第6話 聞いてみました

「ただいまー」

「ああ幸、お帰りなさい」

 家に帰ると、リビングから母さんの声が聞こえてきた。

 夕飯の支度中かな?

「遅かったわね?また多々良ちゃんを連れまわしてたの?」

 またってなんだまたって。

 もしかして昨日のことか。

 まあ多々良の母さんとうちの母さんは仲いいし、そういう話は筒抜けだよな……。

 いや、昨日は連れまわしてたわけじゃないんだけどね?

「再テストです。しっかり多々良も家に送ってきたから」

「あらそう、さすがに赤点とかはやめてね?」

「そこまではならないようにしてる。さすがに留年とかは嫌だしな」

「留年なんてしたら、お父さんが怒っちゃうわよ?」

「そりゃ怖い……」

 うちの親父は普段は特に何も言ってくるわけでもないが、怒る時は怒る。

 10段階評価中の4とかなら、怒られないけど。

「ウズメさんが退屈そうにしてたわよ?幸、会いに行ってあげなさいな」

「えーあいつに会いに行くの……」

 様子は見てやろうとは考えなくもないけど話し相手ってのは……。

 いじる以外で真面目に話に付き合うとめちゃくちゃ疲れそうだし……。

「ご飯できたら呼んであげるから、行ってきなさい」

「手がかかるなあ」

「神さまなんだから、仲良くしておいて損はないと思うわよ」

「俺、まだ信じ切ってないからね」


「よう、アメノウズメ」

「あっ、幸さん!お帰りなさい」

「体は動くようになったか?」

「まったく動きません!」

 だよなあ。

「幸さん幸さん」

「なんだ」

「私思ったのですが……アメノウズメって、フルネームで呼ばなくてもいいですよ?長くないですか?」

 別に6文字くらい長くもなんともないと思うんだけども……。

「じゃあなんて呼べばいいんだ?」

「多々良さんも、お母様も、私のことを『ウズメさん』と呼んでいますし、ウズメでいいですよ」

「よし、じゃあウズメ、聞きたいことがある」

「なんでしょう?」

 ウズメが微笑みながら首を軽く傾げた。

 ああ、そういう動きはできるんだっけか。

「お前さ、身体が動くようになったら神である証拠を見せるって言ってたけど、何するの?」

 ちょっと疑問に思っていた。

 神的な能力は何かないのかと聞いた時、こいつはないと言った。

 でも、それでどうやって証拠を見せるっていうんだ?

「ああ、それでしたら、他の神を呼びます」

「はい?」

「他の神さまを呼ぶんですよ」

 他の神さま……まさかとは思うけど。

「ウズメみたいなのが何人もいるってことか!?」

「何言ってるんですか幸さん」

 ウズメが変なものを見るような目でこっちを見ている。

 めちゃくちゃ屈辱なんだけど。

「いやあお前みたいなのがたくさんいたらどうしようかと……神降ろしとかそーゆーようなもん?」

「えーと、そーゆーようなもんじゃないですね」

 ウズメが俺の口調をまねて言う。

 ちょっといらっとした。

「じゃあどーゆーようなもんなんだよ」

「呼ぶんですよ、地上に」

 ウズメが至極まじめに言った。

「……えっ?物理的に?」

「はい、物理的に」

「……今できたりはしないの?」

「残念ながら、身体が動かない今、踊ることができないのでそれはできないのです。神さまだと認めてもらうためならすぐにでもしたいところなのですが……」

 残念そうに、ウズメが言う。

 できるってこと、なんだよな。

「ちなみに、どんな神さまを呼べるんだ?」

「誰でも呼べますよ!ただ、人間をあまりよく思っていない神もいますので……基本的には、私のお友達を」

「お前友達いたんだな……」

「失礼ですねー!」

 ウズメが手を振り上げた。

 ……ん?

