第5話 やられました

「……ふあぁ、ねむ」

 昨日多々良と勉強した疲れのせいか、なんだか寝た気がしない。

 どんだけ勉強に耐性ないんですか、俺の体。

「とはいえ……」

 望んだ形じゃないけど、うちに非日常的なのがやってきました。

 さっそくそいつがいる部屋に行ってやりましょう。

「……ぐう」

 寝てるね、こいつやることないからって惰眠を貪ってやがるね。

 まあ怪しいところではあるが、ご飯を食べなくてもお腹が減らないって言ってたし、それも手伝って気がすむまで寝れるんだろう。

 うらやましい体質しやがって。

 ムカついたので起こすことにします。

「えいっ」

 デコピン。

「……ぁいたっ!?……ぐう」

 コノヤロウ。

「オラ」

 パァンッ!!

 部屋に銃声のような音が響いた……フッ、俺の猫だましさ。

「……ぎゃっ!?な、なんですか!?」

 よし起きた。

「なんですか、じゃねえよ朝だよ」

「あ、幸さん、おはようございます。えーと……今のは?」

「俺だ」

「えっ……?幸さん、口からそんな音が出せるんですか?」

 至極真面目な顔で言うアメノウズメ。

「ねえどうしたらそういう風に頭が回るの?頭のネジ外れてストッパーが効かないからそんなぶっとんだこと言えんの?」

「む、なんだかおバカにされているような気がします!」

「気がするじゃねえよバカにしてんだよ!」

 やっぱり朝っぱらから頭がおかしいなこの自称神は。

「で、お前は動けるようになったのか」

「まだどこも動いてくれません」

 まあ昨日の今日で動けるんだったらわざわざしばらく泊めろとも言わないか……。

「朝飯はいらないんだろ?」

「あ、はい、そこはお気になさらず」

「食わなくてもいいとか楽な体質してんな」

「ええ、なんたって神ですから」

 その言葉が妙にうさんくさいんだよなあ。

「お前、動けるようになったら自分が神さまだっつー証拠見せろよな」

「ごはんだけでは信じていただけませんか……?」

「断食の達人とかいるしな」

 俺はそう簡単に信じないぞ。

「てか、簡単に見せられる証拠とかねえの?写真とかさ」

「写真……?ああ!あのパシャッとやると道具の下からにゅっと出てくる風景を切り取った紙ですね!」

 道具の下からにゅっと……?

「知識古くねえ!?ポラロイド!?」

 今の時代知らない人の方が多いんじゃねえの!?

「天界から見たことありますよ!今では見かけませんが……」

 そりゃ今では見ねえよ、何年前だと思ってんだ。

 というか、こいついくつなんだ……?

