第9話本



その日の放課後、俺は蘭子と二人で約束した部活巡りをやっていた。


「演劇部も吹奏楽部も、なんかイマイチだったなぁ…樹はどう思った?」


「…うーん…よくわかんないよ。俺は部活なんて入った事ないし。

 つーか、蘭子は運動部は見ないのか?」


「うーん…なんかさぁ、運動部って意外と上下関係が厳しそうじゃない?」


「まあな。

 でも、それなりの人数が集まれば、統率をとる為におのずとそうなるんだろ。

 それに、文化部だって、先輩後輩の関係はあるよ」


「あたしは、嫌だな〜。たいした能力もないのに、ほんの数年先に生まれたってだけで、

 偉そうにされるのは、ちょっと抵抗あるなぁ」


「まぁ、わからなくはないけど…でも、部活なら絶対に先輩はいるんだ。自分で立ち上げない限りな」


「自分で……?」


そう言いながら、廊下にある部活案内の掲示板を見ていた俺達の後ろで、バタバタと何かが落ちる音がした。

振り向くと、大量の本が廊下に散らばっている。


そこには、底の抜けた段ボール箱を持って、女の子が立っていた。

薄いミルクティ色の肩まである髪に、丸くて分厚いメガネをかけている。


女の子はアワアワとなり、急いで本を集めだす。

俺と蘭子も、手伝ってやる。


「アワアワ……そんないいですょ…アセアセ……悪いですからぁ…」


アワアワって口から出るのか……アセアセも。


「いいのよ、別にこのくらい……でもすごい量の本だね。図書室の人?」


「い…いえ……そんな…とんでもない!

 私は……そんな立派な人間じゃないんです……犬みたいなモノですから…」


犬…?

ちょっと、雲行きが怪しくなってきたぞ?


ただのメガネのドジっ子に見えるが。

アワアワというアニメちっくな擬音を、口から出すうえに、自らを犬だと……?

初対面の人間に、ずいぶんと自己主張をしてくるなぁ…こいつ。

おそらくこいつは、自分のキャラを掴んでいるタイプだ。


しかし、これがエロゲーなら、イベント発生のポイントであり、出会いのCGとして記録される場面だ。

このメガネっ娘は、きっと話に絡まってくるぞ。


「犬なんて…あははっ、面白ーい!」


蘭子は、気にせずに笑っている。

こいつの順応性の高さがうかがえるな。

蘭子が、本を箱に戻そうとする。


「ああ、もうこの箱、底が抜けちゃってて、入らないね。

 ねぇ、この本、どこに持っていくの?

 せっかくだから、私たちも手伝うよ」


俺は何も言ってないぞ…蘭子。


「えー!…そんな、美男美女のお二人に、こんな雑用を頼むなんて、

 みやび様に叱られてしまいますぅ!」


ほら、触手が出たぞ…みやび様?

なんだ?血を吸う奴か?


「いいって…私たちも、ヒマしてるだけだから。

 それに、一人じゃ持てないでしょ?」


そう言って蘭子は、俺の手に本をどんどん乗せてくる。

俺は何も言ってないぞ、蘭子。


「よし、これで全部っと。

 それで、どこまで運ぶの?」


メガネっ娘は、スカートの裾をつかんで泣く、真似をする。


「だ〜……お優しい方々ですぅ!」


メガネは、涙を滝のように流す…という雰囲気を、「だ〜」で示したんだろう。

かなりのものだ。


「では、せっかくのご恩ですので、有り難く頂戴いたしますぅ!

 ご案内しますので、こちらへ!」


メガネは、2冊の本を持って俺たちを導く。

蘭子が3冊の本を持って、ついていく。

俺は、ぼろアパートの床が抜けるほどの量の本を両手で抱えて、ついていくしかないんだろう。


メガネ………やるじゃないか。

俺を、下僕のように扱うとは……確か俺は、一言も発していないんだが………


俺たちは、階段をいくつも上がる。

俺は、本を落とすと拾うのが面倒だから、ゆっくりと大事に一歩一歩足を運んだ。

前を行く二人は、俺を振り返りながら、先へ進んで行く。

二人とも、なにか妖精が生贄を森へ誘うような付かず離れずの、距離を保ち誘導をする。


二人は何かを笑いながら話している。

ずいぶんと、仲が良さそうだな。

余裕もありそうだ。


それから、やっと俺たちは、ある部屋にたどり着いた。

メガネが扉を開け、中に入る。


続いて俺も入ると、そこはごく普通の小さな部屋だった。

部屋の真ん中に二つ置かれた長机に、本を置く。


ふう…疲れた。

俺が、こんなに本を大事に抱えたのは、快○天だけだ。

これは、それなりのご褒美シーンをもらわないと、割に合わないぞ、メガネよ!

ボイスもつけろよ?


机に両手をついて、息をはずませていると、部屋にもう一人いた事に気づいた。

女だ。

青みがかった銀髪の長い髪。陶器のような肌にエメラルドの瞳。

そいつは椅子に座って足をくみ、西日を受けてながら、俺と蘭子を見つめている。


「これはどういう事?……こよみ?」


「ハウゥ!……みやび様、違うんです!」


メガネは、みやび様という女の足元にすがりつく。


「この……男の人が……本で両手がふさがり身動きできない私に、体目的で近づいたため、

 箱が壊れてしまい…しかたなく、私がこらしめて、下僕として使ってるんですぅ…」


はぁ?

メガネ……どうやら、お前クセがあるようだなぁ。


俺が何かを言おうとしたところに、蘭子が笑いながら入ってきた。


「あはは、こよみちゃん、ほんとに面白い!」


蘭子、お前の感覚がわからん。


「…」


女が俺を睨んでる。

まさか、信じたわけじゃないよね?


「…どういうつもりなの?」


ほう…敵だな。


なんて言おう。

全然話は違うが………体が目的であった事は、いなめない部分がある。


しかし、助けてやったのに、メガネはなぜ嘘をつくんだ?

女の足元にすがりつくメガネに目をやる。


「ぶるぶる」


ブルブルと言っている。

こういう事を言う奴は、嘘をついている奴だという事がわからんのか、この女は?

しかし、睨む女はなかなかの目力だ。

正直、俺はビビっている。

ケンカは、した事がない。

中学生の妹にも負ける自信がある。


っていうか、俺に非はない。

なのになぜか抗えない空気を出されている。


……ピンチだ。

なぜか、蘭子も助けようともしない。


グヌヌ……この状況をクールに切り抜ける手は、あるか!?


次回へ続く……!





「なぜ、何も言わないの?」



えぇ!?……続けるん?



ムリだっつーの!! 次回!

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