「あの、手、動いてません?」

「……動きましたね!」

 ウズメが笑顔になった。

 うわあ、すごい嬉しそう。

「もっかいやってみ?」

「はい!…………あれ?」

 動かそうとしているんだろうか、手を握ったり開いたりするが、腕が上がらない。

「今動いたよな?俺はっきりと見たよ?」

「わ、私も動かしたような気がしましたが……あれえ?」

「こう、もうちょっと勢いよくやってみ?」

「こうですかね……えい!」

 今度は腕が動いた。

 ……白くて細くて、きれいな腕だ。

 ってああいやいや。

「力を込めて勢いよくやれば動くんだな。ほかのところは?」

「試してみます!」

 動きは分からないが、多分力を入れているんだろう、ちょっとプルプルしてる。

「……動きません!」

「腕だけか……」

 くそっ、早く全身動けるようになってくれよ。

 てか、1日で腕が動くようになれば割と早く全身動くようになるんじゃ……?

 それこそ、1週間以内くらいに?

「でも、勢い良く動かさないとダメですと、ご飯も自分で食べられそうにないですね」

「え、ご飯食べなくていいんじゃないの?」

「ええ、そうなんですが……お母様が、一応食べなさいと」

「あのおせっかい焼きめ」

「でも、お母様のごはん、とてもおいしかったです」

 ウズメが笑顔で言う。

 ……こいつ、やっぱり笑顔はかわいいんだよなあ。

「ああ、母さんは料理上手だからな」

「幸さんは料理はしないんですか?」

「……あんましないな」

 いつも母さんが作ってくれるし……。

 でも、作れるようにはなってた方がいいよな……。

「私も料理はすることがないので、お母様に教わりたいですね!」

「したことないのかよ……って、腹減らないんだよな」


「夕飯できたら呼ぶとは言われたものの……どうせあと1時間以上あるからなあ。てか眠いなあ」

「でしたら幸さん、一緒に寝ませんか?」

「何言ってんのお前」

 誘ってるのかな?

「いえいえ、男性は女性と一緒の布団で寝たいという願望が強いらしいじゃないですか」

「それは前提とし一緒に寝たい相手は好きな人って決まってんだよ」

 そもそも一緒に寝るってどういうことだかわかってんのか。

 ……いや、わかってないからこういうこと言ってんだよな。

「神さまと一緒に寝れるだなんて、めったにない経験ですよ?いかがですか?」

 何その誘い文句。

 いや確かに本当にない経験だとは思うけどさ。

 例えばこいつの寝ている布団に入ったらドキドキでもするんだろうか。

 いや、きっとしない。

 ……しないなら、別にいいか。

「んじゃ寝させてもらうわ」

「はい、どうぞいらしてください」

 ウズメが横になっている布団に入ると、めっちゃ暖かかった。

 さすが人の寝ている布団。

 こりゃすぐにでも寝れそうだぜ。

「幸さん幸さん、これ、同衾、っていうんですよね?」

「ぶふっ。ち、違う。これは同衾じゃなくて、添い寝ってやつだ」

「そうなんですか?私知らなかったです」

 同衾って言われるとどうしても性的に感じてしまう……。

 なんだ、俺ドキドキしてんじゃねーか。

 さすが、多々良と姫川以外には女耐性がない俺だぜ……。

 女子から話しかけられることは多いんだけど、あんまり慣れないんだよな……。

 チョコレートはいっぱいもらえるけど。

「幸さん、心拍が上がっているような気がします。どうかしましたか?」

「な、なんでもねーよ」

「体調悪いんですか?」

 悪かねーよ!

 なんで俺がこんなやつでドキドキせにゃならんのだ……。

 くそっ、勝手に反応する自分の体が憎い。

「あっ、そうだ。信じてもらえるかどうかは分かりませんが、少し力をお見せしましょう」

「え、身体が動かないからできないんじゃ?」

「それ以外にもできることはありますよ。では、いきますよー」

「お、おう」

「―――ゆっくり、お休みくださいね」

 それを聞いた瞬間、俺の意識が途絶えた。


『幸?夕飯できたわよー?』

 母さんの声が聞こえる……が、起き上がれない。

 全身から力が抜けている。

 なんだこれ……ってか、なんか心地いいような……眠い?

