第14話こーひーには 

「話が理解できないからって、しっぽを巻いて逃げ出すなんて……

 桜木って、しょーもない男なのね!」


…何?


俺は、ドアノブを掴もうとした手を、止めるしかなかった。

…しょーもない男だと?

こいつは黙っていられない。


「誰がしょーもないって?」


「あら、だってそうでしょ?

 相手の言っている事が、難しいからって、ただ逃げ出すなんて、一流の男がする事じゃないでしょ?」


みやび様は、腕を組み少し顔をあげて、俺を見下すような瞳を向ける。


「逃げ出す?

 いつ俺が逃げ出したんだ?」


「今よ…ドアノブを掴んで出て行こうとしてたでしょ?」


「ふっ…勘違いも甚だしいなぁ。

 今俺が、ドアノブを掴もうとしたのは、出ていく為じゃない」


「じゃあ、何よ?」


さぁ……ここが勝負だぞ…俺。

逃げ出そうとしてたんだから、他の理由なんてないんだ。


どう言えば良い?

何かうまい言い方はあるか?

頭を働かせろ…きっと答えはあるはずだ。

脳を回転させるんだ。

脳を……脳……


そうだ、コレだ!!


「俺は、今、話を理解する為に、脳を回転させていたんだ。

 しかし、あまりにも活発に活動をする為に、脳に電気が溜まってしまったから、

 それを逃がす為に、ドアノブを掴もうとしただけの事さ」


「なんだ、そうだったの。

 それで、理解はできたワケ?」


「ああ…だいたいはな。

 だが、間違いがあってはいけないから、もう少し詳しく話してくれないか?」


「ええ、いいわ」


ふぅ…何とか回避できたみたいだ。

疲れた……座ろう。


「この国で罪を犯した者がどうなるか、あなたは知ってる?」


「当然だ。罪人はシュラに島流しにされる」


「そう…どんな軽い罪だろうと、罪を犯してしまえば島流しよ。

 その結果どうなる?」


「どうなるって…簡単な事だよ、この国から悪人が減って平和な国になる」


「そうね……罪人は、二度とこの国には戻ってこれないんだから」


「ああ…シンプルで良いシステムじゃないか」


「シンプル……確かにわかりやすい事は間違いないわ。

 でももし、シュラに流された罪人が、罪を犯してなかったら?」


「……なんだよ、冤罪の事を言いたいのか?」


「…それもあるけど、質問に答えてくれない?

 島流しにされた罪人が、犯人じゃなかったら、どうなる?」


「…まぁ、もし間違って、そうなったんだったら可哀想だな」


「それだけ?」


「…他に何があるんだ?」


「決まってるでしょ?

 まだ、この国に犯人が残ってるって事よ」


……まぁ、それはそうだ。


「そうだとして……この部活の……殺人…クラブ?……と、何の関係があるんだよ」


「その真犯人を見つけて、私たちが殺すのよ」


はぁ?

今、殺すって言ったか?


みやび様は、怖い顔をするでもなく、不敵に笑うでもなく、ただ自然な表情をしている。


「…こ…ろす?」


「ええ」


「いや……そ…そんな事は、ケーサツに任せろよ」


「何言ってるの?

 ケーサツが間違えた事なのに、ケーサツに任せてどうするのよ」


「……いや、そうだとしても、高校の部活でやる事じゃないだろ…」


「だから、裏だって言ってるじゃない」


「…本気…なのか?」


「冗談を言っているように見える?」


…いや、見えません。

だから、聞いてるんです。


「人を、殺すって…簡単には出来ないだろ…」


「そんな事ないわ…桜木。

 あなたがさっき、コーヒーを飲んでいたら、あなたは死んでいたのよ?」


みやび様は、どこか自慢げに言い放った。


「は?」


俺は、机に置かれた冷めたコーヒーに目をやる。


「その中には、夾竹桃という植物の毒を入れてるの。

 桜木の運が悪ければ、死ぬわ」


「…な……何言ってるんだよ……毒なんてそんな簡単に手に入るワケないだろ」


「いいえ、その夾竹桃は、この学校の前にある道路脇に植えられているのを採ってきたの」


「そ…そうなの?」


「ええ、よくある植物よ。

 暦、見せてあげて」


「はい、これです」


暦は、笑顔でシンク横のコップに入れられた、赤い花のついた植物を持ってきた。

確かに、よく見る気がする。

これに毒があるのか……

怖いもんだ。

何でこんな危険な植物を、道路脇に植えているんだよ、まったく。

へぇ、これに毒が……


……え?


これを、俺のコーヒーに入れた?


「え?……ええ??

 お前らは、俺を殺そうとしてたの?」


「そうだけど、死んでないじゃない」


「おい!ふざけんなよ!」


「ふざけてないし」


「俺を殺そうとしたのか!?」


「だから、死んでないでしょ」


「それは、結果論だろ!

 もし、俺がこのコーヒーを飲んでたら、死んでたかもしれないんだろ?」


「そうよ」


「なんだ!?

 俺に何か恨みがあるのか!?」


「いいえ」


「えー!

 理由ないの!?」


「そうね」


俺は驚いて、二人の顔を交互に見るが、何の表情もない。


「サ……サイコパス……か?」


「え?」


「お前ら……サイコパスだろ!?」


「へぇ、サイコパスを知ってるんだね。

 桜木もそういうの好きなんだ」


「好きなもんか!?

 そんなものは、ドラマや漫画の世界のモノだ!

 現実にいられたら、とんでもないんだよ!」


「何を喚いているのよ。

 少し落ち着きなさい…見苦しいわよ」


……見苦しい?

そう…か…では、ちょっと落ち着こう。

えっと、俺はさっき殺されかけたんだな。

たいした理由もなく……


「落ち着けるか!」


「もう、うるさいわね。

 一応言っておくけど、サイコパスの割合は、ある研究では25人に1人の割合だと言われてるわ。

 だから、そんなに珍しい事じゃないのよ。

 

 例えるなら、日本人でAB型の人は、人口の10%だから、その半分位と同じ数だけ、

 サイコパスの人もいるって事になるわ。

 

 ね?そんなに珍しくないでしょ?」


…いや、比率の話じゃないんです。

しかも、あなた方は、サイコパスだって言われて、否定しないんですね…


「いや、おかしいだろ……もし、俺が死んでたら、どうするつもりだったんだよ?」


「そんな事、考えてないわよ。

 私達は、計画殺人をしようとしたワケじゃないんだから」


怖い事を言ってます。


「いや、だから、死んでたかもしれないんですよ?

 どう処理するつもりだったんですか?」


「死んだら、死んだ時よ。

 その時に考えるわ」


…もう、話したくない。


「そんな事より、私達が本気だって事がわかったでしょ?」


わかり過ぎて、怖いんだよ。


「……俺、そろそろ帰……」


その時、部室のドアが開いて蘭子が入ってきた。


「蘭子……ここにいちゃダメ……」


「おまたせー!

 ミヤビ!

 はいこれが、あたしと樹の入部届けね!」


「よし!受理しよう」


一体、どういう事でしょうか……?

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