第2話自慢


俺は、何もなかったかのように、教室に戻った。

他の生徒と話しをしていた、蘭子とカズチカが俺に気づき、走り寄ってくる。


「樹!どうしちゃったのよ…いきなり教室出て行ったりして…」


「そうだぜ…心配するじゃん?」


「悪い悪い…大した事じゃないから」


俺は、『ギル2』に当選した事は言わずに、席に着いた。

二人に話せば、きっと大騒ぎするに違いない。

学校中の、話題になるだろう。


『ギル2』は、ネットを通じて、全世界に配信されている為、合法の「殺人ショー」としても有名だった。

その動画は、子供でも閲覧できるようになっている。

残酷な場面もあるが、殺されるのは犯罪者である為、犯罪抑止にもなると、許可されている。


それよりも、「殺人」という血なまぐさいものも、罪人への「仇討ち」というベールで包めば、

立派な「ヒーローショー」となり、世界中でも大人気になった。

いつの時代も、勧善懲悪は人気があるんだ。


俺が、その主役である「チェイサー」になった、と言えば当然騒がれてしまう。

派手な戦いや、有名な罪人と戦ったりする、カリスマのチェイサーになれば、

スポンサーも付き、動画の収入などを含め、莫大な収入を得ている者もいる。

もちろん、罪人には懸賞金が付いている為、その金額だけでも、

参加料の一千万円など、すぐに取り戻せるのだ。


今ここで、俺が「ギル2」の事を言わないのは、俺の性格に理由がある。


俺は、目立つのが好きだ。注目されるのが好きだ。

ただ、条件がある。


『俺は、そんなつもりないのに……結局目立っちゃったか!』……のパターンが好きなんだ。


高校生というものは、これみよがしに自慢をしたいものだ。

チヤホヤされたいものだ。


だが、それは素人の考えだ。

素人の高校生だ。

そいつらは、言うなればクラスの中で、ただ、はしゃいで騒ぎ、目立とうとする奴だ。

そんなものは、元気な奴なら誰でも出来る事なのだ。


俺は、そんなものには興味はない。


もし、俺が自慢できるものを持っているとしたら、絶対に自分からは言わない。

誰かに見つかるまで、じっくりと待つのだ。

チラ見せさえしない。

じっくりと待っている間に、俺の中で「自慢」はしっとりと濡れて「熟成」し、不思議と香り出す。

その微かな変化に、誰かが気づく。

そんな敏感な奴は、得てして有能な奴である事が多い。


そいつが言う言葉には、力がある。

説得力、持続力がある。


ゆえに、その自慢は、自慢ではなくなり、オーラ、雰囲気として、俺の背後に漂い続け、

勝手に、あいつって只者じゃない感が、生まれるのだ。


しかし、気づかれない事だってある。

でも、それはそれでいいのだ。

大したものじゃなかった、その位のものだった……という意味なんだ。


多くの犠牲を払って手にするからこそ、輝くもの、それが「自慢」だ。


この「ギル2」は、必ず、香り出すレベルのものだから、今、あえて言う事など、愚の骨頂である。


俺は、ただ静かに何もなかったかのように、いつも通り、退屈そうな顔をしながら、窓の外を眺める。

例え、心と体の一部が、エレクトしたりパレードをしていたとしても、クールでいるのだ。


蘭子とカズチカの二人は、さっきの俺に漠然とした疑問は抱きながらも、話しを戻してきた。


「ねぇ、樹ってば!さっきのお店だけど、行ってくれないワケ?」


「ああ、悪い。今日はマジで無理になった。今度、開けとくから、一緒に行こうぜ」


「…わかった…約束だよ」


蘭子は両手を後ろで組み、少し首をかしげて俺を覗き込む。

ふっ…可愛い奴だ。

そういうポーズは、家で練習するのか?

この角度はちがうなぁ…もう少し傾けて、つま先とかも上げちゃおっかな?…とか。

良いじゃないですか…バッチリ成果が出てますよ。


「ああ…約束だ」


俺は、仕方ないな…というアピールをしながら、軽く息を吐いた。

こういう駆け引きが、女の子は好きなんだ。

あえて、仕方なく付き合ってやるのが、クールな男ってものだ。


本当は、俺も気になってる。

気になってるんだよ、蘭子ちゃん!


りんご飴?アメリカ発?

なんだそれは…?


りんご飴なんて、変化のさせようがないじゃないか。

飴でりんごを包んだだけだよ?

どう変化させたの?アメリカーナは?

だが、あいつらの発想力はあなどれないからな。

シンプルじゃないだろう。


ただ、りんごが美味しいのは日本だ。

日本のりんごは、世界一と言っていいくらいの、質だ。


そりゃ、アメリカを代表する言葉のひとつに、「アップルパイ」があるが、

味がどうのこうのではなくて、あれはアメリカの象徴のようなものだろう。

それが、りんご飴…!?


気になる。

がそれは隠して……あえて、蘭子のワガママに付き合うんだ、冷静さを失うな、俺。



放課後になり、俺は急いで、学校を後にする。

早く、パソコンの前に座って、「ギル2」のサイトを開きたいんだ。


でも、走りはしない。

クールな男、冷めた男は、走らない。

決まっている事だ。

早歩きもしない。

もっての他だ。


いつもより、少しだけ早めに足を動かすが、ふと立ち止まって、空を眺めたりする。

余裕をのぞかせるんだ。

自然の良さが、わかるとアピールをしておく。


誰にアピールするかって?


未来の誰かさん…にさ。


別に今、誰かが見ていなくても、構わない。

この意味不明にしか見えない行動でも、何度も繰り返しておく事で、いずれ意識せずとも自然に出てくる事になる。

その時の、自然さが、非常に重要なんだ。


ああ、この人、きっといつも、こうやって空を眺めてるのね……ロマンチッカーな人…ぽっ。

っとなる人が、いる事だろう。

なんたって、女は空が好きだからな。


この行動は、その時のタネだ。

男はタネをまく生き物なんだ。


だから、急がず、騒がず、いつも通りを貫く。


家に入ると、階段を駆け上り、自分の部屋のドアをあけて、パソコンの電源を入れ、立ち上がる間、

ベッドに顔をうずめて、


「っっしゃおおらーーーー」


と心の叫びを、もう一度吐き出しておく。

でないと、嬉しさのあまり、キーボードを叩き壊してしまってもおかしくない。


まったく、若さというものは、厄介なものだな。


俺は、パソコンの前に座り、もう一度、メールを開いた。

間違いなく、参加当選のメールだ。


そのメールからサイトを直接開くと、

「ギルティ&ギルド」の、正式メンバー登録の画面が映し出された。

登録を終えると、今後の軽い説明に移った。

その内容によると、明日、コントローラーとしての役割を果たすものが、届くらしい。


「ブレインリンク」と呼ばれる、ヘッドギアのようなものだ。


それを使い、キャラクターである「チェイサー」と自分の脳を繋ぎ、思考と感覚で、操作するのだ。

この情報も、サイトには元々載っている事だった。


だが、「ギル2」の情報というのは、ほとんどネット上には出されていない。

あくまで、シュラの世界の中だけで、開示されるものらしい。

情報を漏洩したら、参加資格を剥奪され、補償金も失う事になる。


そのくらい、秘密の多いゲームなのだ。


要するに、本番は明日だ。

ひとまず心を鎮めるために、まだ16時だが俺は寝る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る