第5話酒場


城を出て、王様 兼 事務職のレイナさん(なんだそりゃ)に言われた通り、俺達は酒場にあるギルドに向かった。


鉄と木で作られた無骨な建物で、天井も高く、広さもかなりある。

イノリも酒場の意外な大きさに驚いている。


「すごーい…こんなに広いんだね…なんかイメージでは居酒屋みたいな小さいとこだと思ってたよ」


「確かに広いな…うちの学校の体育館くらいはあるだろうな…」


俺の言葉にイノリが反応する。


「うちの学校…イツキって、学生なんだ」


「ああ…まぁ隠すような事でもないから、言うけど…俺は高校生だよ」


「わぁ…おんなじだよ!私も……高校生なの」


やりぃ!


「へぇ…見かけた時に、同い年くらいかなって思ってたんだけど、やっぱりそうだったんだな」


「うん…なんか、見た目はそのままで行こうって決めてたから、変えなかったんだ」


「ハハ…それもおんなじ」


「クスッ…気が合うかもね」


「だな」


ちょーいい感じじゃん!

ホクロが口元にあるから、そうじゃないかってピンときてたけど、なんかキモがられると嫌だから、

言わないでおこう。

舞い上がってても、冷静な俺だ。

好きだぞ、俺。


「イツキ、あそこがギルドのカウンターだよ、行ってみよ」


イノリは俺の腕を掴んで、ギルドカウンターに引っ張っていく。


早くもボディタッチ発生!

フォトショ機能は……ないか。


カウンターでは、うさぎの耳をつけて金髪のくるくるヘアーの女の子が、対応してくれた。


「ルーキーさんですね!どーも、ギルドの受付嬢、アヒルです」


うさぎだろ…


イノリは、うさ耳に見とれてる。


「あのー…うさ…アヒルさん、俺達はまず何をしたら…」


「えっと、先にここに名前を書いてください。

 その後に、コレを渡しておきますので、読んで項目を決めて○をつけたら、また来てくださいね。」


うさ…アヒルは、簡単な説明が載っている紙をくれた。……ややこしい。


俺達は、名前を書いた後、酒場のテーブルに座ると、今度は猫耳をつけたロールヘアのメイドがコーヒーとケーキを持ってきた。


「どうぞ!当店「朱美No2」よりルーキーさんへのサービスだニャ!」


なんだその名前…


イノリは気にせずに喜んでる。


「わぁ!どうも、ありがとうございます!」


「頑張ってくださいニャ!稼いだら、ここでお祝いしてニャ!」


そうするニャ!

恥ずかしさはないのかニャ?

仕事が終わったら、深いため息をつくんだろうニャ!


俺は、説明書に目を通す。




   ギルドでは、様々な情報を提供しています。

   登録しているメンバーなら、パーティーに紹介できます

   初めの武器をプレゼントします


   ○剣 ○斧 ○槍 ○ハンマー ○短剣


   職業が選べます


   ・セイバー (武器の攻撃力が2倍)

   ・アーマー (防具の防御力が2倍)

   ・モンク  (速さ、素手の攻撃力が2倍)

   ・ヒーラー (道具使用効果が2倍)


   一言メモ:装備は死んだら罪人に取られてしまいますので、死なないでね

   

   詳しくは、受付嬢まで!


なるほど、初期のジョブは4種類か。

Lvに応じて増えていくタイプだな。

魔法使い系は、あとからか…。

装備がなくなるって事は…最初は金も少ないから、これがポイントになりそうだ。



「イツキ…死んだら装備なくなっちゃうんだね…」


「そうみたいだな…じゃあ、毎回揃え直さなきゃいけないのか…簡単には死ねないって事だな」


「だね…ああ私、職業なんにしようかな〜?

 やっぱり、無難にセイバーかなぁ」


「でも、装備の事を考えると、モンクもありって事だよ」


「ヒーラーだと、パーティーに有利かもね…あ〜ん…悩んじゃうなぁ…」


確かに、悩ましい。

だが、これがゲームの醍醐味だ。

嬉しい悩み。

現実では、滅多にないんだよなぁ。

現実の悩みは、本当に苦しい事、面倒な事ばっかなんだ。

同じ悩みなのに、なんでこうも違うんだろう。


「ねぇ…イツキ…どうする?」


「ん?……ああ、ごめん……他の事考えてた」


「そうなんだ……あのさぁ、ちょっと思ったんだけど…」


「何?」


「さっき、しばらく一緒にいようって言ったでしょ?

 あれって、二人でパーティーを組もうって事なんだよね?」


「ああ…その方が早めに強くなれると思わない?」


「だよね!……じゃあ、あたしヒーラーにしよっかな?

 そしたら、イツキが何を選んでもサポートできるし、パーティーっぽくない?」


「そうだけど……いいの?別に、セイバーが二人だって戦えないワケじゃないぜ?

 好きなの選んでいいよ?」


「ううん、あたしヒーラーになるよ!誰かを助けるの、素敵だしね!」


「そうか……じゃあ俺は、無難にセイバーにしておくよ。

 まずは、普通の味ってのが、俺のやり方だから。

 きっと、またLvが上がれば、新しいジョブも増えるだろうしな」


「決まりだね!…ねぇ武器は何にする?」


「俺は、無難だから剣にするよ」


「じゃあ、私は援護用で、リーチの長い槍にしよっと!

 楽しいね!なんかワクワクしてきちゃった!」


「ああ、俺も!よし……とりあえずは、決まったからカウンターに行こう」


二人でカウンターに向かった。

アヒルが受付をしてくれる。


「決まりましたね!では、まず剣と槍をお渡ししますね。

 それと、お二人はパーティーを組まれるんですか?」


イノリは俺を見てうなずく。

可愛いな、コイツ……なんか、小動物系だからか知らないが、抱きしめたくなってきたぞ。

ただの性衝動か…?


……あとにしよう。


「…はい、まずは二人でやってみようと思います」


「わかりました、パーティーの名前とか決めてます?」


あ、それも決められるのか。

イノリを見ると、首をかしげている。


「それって……後でも決められますか?」


「はい、ではひとまず二人の名前、『イツキとイノリ』にしておきますね」

 

フォーク歌手みたいになったな…

 

「では、軽く説明をしますね。

 これからは、何をしても構いません。

 戦いに行くのなら、防具と道具をお店で揃えてください。

 船は、港から出てますので…お城の南側です。

 

 ただ、お二人はまだルーキーさんなので、道場で戦い方を教わる事をお勧めします。

 場所は、街の中に看板がでてますので、その通りにどうぞ。

 あくまで、自由参加となってます。


 何か質問はありますか?」


イノリと目を合わせると、首を横に振ってる。


「とりあえず、大丈夫です」


「では、がんばって罪人をたくさん処刑してください……あっ、ピョン!」


最後だけ、キャラ守ったのか……つーか、ガァーって言えよ、アヒル。

太らして肝臓とり出したろか。

ん?鳥ちがいだっけ?

俺達は武器を抱え、ひとまず街へ出た。



今言える事は、俺の戦いは、まだ始まらない……

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