「お前何歳なの?」

「まあ、女性に年齢を聞くのは失礼ですよ、そもそも、神には年齢だとかそういう概念はありませんから!」

 顔を赤くするアメノウズメ。

 ……ははーん。

「つまり、自分の歳も分からないババアってわけだ?」

「バッ……!?なんてこと言うんですか幸さん!さすがの心優しいアメノウズメさんでもそれは怒っちゃいますよ!」

「お前が会ったことのある人物で古くて印象に残ってる人とかいないのかよ」

「……卑弥呼は、恥ずかしがり屋のハリネズミの女性でしたよ」

 うわお。

 とんでもないのきちゃった。

 いや歴史の教科書で卑弥呼がハリネズミとの混血だってのは知ってたけど。

 ……ちょっと待ってということは。

「それだと、お前軽く1700歳は超えてることになるんだけど……」

「かっ、神さまは歳を取らないんです!本当ですからね!」

 顔を真っ赤にして否定するアメノウズメ。

 めんどくさいと思ってたけど、案外いじりがいがあるかもしれない。

『幸ー!まだ寝てんのー?そろそろ起きなさーい!』

 下から母さんの声が聞こえてきた。

 時計を見ると、もう午前7時だ。

 こいつとずいぶん長話をしちまったもんだ。

「起きてるよ!今行く!」

「行ってしまうんですか?」

 アメノウズメが少し寂しそうな顔をした。

 なんでそんな顔すんだ、ちょっとかわいいからやめろ。

「俺らには学校ってもんがあるの。ずっとお前にかまってらんないの」

「ああ、学校ですか!お勉強、頑張ってくださいね!」

「ああ学校は知ってんのね」

 そっちに驚きだよ。


「ユキちゃんおっはよー!」

「おう、おはよう多々良」

「漢字、ちゃんと覚えてるうー?」

「んー、熟語なら大丈夫そう」

「あー、やっぱり慣用句が鬼門だよねー」

 多々良がいやそうに頭をゆらゆらさせる。

「日差しきついし、まだまだフードを日傘が必要だにゃー」

「大変なもんだな……」

「もうにゃれたけどねー」

 そういう多々良に合わせて、ゆっくり歩く。

 ……そういえば。

「多々良、昨日俺んちの階段を駆け上がってたよな?大丈夫なのか?」

 片目しか見えない多々良は、距離感をつかむのがかなり苦手なはずだが……。

「ユキちゃんの家はもう数えきれにゃいくらい行ってるし、距離感ってよりは感覚的にゃもんで大丈夫にゃのだ!」

「そっか……いや、大丈夫ならいいんだけどさ。階段から落ちたりするなよ。さすがに助けらんないし」

「はーい!……あ!信号の右側が光ってる!止まらにゃきゃ!」

 多々良が信号前で立ち止まった。

「うーん……歩いてても立ち止まってても暑いな……」

 まだ9月前半。

 どのくらいまで暑さが続くか……。

 左手がきゅっとつかまれた。

「……ん?多々良、どうした?」

 手を握ってきたのは多々良だ。

 まあ、周りを見ても多々良しかいないんだけど。

「ほら、ユキちゃんに合わせれば早く歩けるから……早く学校に着いた方が、早く暑さからもしのげるし、楽じゃにゃい?」

「あと……」

「あと?」

「っ!う、ううん!にゃんでもにゃいよ!ほら、左側が光ったよ!行こう!」

 多々良がなぜか顔を赤くして少し慌てた。

 ちょっと気になるけど、まあ行こうか。

 少しだけ歩くペースを速めると、多々良もそれについてきた。

「この速さで大丈夫か?」

「うん!大丈夫だよ!」

 にこにこしながら歩く多々良。

 ……つないだ手が熱い。

 やべ、手汗かいてるんじゃねえのこれ。

「てか、この身長差で手つないでると同級生の幼なじみってよりはむしろ保護者同伴とかに見えそうだな」

「たたらを子ども扱い!?」

「いや、見た目の話だよ」

 そうそう、見た目の話。

 半分本当だよ。

「むー……もう身長止まっちゃったから仕方にゃいけど……」

「まあその身長くらいの方がかわいく見えるんじゃないか?」

「や、やだにゃあ、かわいいって……」

「お、照れてる?」

「て、照れてにゃいよ!」


「さーて、おはようございますー。今日は待ちに待った漢字のテストですー。みなさん、合格できるように頑張ってくださいねー」

「ど、どうしようか……」

 熟語なら平気。

 慣用句多発はやめてくださいお願いします。

 まじで、お願い。

「2限に行うんで、準備しててくださいねー。合格できなかったら放課後再テストですからねー」

 多々良は大丈夫だろうか……。

「……」

 あっ、ダメだ。

 しっぽがなんか山形になってぴくぴくしてる。

 ああ、これアカンやつや……。

 ちょっと佐々木に目配せをしてみる。

 といっても真後ろだけど。

 俺の視線に気づいた佐々木が、こうべを垂れて首を振った。

 こいつもダメか……。

 倉持……はまあいいとして、秋川は大丈夫か……?