 んー、でも体が妙にすっきりしている……。

「幸さんはこちらにいますよー」

 ウズメの声が近くで聞こえた。

 あ、そういえば俺ウズメと一緒に寝てたんだっけ。

 寝る前に何かされたような気がしたんだけど……。

「幸?ごはん……幸!?」

 母さんが勢いよく近づいてきた。

「あんた何でこんなところで寝てるのよ!?」

 なんでこんなところってそりゃ……。

 ……。

「ああああああああああああああ!?」

「幸さん!?」

 いきなり動き出した俺にぎょっとするウズメ。

 俺こいつと一緒の布団で寝てたの!?

 しかも熟睡か!?

「あ、あんた、ウズメさんに何もしてないわよね?」

「な、なんもしてない。それは誓う」

「幸さんがお疲れのようで眠そうにしていたので、眠らせてあげました」

「あらあら、幸にありがとう……本当に何もされてない?」

 おいコラ母親。

 疑ってんじゃねえ何もしてねえから。

「どちらかというと何かしたのは私……ということになりますかね?」

「「えっ」」

 俺と母さんが同時に反応した。

 何かしたって……まさか俺寝てる間に何かされたのか。

 でもこいつ動けないはずじゃ……。

「少し神さまの力を使って眠ってもらいました!」

 なんつーことしてくれたんだ。

 いやなんか疲れは取れたけど!

「それで幸の疲れを取ってくれたのね!ありがとうね、ウズメさん!」

「いえいえ!このくらいは朝飯前ですよ」

「てか、神さまの力って何だ?お前そういうの使えないんじゃなかったの?」

「ふふ、神さまなら誰にでも使える力なので、あまり信じるに足りることではないかなーと思っていましたので」

 十分不思議な力だっつーの。

「あとで教えますから、先に幸さんはお夕飯をどうぞ」

「本当にあとで教えてくれるんだな?」

「はい、といっても、やり方などはお教えできませんが」

「いや別にそこまでは求めてねえよ」

 神の成すことだ、人間にできるとは思っていない。

 ただちょっと、証拠を見せてもらいたかっただけだ。

「今日の晩御飯はハンバーグよ」

 大好き。


 食いすぎてしまった……。

 あんまり動く気にはなれないな。

 どうしたもんか。

 今日のテストの復習……はしたくねえし。

 多々良が家に来てくれたらまあ一緒にやってもいいかなって感じだけど。

 基本的にあいつは夜は来ないからな。

 こっちから行ってもいいんだけど。

 仕方ない。

「飯食い終わったから来たぞ」

「ふふ、お待ちしておりました」

 いまだに布団で横になっているアメノウズメが首だけこちらに向け、笑顔で迎えてくれた。

 寝てるという点を除けば、帰ってきたら笑顔で迎えてくれるということになるよな。

 そういう奥さんがいるシチュエーションにあこがれる男子も多いんじゃないか。

 ほんと、なんで外見はこんなにいいんだろ、こいつ。

 ほら、可愛いとか美しいとか、分類ってあると思う。

 こいつはかわいいと美しいを両方兼ね備えたようなパーフェクトな顔をしている。

 んでもって性格はわけのわからない頭のおかしい感じ。

 どっちかっていうと元気とか、そんなような感じ。

 それだったらもうちょっとなんかあるだろう。

 めっちゃ美しい顔でわけのわからないこと言われてもこっちが困惑する。

 だから、見た目相応の性格であってほしいというか……こう、大和撫子やまとなでしことか、そういう感じの。

 あ、多々良は元気な可愛さに全振りしてると思う。

「んで、さっきのが何だったかって教えてくれるんだよな」

「はい」

「ちなみに、それって教えちゃっていいやつなの?」

「大丈夫ですよ、人間に使えるものではないですから」

「……まあ、そりゃそうか」

「はい、これは私たちが使える……言霊ことだまです」

 ウズメが、笑顔でそう言った。

 ……なんだって?

