第3話門番は?
翌日、俺はいつも通りの退屈な学園生活を送り、帰宅した。
俺の部屋の前には、段ボール箱が置かれている。
予想はついている。
おそらく、『ブレインリンク』だろう。
とりあえず、段ボールにはまだ触らずに、カバンを部屋に置いた。
爆弾処理班のような丁寧さで段ボールを部屋に入れ、箱を開けると、中から新品の電化製品の香りと共にそれは出てきた。
ヘッドギア型コントローラー、『ブレインリンク』が艶やかな光を放っている。
考古学者が、地中から土器を取り出す時のような慎重さで、箱から出した。
そんなシーンは、一度も見た事はないが…。
だったら、こっちの方がいいか。
俺は、初めて彼女のおっぱいを触る時の慎重さで……
……慎重でいられる自信がないから、やめよう。
ベッドに横になり、頭を入れる部分に入っているプチプチを取り、少しだけ潰し、軽い快感を味わった後、
ブレインリンクを頭にかぶせてみる。
頭と、目、耳、鼻までが覆われる形となり、電源を入れていないのに、
「スウォーン…」
と、少しスペーシーな音がして、ゆっくりと視界がはっきりとしてきた。
ただ、俺は目を閉じている。
これは、画面に映ったり、スピーカーから音が出てるワケではない。
脳に直接送られているんだ。
もう繋がったんだろう。
イメージでは、細い針を脳みそに刺されているような感じだと思っていたが、そんなサイコな事はなかった。
不思議な感覚だった。
宇宙の真ん中にいるような、無重力の感覚だ。
それが過ぎると、地球が見えて、だんだん大きくなり、日本の地図が見えてから、ある島に降り立ち、
真っ暗闇になった。
そのあと、古いRPGのような白いドット文字で、
「チェイサーを作ります」
「選んでください」
と表示が出た。
オープニングは、無しパターンかな。
チェイサーは俺自身の分身だから、その基礎となる擬似肉体を選ばなければならない。
肉体は3パターンある。
日本製 :平均的な性能 操作しやすい、同調性が高い
アメリカ製 :パワー重視 操作しやすい
イタリア製 :スピード重視 操作しやすい
なんか、車みたいだな…どこか国民性も出てる気がする。
見た目はどれも同じだから、まずは、基本の日本製にしよう。
いずれ、他のものも手に入れられるようになるんだろう。
ゲームとはそんなものだ。
選ぶのは、どうやらこれだけのようだ。
今から、キャラメイクだ。
キャラメイクは、ゲームの大きな楽しみのひとつだが、今は、時間が惜しいから、この楽しみは2キャラ目以降にとっておこう。
俺は、自分をコピーという項目を選び、すぐにスタートした、
目の前はまた、真っ暗になる。
あ…目が開けられるぞ。
それに何か匂う……海の香りだ。
波の音も聞こえる。
そうか、ここが始まりの場所なんだな。
辺りには、砂浜が広がっている。海には島も見えない。
振り向くと、西洋の城のようなものがある。
ここに行くんだな。
自分を見てみると、服は村人みたいだ。
防具などがないという事は、おそらくこの城で揃えるんだろう。
歩くと、しっかりと足には砂浜を歩いている感覚がある。
太陽の熱も感じる。肌をなでる風も…
すごい、本当に島にいるのと同じだ。
手足にも違和感はない。
あっそうだ、ゲームといえば……ふと思い浮かべる。
すると、出てきた。
ステータスだ。
樹
Lv:1
HP:20
MP:5
これだけ?
そうか、得意技もまだ何も覚えてないって事だな。
でも、MPって……魔法が使えるのか?
