第8話部活
防具屋を出ると、空は暗くなりかけていた。
「ああ、もう夜になってる…イツキ、あたしもうログアウトしなきゃ」
「そうか、俺もだよ…現実の生活もしなきゃいけないよな。
今日は、シュラに行けなかったね」
「うん、でも十分楽しかったよ」
「そうだね、イノリは明日もログインするの?」
「明日は夕方から用事があって入れないんだ。
明後日は、土曜日だから午前中からやりたいな」
「そっか……じゃあ俺も合わせるよ」
「え!?そんなの悪いよ…」
「いいよ、俺も最初の『シュラ』はじっくり楽しみたいし…だったら学校もない土曜がいいからさ」
「ほんと!?じゃあ、土曜日の10時に酒場『明美No2』で待ち合わせとか…いいかな?」
イノリは、顔を少し赤くして、少し上目遣いで俺を見てくる。
なんだか照れているみたいだな。
「待ち合わせ」っていうのが、何かくすぐったいのかも。
俺もですよ、イノリさん!
男子高校生には、『待ち合わせ』って言葉で、2回分はできちゃいますからね!
『男子の半分は、妄想でできてます』って、どっかの製薬会社も言ってますから!
でも、そんな事は少しも感じさせずに、俺はクールに…
「もちろんOK…楽しみにしてるよ」
「うん…私も!
えっと、ログアウトは街中だったらどこでも出来るみたいだから、ここでお別れしよっか?」
「そうだな、今日はありがとう、イノリ」
「こちらこそ…それに、助けてくれて、ありがとね、イツキ」
「いいって…じゃあ土曜の10時に」
「うん、じゃあね」
イノリは手を振りながら、小さな光の粒になって消えていった。
俺もパラメータを開き、ログアウトを指定した。
スーッと空に登る感覚の後に、自分が横になっている感覚が戻ってきた。
俺は、ブレインリンクを外して、ベッドの枕に顔をうずめる。
「オッッシャーー!!」
いきなり可愛い子と、パーティーが組めました!
しかも、女子高生との話です!
待ち合わせもして、ちょっと照れちゃってました!
イ・ノ・リ!
イ・ノ・リ!
イノリを応援した後、俺は時計を見る。
今の時間は、7時4分か…そろそろ、夕飯の時間だと母さんが呼びに来るだろう…
いや……10分くらいは、時間あるかな……
俺は部屋のドアの内鍵を、そっとかけた。
俺は少し興奮しているようだ…仕方ない。
数分だけバーサーカーになろう。
でないと、舌に血がかよわずに、下に血がたまったままで、
ご飯の味がわからないからな。
£ £ £ £ £
次の日の学校。
昼休み。
いつものように、机につっぷして昼寝をしていると、
「イツキー、寝てるの?」
蘭子の声だ。
ああ、俺は寝てる。
見たらわかるだろ?
なのになぜ聞く?…蘭子よ。
あれか?寝てるのは俺の魂だけで、体は起きてフリーズでもしてるっていうのか?
いや、だとしたら、「イツキ、どうしたの?」となるはずだ。
では、なぜ?
なぜ、こいつは寝ている相手に向かって、寝ているのか確認をするんだ?
どうする?…起きて問い詰めてみるか?
そうすると、こいつが言うことは「いや…寝てるのかと思って…」くらいのものだ。
予想はついてる。
そうだ、分かってるよ…蘭子。
理由なんかないんだろ。
俺が寝ていようが、蘭子は自分が話しかけたい時は、一度声をかけて起こすんだ。
蘭子とは、そういう奴であり、また女とはそんなものだ。
もちろん、女全員がそうだという乱暴な議論をするつもりはない。
ただ、そういう……
ちょっと待て…今はやめとこう。
「……なんだよ、蘭子?」
しかたなく、起きて机に肘をつく。
「なんだ、起きてたんだ」
「お前が起こしたんだろ?」
「へへへ…あのさ、イツキは部活とか入んないの?」
蘭子は、今は教室にいないカズチカの席に座って、おれの机に両肘をつき、
小さな顔を支える。
少しつり気味の大きな目が、楽しそうに光ってる。
「部活?入らないよ…俺がゲーム好きなの知ってるだろ?
部活なんて入ったらゲームする時間がなくなるじゃん」
「知ってるけど、せっかく高校性になったんだから、青春とかした方が良くない?」
ふっ…安易だな、蘭子。
お前らしいよ。
部活=青春
その方程式…いや、方程式にもなっていない、二段階の思考。
あれと一緒だな。
自分の子供を、グローバルに活躍できる子供にしたい。
だから、英語を学ばせます。
いや、英語ができたって、グローバルな人にはなれませんから。
じゃあ、英語が母国語の国の人は、全員グローバルな人なんですか?
違いますよ。
自分の国の言葉や文化を、しっかりと身につけた人でなければ、他国の人は興味を持ちません。
だから、まずは国語なんですよ。
蘭子。
「国語……いや、蘭子………部活に入れば、青春が出来るわけじゃないだろ?」
「国語??……いや、そうじゃないけど、やっぱり青春って言ったら、部活でしょ?」
「知らん……っつーか、お前がどこかの部活に入りたいんだろ?」
「イエス!アイドゥ!」
「入りゃいいじゃん」
「ん〜もう……だって一人で行くのは恥ずいんだもん!色々巡りたいから…イツキも付き合ってよ」
「はぁ〜?…そんなのお祭り男のカズチカに頼めよ」
「ヤダ!あいつは調子がいいから、一つ目の部活で入ります!って言っちゃうでしょ?」
「ああ、そうなりそうだ。蘭子でも先の事を予想できるんだな」
「やな感じ〜……ねぇ、いいじゃんイツキ〜」
蘭子は上目遣いで、俺を下から覗き込む。
そのせいで、蘭子の胸元が開き、夢の谷間と桃色の魔法の布が目に飛び込んできた。
ヤバい!目線が動いたのを見られただろうか?
俺は体を机から少し離す。
蘭子を見ると、少し不思議そうな顔をしている。
どうやら、バレなかったようだ。
俺はまだ、エロに対する良い対処法を会得していない。
だから、こういう事はできるだけ、避けるしかない状態だ。
クールでいられないのだ。
キャラが定まっていない。
しかし、貰ったものには、お返しをしなきゃな。
仕方ない……
「わかったよ、付き合ってやる」
「やった!」
蘭子は、手を胸の前で小さく叩いた。
「でも、付き合うだけだ。俺は入ったりしないからな」
「まぁ、それは行ってから考えよ?
じゃ、今日の放課後ね」
そう言って、席を立ち上がって振り向いた蘭子の、スカートの裾が、ゆっくりと回転しながら上昇していく。
ああ…これは、きっと神様がいい事をしたと、微笑んでくれているのだろう。
俺は、この瞬間を何度も再生できるように、全ての感覚を視覚に集中させる。
……桃色……
俺は、今夜も立派なバーサーカーになれる。
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