第16話ケルベロ
俺と蘭子は、一年B組にやってきたが、教室は閉まっていて、誰もいない。
ちなみに俺と蘭子はD組だ。
「あちゃー、皆帰っちゃってるね」
「そりゃそうだろ…もう6時になるんだからな。なぁ、俺達も今日は帰ろうぜ?」
「えー…今日調べたいよ〜」
「そう言っても、長塚 京子がいないんじゃ、話も聞けないんだから仕方ないだろ?」
「うーん…でも…あっそうだ、B組に友達がいるから、電話で京子ちゃんの連絡先を聞いてみよっと」
蘭子はケータイで誰かと喋っている。
入学してから1ヶ月しかたってないのに、どうして違うクラスに友達ができるんだよ。
社交性が高いな、蘭子は。
俺のケータイには、高校の奴の番号は、蘭子とカズチカしか入ってない。
あ、さっき二人増えたか…
しかしよく考えたら、暦はともかく、みやび様は相当なルックスだ。
その連絡先をゲットできたっていうのは、かなりラッキーな事だぞ。
ロダン部なんか、どうでもいいが、っていうか関わりたくないが、
女の子と関係が持てるっていうのは、正直シャイボーイの俺には、ありがたい話だ。
そういえば、ゲームでイノリと出会って、リアルでもみやび様と出会い、蘭子のおっぱいを手に入れた。
これは、今俺に波がきてるって事なんじゃないか?
イノリ、蘭子、みやび様、暦……四人も女の子がいれば、一人くらい俺の事を好きになっても、おかしくないんじゃ…。
う〜ん…どうなんだろう…これがギャルゲーなら、順番に攻略していくんだが、リアルじゃそんな事はできない。
まずは少なくとも、誰かにターゲットをしぼらないといけないよな。
誰がいいかな……?
イノリは、女の子らしい甘いルックスで、性格も良いし、しゃべり方も丁寧。
女の子と、出会ってからすぐに仲良くなれた事なんて、初めてだった。
そして、何よりゲームという共通の趣味を持っている。
今の所、俺の中の大本命だ。
ただ、現実のようで現実でない上に、ネカマの可能性がゼロじゃないんだよな。
蘭子は、中二の時から知ってるから、もう2年以上の付き合いだな。
性格は明るくて、社交的で、見た目も良くて、学年でも噂になってたくらいだ。
ちょっとバカっぽい感じもするが、まぁ女の子はその位が可愛い。
俺が気兼ねなく話せる、唯一の女の子かもしれない。
ただ、性格も、趣味も、外向きだし、俺とは正反対なんだよな。
それって、どうなんだろう?
みやび様は、もう見た目は100%。
ただ、得体の知れない怖さがある。
そのうえ、俺の隠れた下僕の才能を目覚めさせてしましそうだ。
正直その方向は、もう少し大人になるまで、まだ眠っていてほしい。
っつーか、まずみやび様が、俺の事を好きになるとは、到底思えない。
まぁ、距離を保ちながら、目で楽しませてもらえれば、十分かな。
美少女と同じ空間に居られるっていうのは、人生でもかなり、貴重な時間だからな。
あとは、暦だが……
これは、今の所、攻略する気にはならんキャラだな。
ギャルゲーの隠れキャラのようなものだと考えておこう。
ただ、俺は最終的に、意外とこういうキャラを好きになる傾向があるんだ。
だが、あいつはマジで危険だから、気をつけておこう。
ああ、なんだか、考えてるだけで、楽しくなってきちゃったなぁ…
俺の高校生活は、良いスタートダッシュを決めてる気がするぞ。
なんだよ、人生って、異性を意識するだけで、こんなにも輝き出すものなのか?
ゲームばっかり、やってられなくなるじゃないか…
まったく、マイッチングだぜ!
「樹、何をニヤニヤしてるの?」
「…ん?……ニ…ニヤニヤなんかしてないよ!それより電話はどうなったんだ?」
「うん、京子ちゃん近くの公園に来てくれるって。行くっきゃないぞ!」
「ああ」
俺達は、クラスに置いていたカバンを持って、近所の公園に向かった。
£ £ £ £ £ £ £
「あ、いたいた!きっとあの子だ!」
公園に着くと、屋根のあるベンチに腰掛けている女の子に、蘭子が駆け寄り声をかける。
「えっと、あなたが京子ちゃん?」
「はい、長塚 京子です。
あの…ロダン部の方…ですか?」
「そうでーす!
私が、蘭子で、こっちが樹。
私達も京子ちゃんと同じ一年で、二人ともD組なの」
ロダン部だと言うのは、ヒドく恥ずかしいが、とりあえず会釈はしておいた。
長塚 京子は、黒髪を肩まで伸ばした、高校生らしい大人しそうな女の子だ。
だが、ロダン部に依頼をするくらいだから、この子もだいぶおかしいのかもしれない。
「どうも、えっと、蘭子さんは知ってますよ。
うちのクラスでも、可愛いって有名だから…」
「えー、ホント?
なんだか、照れちゃうよぉ…
ああっと!そんな事より、あの…なんだっけ?
……ペドロアンドカプリシャスだっけ?」
ケルベロスの事を言いたいんだろうか……
「そうです、カプリシャスの事で、相談があって…」
俺が、間違えてるんだろうか…
「どんな内容なの?
あたしも、みやびから詳しく聞いてないから、最初から教えてもらえる?」
「はい…私には小学六年生のブン太っていう弟がいるんですけど…」
角刈りであって欲しい。
「三週間前に、ブン太が友達と二人で自転車に乗ってる時に、その怪物に会っちゃって、
それから外に出るのを怖がって、塾に行かなくなったんです」
「場所はどの辺なの?」
「三丁目の住宅街です」
「三丁目か……高級住宅街だね。
それで、その怪物は、どんな見た目なの?」
「……犬みたいなんですけど、首が二つあって…」
「首が二つ!?
何それ!?怪物じゃん!?」
だから、そう言ってんじゃん。
「あ……そうだ、その時ブン太の友達がケータイで撮った動画があるんですけど、見ますか?」
「うん!見る見る!」
京子はケータイを取り出して、俺達に見せてくれた。
「ええ!?」
俺と蘭子は驚いた。
そこには、確かに、二首の犬が写っている。
ケルベロス……『地獄の番犬』などと言われる架空の怪物。
当たり前だが、実際には存在するはずがない。
しかも閑静な住宅街になんて、ありえない話だ。
動画は、15秒位のもので、夜に撮られている。
周りは暗いのだが、ケルベロスは街灯に照らし出されており、かなりハッキリと写っている。
大きさは、比較するものが、電柱くらいしかないが、犬としてなら、かなり大型犬の部類に入るだろう。
そして、一つの頭は左下を向き、もう一つの頭は右上を向いて、別々に動いている。
音声は、子供達の叫び声で、あまりよく聞き取れないが、確かに二つの頭が吠えているようだった。
俺の見る限り、この動画は、サイトでよく見る安いCGや、作り物のようには決して見えない。
おいおい、てっきりイタズラレベルの話だとタガをくくっていたんだが、
どうやら、バカにできない話のようだ…
一体、どうなっているんだ?
俺は、思わず顎に手を当てて考えていた。
あ……俺、ロダン部になってる……これは、ヤバス。
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