第8話マネージャー

昇と握手した後に咲は、何気なく手をハンカチで拭いた。


「おう!来たか!さっそくボール磨きをしてくれ!」


部長の須賀直也が咲と愛に言った。


咲と愛はジャージに着替えて隅っこでボール磨きを始めた。


「やっぱり、田中先輩カッコいい~。」


咲は、練習をしている田中大輝を見つめていた。


「そう?サル君もなかなかじゃん。」


「あぁ、サルね。小さくてすばしっこいからポイントガードなのよ。コート上のキャプテンみたいなもんだからね。」


「詳しいね、咲。」


「別に…。」


田中大輝に会ってから授業をサボって図書室でバスケットのルールブックをトイレの中で勉強したのだ。


「あんた達、興味本意だけでマネージャーするなら辞めてよね。」


二年生のマネージャー金本未夢が咲と愛に言ってきた。


「マネージャーは、中途半端な気持ちでは出来ないわよ!分かってるの?」


「金ちん、あまり新人いじめはしないの。」


大輝が、未夢の肩を掴んで言った。


「俺の彼女がびびらせてごめんね。」


「か、か、彼女?」


咲は、失神寸前になった。



「やっぱり、大輝狙いでマネージャーしたいんだ。」


「ち、ち、違うし!わたしは純粋にバスケットが好きなの!」


あまりの剣幕に未夢は、ビックリして大輝にしがみついた。


「デカ女!声もデカいぞ!」


昇が、言うとみんな爆笑した。


「うるさい!チビザル!あんたは、もっと遠くからシュートを決められるように練習しなさいよ!中にいつも切り込んでレイアップ出来るわけじゃないんだからね!」


「わお!詳しいじゃん。」


未夢が、意外そうに呟いた。


「おい!お前、練習の邪魔すんな。」


キャプテンの直也は、真顔で咲に言った。


「うるさい!木偶の坊が!」


「ヤバい、言っちゃったよ…。」


昇が気まずい表情をして言った。


「誰が、木偶の坊だって?」


「あんたに言ったのよ!」 


と咲は、直也を指さして言った。



直也は、鬼の形相になって咲の首根っこを掴んで体育館から放り投げた。


「お前、少し、頭を冷やして来い。」


「うるさい!ゴリラが!」


咲は、捨て台詞を吐いて走って行ってしまった。



そのまま、咲は、家に帰ってしまった。


バスケットなんて大嫌い!


心の中で悪態を吐きながら自転車をこいだ。


スマホは、鳴っているが無視した。


家に帰ると玄関で光と女の子がキスしていた。


「今日は誰?」


「緑ちゃんだよ。じゃあね。」


緑ちゃんは、帰って行った。


「珍しいね、何か怒ってるみたいだけど…。」


「怒ってるわよ!」


「姉ちゃん。短気は損気だよ。」


あぁ、と咲は息を吐いて玄関に座り込んだ。


光の言うとおりだ…。


スゴい寂しい。


自室に入ると咲は、全裸のままベッドにダイブした。


何でわたしは生きてるのに…。


あなたは、何故、死んでしまったの?


相思相愛にやっとなれたと思ったら霧のように消えてしまったあなた…。


愛からの着信で目を覚ました。


【はい。】


【元気ないね。】


【うん…。】


【明日から須賀先輩がバスケ部に来て欲しいってさ。】


【気が重いな。】


【何かしないよりした方がマシじゃない。】


【そうだね、考えておく。ありがとう。】


電話を切って咲は、パジャマに着替えた。


〔あんた、ムッツリスケベだね。〕


〔お前、処女だろ?〕


他愛ない会話から始まった。


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