 あ、ダメだあいつなんも考えてない。

 俺ら、倉持以外はダメそうだな……。

「さて、佐倉くん、文化祭の配役やおにぎりの具は決めましたかー?」

「……あっ」

 すっかり忘れていた。

 主にあのアホ自称女神のせいで。

 そうだ、俺文化祭のクラス代表だった。

「すみません……ちょっと、近いうちに決めます」

「書類の提出もあるから、早めにお願いしますねー」

「わかりました」

 おにぎりくらいなら俺も作れるし……まあ、作る人と売る人を分けるところからか……。

「あ、じゃあ決めたいんでちょっとみんな放課後残ってもらえるかな?すぐ終わらせっからさ」

 とりあえず、みんなからの了承は得られた。


「ユキちゃん、テストどうだった?」

「ああ、まあ……いや、木晴こはる先生のことだからまあ予想はしてたけど……うん、再テストだわ」

「今日の5時からだってー……あとで一緒に見直みにゃおそー」

「そうだな……」

 熟語30点分、慣用句70点分。

 そんなに漢字って大切ですか。

「おうおう、俺も混ぜてくれよ。あの先生、厳しいったらないぜ」

 佐々木も来た。

 やっぱりダメだったか、キミも。

「あ、俺も混ぜて」

 秋川も来た。

 やっぱりこいつもか……。

「やっぱりキミたちはダメだにゃー」

 倉持が近づいてきた。

 余裕のドヤ顔、殴りたい。

「ユキちゃん……たたらくらもっちゃんにダメって言われちゃったー……」

 多々良が残念そうに俺の方に寄りかかってきた。

「おい倉持、多々良が落ち込んでるじゃねえか。どうすんだよ」

「えっ!?は、花丸はにゃまるさん、ぼ、僕そんにゃつもりは……」

「おいおい倉持、女泣かせるっつーのはどーなんだい?」

 佐々木が倉持の脇腹をつついた。

「待て!花丸さん泣いてないだろ!?」

「……え、えーん」

 両手で顔を隠し、わざとらしくウソ泣きをする多々良。

「あー、倉持がマルちゃんを泣かせたー」

 秋川も楽しそうに倉持をいじる。

「おいおい、俺の幼なじみ泣いちゃったんですけど?倉持くん?」

「いや明らかにウソにゃき―――あーもうわかったよ!昼休み、キミたちの勉強見ててあげるから!」

「よっしゃー俺ら放課後の再テスト絶対合格だってよ!再々テストになったら倉持のせいな!」

「わーい!」

 さっきまでウソ泣きをしていた多々良が突然笑顔で喜んだ。

「よっしゃー!んじゃ、責任もって見てくれよな?倉持よォ」

「頼むよ倉持」

「……僕、にゃにか悪いことでもしたんだろうか」

 どっと疲れた顔で、倉持がため息をついた。


「は~~~……」

 昼休み、再テストに向けてみんなで勉強している中、多々良がため息をついた。

「どうした?倉持の教え方が悪いとか?おいどうしてくれるんだよ倉持」

「ちょっと待て!?僕にゃにもしてにゃいぞ!?さすがに振りが雑すぎるだろう!?」

「すまんすまん。で、多々良、どうかしたのか?」

「いや~、再テストが5時からだから、今日はリアルタイムでアクアリオが観れにゃさそうだにゃーって」

「あー、あれか」

 アクアリオとは、多々良が好きなアニメのことだ。

 作品の名前は『悠久のアクアリオ』。

 水没した世界を舞台に、仲間と一緒に旅をしていく大冒険ファンタジーで、子供から大人まで幅広く人気がある。

 ストーリーもよくできていて、水の作画に気合が入っていることで有名だ。

 5年前に始まった漫画で、最近アニメ化された。

 多々良は原作のころからこれが好きで、多々良の部屋の本棚には、悠久のアクアリオが全巻並んでいる。

 原作の漫画はまだ終わりを迎えておらず、現在21巻まで発売されている。

 そんな悠久のアクアリオ、アニメの放送時間は毎週火曜の午後5時半。

 再テストを受けていたら放送時間に間に合わないのだ。

「録画はしてあるんだろ?」

「してあるけどー……ああいうのは、にゃるべくリアルタイムで見たいんだよね~」

 これがファン精神ってやつだろうか。

「まあ今回は仕方ねえよ。あの先生が厳しいのがいけねえんだからよ」

「佐々木、先生のせいにするのはよくにゃいと思うにゃ。現に、僕は合格しているからね」

「ユキちゃん、再テストは合格しようね!」

「おう、そうだな。大丈夫、俺たちには倉持がついてるから、再々テストなんてないんだぜ!」

「その僕に寄せる過剰にゃ期待はにゃんだ!?」