「ごめん、もう1回」

「言霊、ですよ」

「言葉自体に力が宿っているとかいうアレ?」

「はい、アレです。もともと、私たち神の言葉は人々へ道を示し、導くためにあるものでした。幸さんも、神のお告げ、なんていうようなことを聞いたことはありませんか?」

「ゲームで聞いたことあるよ」

「ああ、ド○クエですね、レベルアップまでに必要な経験値を教えることはできませんが……一応、そのようなものです」

「ちょっと待てお前今なんて言った」

 俺の聞き間違いじゃなければとんでもない単語が聞こえたような……。

「ドラ○エですか?」

「聞き間違いじゃなかった!」

 神さま知識に偏りがないかな!?

 猫だましを知らなかったりカメラの知識はポラロイドだし学校は普通に知ってるみたいだけど!

 さすがにドラク○は驚きだぞ!?

「名作と言われているらしいですよね。天界でも一時期流行りましたよ」

「天界でゲームできるんだ!?」

 というか電気通ってるんだね!?

「やろうと思えばなんだってできますよ。天界とは言えど雲の上というわけでもありませんし。川とか、普通に流れてますよ」

「なんというか……いろいろ驚きだわ」

 神がゲームやってるとか……。

「それで、何の話をしていたんでしたっけ」

「言霊の話だよ」

 数瞬で忘れるとか、マジこの神アホ。

 やっぱりなんとなく神さまっぽくないんだよなあ……。

「ああそうでしたそうでした。神の言葉を聞くための巫女がいるように、神の言葉には力があるんです。それも、人々に直接働きかけるくらいの力がです」

「神さまの言葉に宿る力は強いってことか……」

「そういうことです。先ほど幸さんにかけた言葉は、休みなさいという神の意志です。ふふ、逆らえなかったでしょう?」

 ウズメが楽しそうに笑った。

 つまり、こいつが力を込めて俺に言えば俺はこいつの意思に従って何でもするということか。

 まじかよ……。

「まあでも、悪用するようなことはありませんよ。私だって、邪神にはなりなくないですし」

「悪用されたら困るっつーの」

「ふふ、そうですよね。まあ、先ほどのはそういう神さまの力です。お分かりいただけましたか?」

「ああ、まあ、分かったよ」

 本当に、神さまなんだなこいつ……。

「あら、幸ったらここにいたのね」

 母さんが部屋に入ってきた。

「母さん、何しに?」

「私もご飯食べ終わったからね。次はウズメさんの夕飯の番よ」

「こいつなんも食べなくても大丈夫なんだろ?」

「1人だけ食べないなんて私が許さないわ」

 この母、強情である。

「じゃあ俺は部屋に戻るよ」

「分かったわ」

「幸さん、またいらしてくださいね」

「……分かったよ」

 部屋に入り、ベッドに横になる。

 あいつ、本当に神さまなんだなあ。

 体が動くようになったら神の力を見せるとは言ってたけど、あんなことされたらもう信じるしかないよな……。

 それに、どうにも知識がおかしいし。

 ……神って本当にゲームするのか?

 そこだけめちゃくちゃ怪しいけど。

 でも、あいつに言葉をかけられたとたん、俺は眠ってしまった。

 眠りにつくまでも多分すごく早かった。

 しかも、あの短時間で疲れはばっちりとれた。

 そうなると……まだ1回しかされてないけど、信じるに足りる。

 本当に、神さまを拾っちゃんたんだなあ……。

 トゥットゥー……トゥルットゥッ!

 トゥットゥットゥー……トゥルットゥッ!

 ケータイが鳴った。

 そういえば帰ってきてから確認してねーな……。

 この時間にSk○peってことは佐々木か、秋川か多々良だな。

 倉持は10時には寝てるし。

『お!ユキちゃん!』

 多々良でした。

「こんな時間にどうした?」

『ひまー』

「暇つぶしかい」

 まあ俺も暇だったからいいけど。

『っていうのは嘘で、ユキちゃん大丈夫?』

「え、なにが?」

 俺、何か心配されるようなことしたっけ?

