第15話入部
「…蘭子…にゅうぶって…」
「うん!決めちゃった!『放課後 殺人クラブ』って、楽しそうじゃない!」
こいつ、いつそれ聞いたんだよ……
それに、なんで俺まで入部になるんだ?
「ねぇ!みやび!
まずは、どんな事をすればいいの?」
「そうね、まずは簡単な問題から片付けていった方がいいわ。
暦、『オーギュスト老人の事件簿』を出しなさい!」
ロダンでいいだろ。
どっかの少年みたいに言うな。
「はい!」
暦は元気にそう言うと、一冊のノートを取り出して、みやび様に渡す。
その表紙には、「シャポニか自由帳」という文字が二本線で消されて、「ろだんの書くヤツ」と雑に書かれている。
きっと、子供の頃の余ったノートを使いまわしたんだろう……そのくらい、新しいのを買えよな。
表紙の昆虫の写真は、なぜかみやび様と暦の昆虫コスプレ写真になっている。
そこに、こだわるなら、やっぱり新しいのを買え。
「みやび!それには何が書いてあるの?」
蘭子は興味津々だ。
……本当に順応性が高い女だ。
きっと、急に異世界転生しても、わぉ!楽しそう!っとか言って、すぐに冒険を始めるだろうな。
そして、さっさと魔王を倒して、元の世界に戻り、色々あった事も、
一夏の思い出的なイメージで、アルバムに閉じて終わらせそうだ。
なんか、この部活について、色々聞きたい事はあるが、
蘭子を見ていたら、そんな事を考えている自分がバカらしくなってくる。
「この事件簿には、世界中の奇妙な事件や出来事、学校近辺での噂や色んな行事、
生徒からの悩み相談など、が記載されているのよ。
例えば…ゾディアック事件や、ヴォイニッチ手稿…
サノバビッチ一家や、ねこぴっちゃー漫画とか、かるぼっきがどうたらこうたら…
他にも、色々な物が徒然なるままに綴られているわ」
なんで、「いん」を踏んでんだよ。
っつーか、たいした事は書いてないじゃないか……
「じゃあ、まずは……簡単な依頼で、
◯逃げた猫を探して欲しい
◯妹が言う事をきかない
◯勉強をしてたら深夜ラジオを聞いちゃう……とか……」
しょうもないな。
「○消しゴムを使い切ってみたい!
○傘で空が飛べるか?
○初対面の人にいきなり告白して、成功する確率は?
○初めてのダッチ◯イフ作り!……とか……」
ユーチ○ーバーにまかせろ。
「あ…コレがいいかな…
『うちの近所にケルベロスが出るから、退治してほしい』ってやつは、どう?」
…ケルベロスだって?
「わぉ!おもしろそう」
蘭子は、身を乗り出す。
勘弁してくれ……俺は、しょーもない事に付き合わされたくない。
「おいおい、ちょっと待てよ……ケルベロスなんているワケないだろ?」
「そうよね」
おお、みやび様は意外にも同意してくれた。
じゃあ、なんでその依頼をチョイスしたんだよ?
「何よ、二人とも。
もっと、夢を持ちなさいよ!」
「夢って……つーか蘭子は、その話を信じるのか?」
「信じるも何も、実際に見た人がいるから、その依頼が来てるんでしょ?
だったら、ホントって事でしょ」
蘭子は、人差し指を立ててウインクする。
可愛い奴だなぁ蘭子は。
そして、バカだ。
「いやいや、その前にまず、この部活は悪い人間を殺すってのが目的なんだろ?(信じてないけど)
そんな便利屋みたいな事をやってどうするんだ?」
「的確な指摘ね、桜木」
褒められた。
嬉しいワイ。
「だが、甘いわ。
暦……理由を教えてあげて」
「はい、みやび様!