「頼りにしてるよ倉持~」

「秋川まで……こんなうれしくにゃい頼りってあんまりだ……」

 倉持がうなだれた。

「とはいえ、さっき出た問題は一応覚えてるんだよな……」

「たたらも覚えてる!」

「問題に出てきた慣用句覚えるだけでいいんじゃね!?」

「たしかに!」

「よし、じゃあこの中から探していこー!」

「お、おい!それだと僕が見ている意味が……それに、それだと勉強ににゃらにゃいじゃにゃいか!」

「にゃいにゃいうるさいぞ」

「仕方にゃくにゃいか!?」

 別に倉持もふざけてやっているわけではない。

 多々良だってそうだ。

 猫人の特徴が出ているだけだからな。

「それで再々テストににゃっても、僕は責任は取らにゃいぞ!」

「大丈夫!これはいける!」

「勝手にしろー!」

 と言いながらも、倉持はその場を去らない。

 一応そばにはいてくれるみたいだ。


「よし!再テストの準備は万端!ユキちゃん、いこ!」

「よーし、行くか。場所は指定されてたっけ?」

「えーとね、あ、たたらたちの教室だった!えへへ」

 多々良が手を頭の後ろに持って行って片目をつむり、舌をちろっと出した。

 あざとい。

「じゃあここで待ってればいいのか」

「そういうことだね!」

「僕は先に帰るよ、みんにゃ、落ちないようにね」

 倉持がかばんを持って教室から出ていく。

 どうやら待ってはくれないらしい。

「おいおい倉持、俺らを待ってくれないのかよ?一緒に帰ろうぜ?」

 佐々木が倉持を呼び止めようとするが、倉持が残念そうに首を振った。

「今日はバイトにゃんだ。だから、早く帰らなくちゃ」

「あー、バイトか。なら仕方ねえな!また明日な!」

「うん、また明日。みんにゃも、また明日」

「くらもっちゃんばいばーい!」

「じゃーなー」

「うん、またねー」

 再テスト組に手を振って倉持が帰っていった。

 ちなみに、文化祭で作るおにぎりは塩と昆布と梅になりました。

 他のクラスの人たちも教室に入ってくる。

 みんな、木晴先生の餌食になったんだな……。

 他クラスの人たちを見ると、見知った顔を見つけた。

「おーい、姫川ー」

「……ん」

 声をかけたら相手もこちらに気付いたようで、近づいてきた。

「あ、綺月だー!」

 多々良が寄ってきた人物に気付き、近づいて行った。

「お、多々良だ。再テストなんだ?」

「そうだよ!綺月も再テストなんだね!」

「あー、ほら、うちそんなに勉強得意じゃないし……」

 姫川が微妙な顔をした。

 彼女は姫川綺月ひめかわきづき。多々良の友人だ。

 といっても、小学校のころから多々良と仲がいいもんで、俺もいつの間にか結構話すようにはなっていた。

 彼女は鷲と人間からなる亜人だ。

 ただ鳥人種にしてはめずらしく、腕と羽が分かれている。

 大体の鳥人種は、木晴先生のように、腕に直接羽が生えている。

 だが、姫川は人間の腕を持ち、羽が背中から生えている。

 人間に例えると腕が4本あることになるが……。

 また鷲は大型の鳥であり、それに影響されてか姫川も身長が高い。

 なので、多々良くらいの小さくて軽い人間ならなんと背中に乗せて飛ぶことができる。

「あ、やっぱり倉持以外の男どもも再テストだったんだね。まあ、うちも再テストだけどさ」

「おう姫川、ちゃんと出たところ覚えてるか?」

「うち、そんなに覚えるの得意じゃないんだよ、佐々木」

「そんな困ったちゃんに朗報だ!俺らのこのノートにはな……さっきのテストに出てきた漢字と慣用句しか書いてないんだぜ」

「お、見せて見せて」

 多々良と仲がいいので、必然的にこいつらと顔を合わせることも多い。

 姫川も、俺ら男子4人と仲がいい女子だ。

「というか、授業中のテストと再テストって、同じ問題なのかな?今更なんだけどさ」

 秋川がそんなことを言った。

 ……そういえばそうだよね。

 同じ問題とも、限らないよね。

 木晴先生のことだから、ないとも言えない。

 え、もし問題が違かったら俺らどうなっちゃうの?

「よ、よせよ秋川、怖いこと言うんじゃねえ、は、ははは」

「そ、そうだよアッキー。木晴先生にゃらたたらたちのことも考えておにゃじ問題を出してくれるよ!た、多分……」

 秋川が余計な発言をしたせいでみんなが急に焦り始めた。

 か、かくいう俺もガクブルもんなんですけどね?