『さっきユキちゃんに電話したんだけど、出にゃかったからさー』

「え、俺に電話した?」

『したよー、7時くらいかにゃ?』

 7時というと……あ。

「ごめん、その時間寝てた」

『あ、にゃーんだ、よかったー。にゃにかあったのかと思ったよー』

「ごめんごめん」

『ん、いいよー!ユキちゃんの生存確認ができたからね!』

 俺は死んだと思われていたらしい。

『ウズメさんの調子はどうにゃの?』

「ああ、勢い良く動かせば腕だけ動くようになったぜ」

『にゃんで腕だけ……。』

 それ俺も謎だわ。

 腕だけってのもおかしな話だよな。

『まあ少しは動くようににゃってよかったんじゃにゃい?』

「確かにな。動けるようになったら帰ってもらうからな」

『ふふ、ユキちゃんまだ言ってるー。たぶん、動けるようににゃってもウズメさんはしばらく帰らにゃいと思うよー?』

「いや多分そうなんだけどな……」

『でもユキちゃん、にゃんだか楽しそうだね?』

「えっ」

 楽しそう?

 俺が?

 なぜに?

『にゃんでって思ってる?初めて会った時と今とじゃ声の雰囲気が全然違うよー?』

「俺に対してそういう判断ができるのか……すげえな」

『えへへ、伊達に付き合いにゃがくにゃいよ』

 ちなみに、多々良は幼なじみという言葉をあまり使いたがらない。

 多々良の発音だとおさにゃにゃじみになるからかな?

「明日って何かあったっけ」

『にゃーんにもにゃい、普通の授業だよー』

「提出物とかは?」

『あったらユキちゃんの部屋で一緒にやってるよー』

「それもそうか」

『そうだよー』

「じゃあ、もう今日はやることねーな」

『そうそう!だから暇だからはにゃし相手ににゃってー』

 それで電話してきたってわけね。

「そういえば、今日あいつに神さまだっていう証拠を見せてもらったよ」

『え、そうにゃのー!いいにゃー、たたらも見たかった!』

 電話の向こう側で、はしゃぎ気味の声が聞こえてきた。

 たぶん神さまの本領発揮でも見せてもらったと思ってるのかな。

「まあそんな大したものでもないって本人は言ってたんだけどさ、あんなことされたら、信じざるを得ないよな……」

『え、ユキちゃん、ウズメさんににゃんかされたの?』

 疑問、というよりは少し心配に寄った声で、多々良が聞いてくる。

 こういうとこ、優しいよな。

「まあ今日の再テストで疲れてたわけなんだけど……なんか、言霊ってのをかけられたよ」

『言葉に宿る力ってやつ?』

「そうそう」

『どんにゃ感じだったの?』

「ゆっくりお休みくださいって言われて、その場で寝ちまった」

 あれは本当に驚いた。

 体が自分の意思とは関係なく休息を求めた。

 その結果が、あいつとの同衾なんだけど。

『あー、だから電話に出れにゃかったんだねー』

「そういうことなんだよ。ごめんな」

『全然大丈夫だよー。……というかさ、その場で寝たって、ユキちゃん』

 多々良の声がすっと低くなった。

 何か疑われてる!?

「確かに誘われるままアメノウズメが寝てる布団で一緒に寝ちまったけど、何もしてないからな!それは絶対に誓う!」

『まだにゃにも聞いてにゃいけど……まあ、ユキちゃんイケメンだけど案外おんにゃ耐性にゃいから、にゃにもしにゃいか』

「そ、そう、そういうこと」

 多々良も分かっていたようだ。

 そ、そうだよ、俺はあんまり得意じゃないんだよ、異性としゃべるの。

 多々良と姫川はともかくだけど……イケメンってだけで人としゃべるのが得意とか思われがちな感じがするけど、まったくそんなことはない。

 俺はそこら辺のチャラ男とは違うんですよ……。

『でもそのおかげで声が元気だもんね。よかったね!』

「ああ、まあな」

『明日体育あるから、疲れてたら成績落ちちゃうね!』

「体育か……」

 10月の持久走大会に向け、今の体育はただの走り込みだ。

 めんどくさいんだよなあ……。

『じゃあたたらそろそろ寝るねー』

「ずいぶん突然だな」

 さすが、猫は気まぐれだ。

 でも、こいつの性格って人懐っこいしどっちかっていうと犬だよな……。

『じゃあユキちゃん、お休みー』

「まったく話聞いてねえな」

 明日体育か……なんか、テンション下がってきた。

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