第6話道場


俺はイノリと二人で、とりあえず道場に向かった。


道場に着くと、外観は道場というより、小さな闘技場という感じだ。

とりあえず、木の扉をノックする。


「……すみませーん、ギルドで聞いてきましたー」


すると、奥から声が聞こえた。


「……どーじょー」


うわぁ…


「……イノリ…やめとく?」


「なんで?」


「いやな予感しますよ?」


「だいじょーぶでしょ、戦い方は知っておきたいし。入ろうよ?」


「…」


俺は、しぶしぶ扉を開けて、道場の中に入った。

受付と休憩所のようなものがあるが、誰もいない。

突き当たりのドアが開いていて、中庭があり、そこに男の人が立って手招きしている。


俺達は、中庭に入り男のところまで行った。

男は、痩せた40代くらいのオジさんだ。

見た目は、エセ貴族のような格好をしている。

カボチャみたいなズボンをはいて、白のタイツに、カラフルなラメの入った色のシャツ。

鼻の下のヒゲは漫画のようにスーッと横に伸び、先がくるくると丸くなっている。


えーと…どうやったら、そういうヒゲになるかを聞きにきたんだっけ?


そう考えていると、男が勝手にしゃべりだした。


「わたくしが師範のプースで…あーる」


あぁ、間違いなくさっきの言葉は、こいつが言ってたな。


名前も適当だ。

ぜっったいに、『師範』という肩書きを先にもらって、名前を考えたんだろう。

名前って、世界観を作るのに、重要な要素のひとつのはずだろ?

そういや、さっきのアヒルといい、こいつといい、どうやらこの運営は、世界観作りは下手だな。

スタッフの育成も。

語尾に何かをつければ、キャラが完成するとでもおもってんのか?


本当にこいつから、何かを学ぶのかよ?

とりあえず、挨拶はしとくか……


「ああ……どうも、イツキとこっちが、イノリです」


「はい、戦い方を教えます…お二人の武器を構えてください」


ほら…「…あーる」もう出ねぇ…


そこから、俺達は一通り剣と槍の使い方を、市販の……師範のプースに習った。


一応、まともに剣で相手をしてくれた。


「お二人とも、筋がよろしいようです。少し休憩をしましょう。

 そちらの休憩室へ、どーじょー」


ほう…こっちが出たか…


俺達は、椅子に座って休憩をする。


「お茶を、どーじょー」


ほう…

使いやすいようだな…


お茶を飲んでいると、プースがなまいきにも、イノリに話しかける。


「どうですか?イノリさん、……戦えそうですか?」


「うん…まだわかんないです…でも意外と槍って軽いんですね?」


「いえ、そんな事はありません。それは、ボディ(肉体)の補正が入ってるので、実際より軽く感じるんです」


「ボディの補正?」


「ええ、本当の重さでは、普通の人は疲れてしまいますからね。

 少しだけ、バランスをボディが調整しているという事です。


 お二人が使用しているボディは、本当は凄く優秀なものなんです。

 しかし、まだお二人はLvが低いので、ボディ自体の力をシステムで制御しております。

 強くなれば、その制御、リミッターのようなものが解除されていき、本来の性能が出るという事です」


そうか、なるほど…そういう風にして、Lvや強さのバランスを取ってるんだな。

ジョブもそうか…本当はもっと力を出せるけど、

セイバーなら武器使用時に力を少し解除、

アーマーなら、耐久性を少し解除してるって事か…


その辺は、ちゃんとしてるじゃん。

あ、っそういえば…


「あのプースさん、俺たちまだ、HPが20くらいしかないんですけど、これってどのくらいの攻撃で死んじゃうんですか?」


「ビンタされたら死にます」


「ビンタで!?」


「はい」


「えぇ…」


「転んでも死にます」


「…」


「靴ズレでも死にます。

 口内炎でも死にます。

 急に横向いて、首がピキってなっても死にます。

 友達になろうって言って、断られても死にます」


…俺……さっきヤバかったじゃん…


「では、そろそろ実践といきましょうか?」


「実践?」


俺達は中庭に出た。


「えー、今から敵が出てきますので、お二人で倒してください」


敵?


闘技場のドアが全て閉じられると、ひとつの鉄格子の柵が上がって、中から何かが走り出てきた。

嘘だろ…ゾンビだ!


「キャー!!」


イノリは叫びながら、走って逃げ出す。


マジか!?いきなりバケモンが相手かよ!


いや…待て……俺!


やれるはずだ!……ビビんな!

ゾンビなんて、映画やドラマで、倒し方は何度もシュミレートしてきてる!

車庫や、納屋でエッチな事さえしなければ、簡単にやられる事はない!


こいつらの弱点は、ここだ!


俺は剣で頭を切りつけた。

ゾンビの頭は、中身と一緒に飛び散り、体を痙攣させながら倒れた。


タカラッカトッタッター!


急に頭に音楽が響いた。


あっLvアップか!


ステータス…は、

Lv:2

HP:35

MP:10


特技:脳出し


うーん…ことごとく…ネームセンス……


まぁいい、とりあえずLvアップしたし、特技も覚えた!


「イツキさん、おめでとうございます!

 素晴らしかったですよ!

 まだまだ、出てきますからね、油断しないように!」


どうやら、ここで少しだけLvが上げられるんだな。


「イツキ……私、ムリ〜」


イノリは、端っこでしゃがんで、頭を抱えている。


「イノリー、Lvがここでも上がるみたいだから、やっといた方がいいぞ?」


「う〜ん……そう…なの…?」


「靴ズレする前に、やっとこうぜ?」


「う〜……」


その後、俺達はなんとかゾンビを全滅させて、お互いLv5まで成長する事が出来た。


そして、俺達は道場を後にした。

ついに「…あーる」は、一度しか出なかった。


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