まぁ、いいや。
とりあえず、城に行こう。
門には門番がいる。
NPCかな?話しかけておこう。
「どーも」
「初めまして、イツキ様、ご当選おめでとうございます」
「あ、どうも…入っていいですか?」
「もちろん、どうぞ」
「じゃあ…」
俺は一度門の中に入ったが、少しきになる事を聞いてみることにした。
「…あの……門番さん、聞いてもいいですか?」
「ええ、なんでしょう?」
「あなたは……普通に話してますけど…コンピューターの方ですか?」
「あ、私は「ギル2」の職員です。NPCじゃなく、人間ですよ。
ここのプレーヤー以外のキャラは全て、生の人間がやっていますので」
「ああ、そうなんですね…大変ですね」
「あはは、ありがとうございます。
私も、まさか自分がこの時代に、門番の仕事をするとは夢にも思いませんでしたよ。
まぁ、イツキ様も、しがない門番に関わらずに、最高のゲームライフを楽しんでください」
しがないのか……門番は。
「ありがとうございます。……あの、もし分からない事とかあったら、相談してもいいですか?」
「もちろんです」
「良かった、ではいってきます」
「いってらしゃいませ、イツキ様」
ああ、人間か…NPCと闘えるかどうか、いきなり殴りかかって試さないで良かった。
城の中に入ると、広い街があって、石やレンガ、木で出来た建物が立っている。
そして、大勢の人がいた。
チェイサーらしき人や、商人風の人、医者もいるみたいだ。
武器屋や防具屋、酒場もある。
どうやら、基本は中世の雰囲気のようだな。
皆の服装は、結構バラバラだな。
騎士っぽいのもあれば、近未来っぽいのもいるし、侍や、亜人もいる。
なんでもありみたいだな。
しかし、どこに行けばいいんだろう。
やっぱり、誰かに聞くしかないか…どの世界も、コミュ力は必要みたいだな。
誰に聞こうか………あれ……?…あそこの人……なにやってるんだ?
暗い路地の奥に、三人の人がもめてるみたいだ。
一人は女の子だぞ……どうやらイベント発生っぽいな!
おいおい、こっちは何年ゲームやってると思ってんだよ!
俺は、急いで路地に飛び込んだ。
「おい、あんたら、そこで何してんだよ?」
「っち……人が来やがった。
……ん?…なんだよ、お前も初心者か…お前はいいから、あっち行ってろ」
二人の男のステータス見ると、Lv10だった。
でも、女の子はLv1だ。
なんだ?イベントじゃないのか?
女の子は、嫌がってるぞ。
「あの…はなしてください……私は……一人で」
「…」
はは〜ん……どうやら、この男どもは、女の子を無理やりパーティーに入れようとしてるんだな?
まぁイベントじゃないなら、はっきり言って無視したっていいんだけど、その前に……俺は男だからな。
ゲームの中だし、ちょっと大胆になっちゃおう!
「なぁ、その子嫌がってるように見えるけど?」
「おい、うるせぇよ、早く王様に会いに行ってこいよ、ペーペーが」
女の子の手を掴んでいる男の、後ろにいる男が、剣に手をかけている。
……ヤバい…もしかしたら、プレーヤー同士も戦えるのかもなぁ。
今の俺が戦ってもLv10の奴に勝てるワケないし……
うーん……どうしよっかな………
そうだ!
よし!
俺は、路地を走って出た。
そして、入ってきた門に急ぐ。
いた!
「……門番さん!」
「どうも、イツキ様」
「助けてください、女の子が襲われてます!」
「え!? それは大変だ!わかりました、案内してください!」
俺は門番を連れて、路地裏に急いだ。
三人は、まだもめている。
「門番さん!あれです!」
「そこの二人!規則違反ですよ!」
門番は男達に駆け寄る。
「やっべ!行くぞ!」
「…あっ、待ちなさい!」
男達は、路地裏の奥に逃げていき、門番も追いかけて行った。
女の子は、疲れたようで壁にもたれかかる。
肩まで伸びたピンク色の髪、村娘の服も似合ってるな。
見た感じ、同い年くらいで小動物系の甘い顔だ。
左の口の上に、小さなホクロがある。
なんか、いいなぁ。
「あの、大丈夫ですか?」
「……ええ、あの…助けてくれてありがとうございます」
「いえ……あの、これ……イベントとか…」
「イベント?」
「あ…じゃないですね、あの初心者の方ですか?」
「そうです、私イノリって言います」
「俺は、イツキです、よろしく」
「こちらこそ……あの、もしかして来たばかりですか?」
「そうです、どこに行けば良いかわかんなくって…」
「あっ、おんなじですね…クスッ」
「あは…はは」
「わかんなくて、誰かに聞こうとモタモタしてたら、さっきの人たちに連れてかれちゃって…」
これは、チャンスですよね。
ロマンスの神様!
「そうなんですか……あの、イノリさん……良かったら初心者同士、一緒に探しませんか?初めに行くところ?」
「ええ、ぜひお願いします…イツキさん」
「やった」
「クスッ、なんか、敬語ってのも変な感じだから、イノリでいいですよ」
「じゃあ、俺も、イツキで……敬語もなしで、いい?」
「うん、イツキ」
「ハハ…なんか照れるね、じゃ行こうか、イノリ」
俺の滑り出し、エロゲー並みにいい感じだ。
どうか、ネカマじゃありませんよーに。
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