 木晴先生、まじで頼みますよ?

「う、うちもなんだか心配になってきた……ねえ佐倉、大丈夫かな」

「それ、もうみんな心配しちゃってるよ」

「再々テストはうちもさすがに嫌なんだけど……」

「大丈夫、そんなのみんな嫌だから」

「そうだよね……」

「はーい、そろそろ再テストを始めますよー。みなさん、どこでもいいんで席についてくださいねー」

 木晴先生が入ってきた。

 処刑の時間かな?

 ま、まあすべてはテストの内容次第だけども。

「多々良、できそうか?」

「う、う~~~ん……さっきのテストと問題が同じにゃら大丈夫……」

 つまり木晴先生が変化球を投げてきた瞬間こっちの負けが確定するわけですね……。

「はーい、お話はやめてくださいねー。テスト中なら不正行為になりますからねー」

 いっそテストも会話オーケーにしてさ、全員が答えを言い合ってみんなで合格できるようにしてくれてもいいんじゃない?

 そうそう、それがいいよ。

 それなら倉持みたいな頭いいやつにもテストの答えが聞ける。

 それってめっちゃ優しい世界じゃない?

「配りますねー。配られたら、始めちゃっていいですからねー」

 さて、裏返されたテスト用紙をめくろう。

 ここが、勝負だ。


「いやあ、先生マジ優しいわ、疑ってすんません」

「再テストの問題、同じのが出てきてたね!」

 再テストは楽勝だった。

 木晴先生ありがとう、あんまり成績落とさないでくれると嬉しいな。

 ダメか。

「多々良、日差し大丈夫か?」

「うーん、この時間だとやっぱり西日がまぶしいねー」

 フードをと日傘で顔を守る多々良。

 ケータイで時間を確認すると、17時55分と表示された。

「おう、もう6時か……まあ、昨日みたいにすげえ遅いってわけでもないし、大丈夫か」

「あ、大丈夫だよ、おかーさんにはもう連絡してあるから!」

「あ、そうか、なら大丈夫だな……」

「ふふ、昨日おかーさん怒ってたもんね?」

 多々良が楽しそうに笑う。

 こっちは笑い事じゃないんだけどな。

「まー、一人娘を夜中まで連れまわしてりゃそりゃ親としては怒るよな……」

「あの後おかーさんからほんとににゃにもされてにゃい?って聞かれたよ」

「俺ってそんなに信頼薄かったのか……」

 ちょっとショック。

「どっちかっていうと、信頼してるからこそじゃにゃい?」

「そういうもんかな」

「たたらは、そういうもんだと思うんだけどにゃー」

 そうならいいんだけども。

「というか、帰ったらあいつがいるんだよな……」

「ウズメさん?」

「そうそう……あいつ、いつ動けるようになるんだろ」

「んむ~、結構かかりそうじゃにゃい?」

「うん、そんな気はするんだけどね」

「神さまっていうしょーこが見れにゃい?」

「そうそう、俺はまだ信じ切ったわけじゃないからなー」

 何ができるのかは知らないけど、とりあえずこの目で何か証拠を見るまで俺は信じないぞ。

 いくら絶食できるとはいえな。

「あの人、面白そうだからもうちょっとおはにゃししたいかも」

「んー、朝面白かったぞ」

「お、ユキちゃん、少し態度が柔らかくにゃった?」

「ん、まあ、いじりがいがありそう」

「にゃにしたのかにゃ!?」

 多々良が詰め寄ってきた。

「いや、神さまだっつーからちょっと年齢をネタにしてやっただけだよ」

「あー、おんにゃの人に年齢を聞いちゃいけにゃいんだよー、ユキちゃんは悪い子さんだー」

「あいつの話によると少なくとも1700歳は超えてるみたいだ」

「そんにゃに!?」

 多々良のしっぽがビィンと立った。

「神ってそんくらいなもん……っていうか、もっと年行っててもおかしくないんじゃね?」

「んー、確かに神さまの年齢って分からにゃいから聞きたくにゃるかも……」

「だろ?」

「でも、ネタにしてバカにするのはよくにゃいと思うよー」

 ジト目で俺の脇腹をつついてくる多々良。

 やめてね、すっごいくすぐったいから。

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