いいですか?桜木さん。
この部活は、出来たばかりであり、部員も一年生ばかりです。
それでは、殺人の依頼など入ってきません。
その為に、小さな依頼でも数をこなしていく事で、大きな依頼も入ってくるようになる。
まぁ、これは宣伝のようなものですよ。
それに、一応部活ですから、学校側に活動報告も必要ですからね」
……なるほど、一理ある。
つーか、こいつらも一年かよ。
……だとしても、
「でも、いくら便利屋のような事をしたって、殺人の依頼なんてものが、くるとは思えないぜ?」
「そうかもしれないわ。
でもね、すでにこの学校には、隠された闇が存在してるのよ」
「隠された闇?」
「ええ…ある殺人事件に関わった人物が、この学校にいるの」
「殺人事件だって!?
冗談だろ?
この学校で、そんな話は聞いた事がないぜ?」
「本当の話よ。
ただ詳細は、まだ言えないわ。
知りたければ、まずこの問題をまず解決してみせて!」
「すごいじゃない、樹!おもしろそうだから、やってみようよ!」
蘭子は俺の腕にすがりつく。
偶然か、わざとか知らないが、蘭子の胸の感触が上腕部の辺りに感じている。
俺は、全神経を上腕部に集中させた。
「ね?やるでしょ?」
「…ああ」
俺は、思考も止めている。
返事をしたワケじゃなく、ただ声が漏れただけだった。
「よし、決まりね!
それじゃ、みやび。
まず、私と樹で、その依頼をくれた人に会ってくるわ。
誰の依頼なのか教えてよ」
「暦、言ってあげなさい」
「はい、みやび様。
これは、一年B組の長塚 京子さんの依頼です」
「OK!じゃあ今から行ってくるわね。
なんかあったら、連絡するから!
あっ、でも連絡先知らないよね…じゃあ先に皆で連絡先を交換して!」
俺達は、お互いの連絡先を交換し合い、俺は蘭子に腕を引っ張られながら、部室を出て行った。
俺は、ただ言われるままに動きながら、さっきの腕の感触を必死にリピートさせている。
「樹、ありがとね!
おもしろそうな部活が見つかったよ!」
「ああ…そりゃ良かったな。
でも、蘭子が最初に言っていた、青春とは全然違う気がするけどな…」
「そう?
そんな事ないよ、だって今あたし、凄くドキドキしてるもん!
ホラ!」
蘭子は、俺の手を掴んで胸に強くに当てる。
プニョン。
「!?」
俺の手を、この世の物とは思えないほどの感触が、包み込んだ。
以前に、時速60キロで走る車の窓から手を出せば、女の子のおっぱいと同じ柔らかさだと聞いて、
何度も試して、その柔らかさを記憶していたが、そんなものじゃ比べ物にもならない事を、俺は知った。
とてつもなく柔らかいくせに、弾力もある。
手を包み込みながら、その手を跳ね返してくる。
矛盾している。
ナゾナゾのようだ。
このままずっと触れていたいのに、触れていたら、きっと俺は終わってしまう。
永遠の一瞬が今、俺の手の中にある。
そうか、この為だけに俺は生きているんだな。
素晴らしきかな、俺の人生!
「ね?ドキドキしてるでしょ?」
返事など出来るワケがない。
「あれ?樹?」
蘭子は手を離して、俺の目の前で手を振っている。
「いつきー!」
「あ……ああ」
「…何?
もしかして、いきなりだったから怒ってんの?」
怒るワケない。
「いや……良かったよ………ありがとう」
「エへへっ…私、ホントは樹ああいうの嫌いかなって思ってたんだけど、そんな事なかったんだね」
当たり前です。
「うん…大好きだ」
「じゃあ、良かった!これから、いっぱい楽しもうね!」
「うん…お願いします」
「約束だよ?」
蘭子は小指をだす。
俺は、その指に、自分の小指をからめる。
「約束です…」
これで、これからいっぱい楽しめるんですね…蘭子ちゃん。
「よし!じゃあまず一発目!」
早くも一発目、キターー!
「…今夜?」
「い・ま・か・ら!」
わぉ!モーレツ!
「さぁ!一発目の部活、スッタートッ!!」
部活の事かいっ!
まったく、ウブな男の子を弄ばないでよ!
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