俺の高校には、『放課後 殺人クラブ』がある件

ウソツキ・ジャンマルコ

第1話当選


俺の名前は、桜木 樹(さくらぎ いつき)16歳。


特権階級の生徒のみが通う、進学校『 聖ペイズリー付属高校 』に通う高校一年生だ。


特権階級とは、日本の人口の約5パーセントの人のみに与えらえた階級。


政治家、医者、貴族からなる『α』(アルファ)

経済界の人物からなる『β』(ベータ)

芸能、スポーツ界からなる『Γ』(ガンマ)


の三階級で成り立っている。


俺の階級は『β』

俺の親父は、その親父、要するに俺の祖父が興した事業で成功して財を成した。


この学校には、そんな奴らの子供しかいない、御坊ちゃま&お嬢様学校というワケ。


この学校に入学して1ヶ月…学園生活は、何不自由ないが、退屈で刺激のない日々だ。

早く家に帰ってゲームがしたい。

俺は、今日も教室の窓際にある机で、肘をつきながら、無駄に青い空を眺めている。


「ねぇ、樹!

 今日の放課後さぁ、駅前に出来た、アメリカ発の新しいスイーツのお店に行こうよ!」


「なんだよ、蘭子?

 また、甘ったるくて、カラフルなだけのおやつに、踊らされてんのか?」


「もう、樹ったら!…ロマンのない言い方しなでよね!」


蘭子は腰に手を当てて、頰をぷくっと膨らませる。

可愛いいじゃないか。

わざとだとわかっていても、俺はこんな仕草に弱い。

男は、だいたいそうか。


こいつは、倉敷 蘭子(くらしき らんこ)。

中学の頃からの同級生だ。


蘭子も俺と同じ『β』

金色の長いポニーテールが特徴的で、少し意地悪そうな目つきをしている。


中二から同じクラスで、高校に入ってもなぜか一緒のクラスになった。

そのせいかどうか知らないが、いつも俺に話しかけてくる。


俺の事が好きなのか?

なーんつって。

俺もそこまで自惚れていない。


それは、蘭子が口は悪いくせに、バランスのとれた身体と、整った顔のおかげで、

男子生徒からは人気があるらしく、早くも数人から告白をされたという噂を耳にしている。


そいつが、なんとか普通を保とうとしているレベルの俺に、惚れるわけはない。

気軽に話せる男友達として、つきあってるんだろう。

まぁ、いいさ。

可愛い子が近くにいるのは、うれしい事だ。


蘭子は携帯をいじりながら、話している。


「そのお店、いつも並んでて…入るのに二時間待ちなんて、当たり前らしくて。

 これから、もっと入れなくなるかもしれないんだよ。

 でもパパがさ、オーナーと知り合いでね、今ならすぐに入れるように連絡してくれるんだって!

 ね、だからさぁ行ってみようよ!」


「あ〜パスパス。

 俺、人混み苦手だから」


「嘘ばっかり!人混み苦手な人間が、毎年開催する大きなゲームイベントに行けるワケないでしょ!」


「あれは、人じゃない。

 あそこにいるのは、キャラだから…

 だから、全然ダイジョーブなんだよ」


「もう、へりくつばっか言って!」


へりくつ……だと?

人が頭で考え出した「理屈」に、わざわざ「へ」をつける必要があるかい?

ぷっ、て事?

わらってんの?


それとも「屁」のような「理屈」って事?

でまかせのように、口から出たから?

じゃあ、俺の口は、肛門って事?

すっぱまんってこと?

今度から、座薬は口から入れろって?


あんまりじゃござーせん?


でも、蘭子は可愛いから、何も言わないでおこう。

パパとママに感謝しな!ご先祖にもな!


そんな事を思っていたら、無駄な会話にもう一人、うるさいのが参入してきた。


「なぁなぁ!もしかして蘭子の言ってる店って、アップルキャンディの店だったりして?」


「そうそう!何?カズチカ、行った事あるの!?」


「あったりめーじゃん!

