ」
沈黙に耐えかねたのか、ツクヨミがしらたきといんげんとにんじんを一気に口に放り込んだ。
目を閉じるツクヨミ。
「……食べた」
「はい、ちゃんと食べるところは見ていましたよ」
ツクヨミは涙目、ウズメは笑顔になった。
どうやらにんじんは本気で苦手らしい。
「苦手なものを食べるなんて、ツクヨミちゃん偉いね~!」
母さんがツクヨミをほめた。
「しらたきといんげんはおいしかったです!」
正直な感想を言うツクヨミ。
まあ苦手なら仕方ないよな。
そして、ツクヨミの取り皿にはまだにんじんが残っている。
ツクヨミが嫌そうな目でにんじんを見た。
仕方ない。
「あっ、幸くん……」
ツクヨミの皿からにんじんをもらい、口に入れる。
うん、さすが母さん、にんじん単体で食っても美味い。
「まあ一個でも食べれたらいい方だろ。無理して食う必要はねえよ」
「あ、ありがとう……」
「まあ幸さん、ツクヨミさんには優しいのですね。私にも優しくしてくれてもいいんですよ?」
俺がウズメに優しく?
「……ハッ」
「鼻で笑われました!!!」
残念ながらウズメに優しくする気はない。
いじってる時の方が反応が面白いしな。
「急にかっこつけちゃって、幸どうしたの?」
「かっこつけてねえよ!?」
「父さんの目からもかっこつけたように見えたぞ?」
「ちげえからな!?」
普通に食ってあげただけなのに!
「幸くん、ほんとにありがとね」
ツクヨミが笑顔でこっちを見る。
……さすが神さま、笑顔の破壊力高すぎだろ。
夕飯を食べた後、ウズメの部屋に戻ると、ウズメが膝から崩れ落ちた。
「だっ、大丈夫か!?」
慌ててウズメのもとに駆け寄る。
いきなり倒れこんだが、その表情は全く深刻そうではなかった。
「すみません、どうやら久しぶりに動いたので足が疲れてしまったようで……」
「体調的に問題とかは?」
「ないですね。恐らく寝れば大丈夫かと……」
心配したのに何でもねえのかよ。
足が疲れたって、そりゃしばらくぶりに動いたのに踊ったりしたからだろ。
「寝かせればいいんだな」
「お願いできますか?」
「仕方ねえな」
ウズメを持ち上げて、布団に運ぶ。
「わ、わわっ、お姫様だっこ……」
ツクヨミが顔を赤くしてこっちを見た。
「ほれ」
「ぎゃっ」
少し上から落としてやった。
「もうちょっと優しく運んでいただけると嬉しいのですが……」
「いつもの俺だったら運ばないまである」
「運ばないと言っても、幸さんは優しいのでなんだかんだいって運んでくれると思います」
「……次から運ばねえ」
「えー」
部屋を出ようとすると、ウズメがこっちを向いた。
「幸さん、ありがとうございました。おやすみなさい」
「ああ、お休み」
よし、今日は多々良もいないし、どうしようかな。
部屋で……宿題でもやって……何してようかな。
……と、袖を引っ張られた。
「……ん?」
「あ、えと、幸くん」
こっちを見てどうすればいいかわからないといった視線を送ってくるツクヨミ。
……そういえば、ウズメは寝かせたけど、こいつもいた。
「えっと……俺の部屋に来るか?」
「う、うんっ」
ツクヨミを俺の部屋に入れる。
入れたはいいが……。
「今日はこの後は出かけるのか?」
「そ、そう……夜の平和を守らなきゃ、だから……」
ウズメがいなくなった途端、会話が続かない。
よく考えてみたら、俺とツクヨミは今日で初対面だった。
そんでもって、超絶美少女。
そんな子と俺の部屋で二人きりとか……。
めっちゃ緊張するぞぉ……!
「あ、あのっ!」
「なっ、なんでしょう!?」
いきなり喋りだしたツクヨミに驚いて変な反応になってしまう。
「あ、あははっ、何今の反応、変なのっ……!」
声が裏返ってしまった俺の反応を見て笑うツクヨミ。
恥ずかしい。
「ゆ、幸くん、異性とあまり話せないって本当だったんだね」
「あ、ああ……その、緊張する、っていうか……」
「わかる……さっきも言ったけど、私もあまり話したことないから……」
ツクヨミが目をそらしてもじもじする。
その頬には赤みが差している。
何この子超女の子じゃん。
「えと、しゃべりづらくてごめんね……?」
「お、俺も全然しゃべれてないし、気にすることじゃないよ」
「あっ、えへへ、ありがとう……幸くん、優しいんだね」
ドキドキしちゃうんだけど。
「わっ、私、男の人と話す機会が少なかったせいで今までこうだったからさ……その、私と、異性と話す練習、してくれないかな?」
「あ、お……おう、その、俺でよければ」
「ありがとう!えと、これから、よっ、よろしくねっ!」
ツクヨミが真っ赤な顔で右手を差し出してきた。
これはいわゆる握手というやつですね?
握手……握手ですか。2回目だけど。
改まってみると、女の子の手を握るとか緊張しますね。
多々良と手をつなぐのとは、ちょっと違う。
いや、多々良のことを女の子として見ていないわけじゃないんだけど。
「よ、よろしく」
意を決してツクヨミの手を握った。
やっぱりめっちゃ女の子の手だ……やわらけえ。
「じゃ、じゃあ、私はそろそろ行かなきゃだから……幸くん、また明日ね!」
「ああ、また明日」
ツクヨミが窓から出て行った。
笑顔で、手を振りながら出て行った。
……今まで会ったどの女の子よりも女の子だ……。
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