 流行には、まず乗っかるのがモテ男のキホンっしょ?」


この、明らかに賑やかしキャラの男は、是木 和親(これき かずちか)

同じクラスの男子で、席が俺の前になってから、不覚にも懐かれてしまった。


明るい髪に、ピアスをつけた、チャラッチャラ男。

ムダに社交的で、男女共に広く浅く付き合いをしているタイプだ。


もし、うちの学校に伝説の木があったら、こいつと仲良くして、

いろんな髪の色の女の子の情報や、俺の評判を聞くんだけど、

残念ながら、伝説の木はない。

だから、カズチカも、たいして役にはたたない。


蘭子が、アップルキャンディの店に行ったカズチカに尋ねる。


「えぇ、そうなんだ!…カズチカ、どうだった?美味しかった?」


「そりゃそうっしょ!全然ちがうんだから!」


…なんとだよ


「やっぱそうなんだ!いいなぁ!」


今ので何がわかったんだか…


我関せずの姿勢で、空を見ている俺の肩を、蘭子が揺らしてくる。


「ねぇ、樹、やっぱ流行ってんだって!いいじゃん樹!…いこーよ?」


「行かないって…だってアップルキャンディって、要するにりんご飴だろ?

 んなもん、祭りの夜店で食えよ」


「えぇ、アメリカだよ?ニューウェーブだよ?食べとこうよ〜」


こいつらの脳内は、一体どういう思考で動いてんだよ?


蘭子がしつこく俺の肩を揺らしていると、


「ピッコロン〜ピッコロン〜」


とメールの知らせが、俺の携帯から鳴った。


(メールか?珍しいな)


画面を見ると、件名に『ギルティ&ギルド』と表示されている。


俺は、脳天から足の指の先まで、稲妻が駆け抜けた。


「っっっっっっ!!」


体が弾けて、声にならない声を発した俺に、蘭子もカズチカも驚いている。


「なんだよ、樹…『クールハイスクール』が二つ名のお前が、ガッツポーズなんて、

 一体どうしたって言うんだよ?」


二人の声は俺の耳には入らない。

俺は、どうしても心から叫びだしたくなった。

でも、誰もいない場所がいい。

学校のどこかに、叫んでもいい場所は!?

そうだ、屋上だ!

俺は二人を置き去りにし、携帯を握りしめて、屋上を目指して走りだした。


「いつきーーーっ!」


背中で遠くなる愚民の声を聞き捨てながら、俺は階段を駆け上がった。

今の俺にとってみれば、まさに「天国への階段」と言ったところだ。

二段飛ばしどころか、四段…いや…地に足は付いていなかっただろう。

そう、俺は今、浮かれている!


屋上への扉を開けると、運良く誰もいない。


俺は、母親の胎内から、この世に誕生した時と同じ、心からの叫びの言葉を今、とき放った!


「っっしゃおらーーーー!!!」


慣れない事をして、少し気が遠くなりそうな目眩を味わいながら、もう一度メールを見る。


「ギルティ&ギルド 参加 当選 の案内 」


間違いない。

俺は、当たった。


最高のゲーム、『ギルギル』が出来る!


『ギルティ&ギルド』


とは、日本発のVRMMOで、5年前に開始されている。

しかし、参加者には厳しい参加資格の審査(特権階級以上)と当選が必要で、

そのうえ、参加補償金として、一千万円を預けなければならないゲームだ。


なぜ、そこまで厳しい条件があるかというと、そのゲームの大きな特徴の一つ、

「リアルハントシステム(RHS)」があるからだ。


その内容は、参加者はゲーム内のキャラクター『チェイサー(追跡者)』を操り、『シュラ』と呼ばれる世界にいる、

『罪人』を狩るのだが、


その世界『シュラ』は日本に実在し、

その世界に『罪人』は、本当に生きているのだ。


簡単に言えば、

==バーチャルで、リアルの人が殺せる==

と、いうわけだ。


『罪人』とは、実際に日本で罪を犯し、シュラに島流しにされた人間だ。


その為、殺人ではなく、

(処刑)もしくは(仇討ち)

という形で、法律で認められている。


今まで、数々のゲームをやってきた俺には、これ以上のゲームはないと思っていた。

開始された頃に小学生だった俺だが、すぐに応募をしていた。

金は、俺に甘い母に頼んで、成績やテストの点数に応じ、賞金を巻き上げていった。

そのおかげで、ずいぶん学力も伸びたものだ。

そして、5年の歳月を経て、俺は参加資格の当選を果たしたというワケだ。


俺『桜木 樹』は、まさに今、新たに誕生したと言っていい。


 『罪人を狩るチェイサー』として

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