嘘か真か
「おかしな話だよねぇ〜。死んだ人間を生き返らせる魔法なんて」
馬鹿馬鹿しいとばかりにニコレは笑うが、
「その話、詳しく聞かせて!」
プリーネは押し倒さんばかりの勢いでニコレに迫る。
「い、いいけどさ……こんな胡散臭い話、あんた信じるっての?」
「いいから!」
確かにニコレがせせら笑うのも分かる。だって、それはそうだ。死んだものを生き返らせるなど……魔法という存在の基本原則から逸脱している。
『魔法は自然の摂理を曲げる事はできない』
これが基本原則であって、滅びや老いといったものに逆らう事はできない。当然、死んでしまったものを元の形に戻す事など不可能とされているのだ。
プリーネだって、そんな事は重々承知している。している筈なのに、どうしても否定できない……いや、否定したくなかった。
(そんな魔法が有るのなら……お父さんもお母さんも生き返らせる事ができる……)
突然、奪われた両親を取り戻せるものなら取り戻したい。理不尽に殺害されて、「はい、わかりました」などと、到底納得できるプリーネではなかった。
学校で、友人達の前では明るく振る舞っているプリーネだが、心に受けた大きな傷は、単に自身の奥底に隠しているに過ぎない。学校の友人達も、プリーネがどういった理由でここに来る事になったのか、プリーネの家族がどうなっているのかなど、誰も知らされていないのだから当然だ。
事情を知り、腫れ物に触るような扱いを受けるというのも嫌だったし、変に心配などされたくないという思いから、入学時にヘルマ校長には一部の教員を除いては、誰にも話さないで欲しいという旨を伝えてある。
「どうしたのさ? こんな眉唾みたいな話……信じる様なあんたじゃないと思ってたから笑い話のタネにでもしようと思ってたんだけど」
怪訝そうに首を傾げるニコレの疑問ももっともだが、やはり詳しい事情は話せる筈もない。
「『再生の魔法』とかいう話だろ?」
困った顔をしているニコレと、その彼女に真剣な眼差しを向けるプリーネの間に割り込んで来たのはディルクであった。
「な……! あんた……いつから居たのよ」
プリーネは露骨に嫌悪の色を見せる。
そんなプリーネの敵意丸出しの態度もお構い無しに、彼は、
「う〜ん……ニコレが『プリーネ。いつもここで食べてるの?』って言った辺りかなぁ?」
などと、惚けた顔を答える。
それもニコレの台詞のところは彼女のモノマネなのか、変に声色を変えている。
冗談の通じるニコレは隣りでケラケラと笑っているが、坊主憎けりゃ袈裟まで憎いとでも言おうか……プリーネはそんな彼の言動すら気に入らない。
「殆ど一緒について来たんじゃない! それでコソコソ盗み聞きなんて、イイ趣味してる」
「お褒めに預かり、恐悦至極だな」
「褒めてないから!」
本当にイライラさせる。
デニーゼが今でもディルクの事を諦め切れないのも不思議だし、ニコレから聞いた話では、これでもディルクは男女問わず人気があるそうで、デニーゼ以前にも複数の女の子と付き合っていたとか、そのうちの一人とは体の関係もあったとか、これもプリーネには理解できない。
(皆んな、こいつに洗脳の魔法でもかけられてるんじゃないの⁉︎)
そんな高度な魔法を学生が扱える筈も無いし、集団洗脳など事実上、ヘルマ校長の幻術がそれに近いというだけで、ほぼ不可能であるのだが、プリーネはそう疑いたくもなる。
(こいつ見てると、無性にイライラするのよねぇ……)
ちょいワルとでも言うか……そんな雰囲気が好かれたりする事もあるのは分かるし、別にプリーネもそういったタイプに必ず嫌悪感を抱くという事も無い。寧ろ、プリーネも本来ならイタズラやら悪ふざけは好きな方だから、ディルクに近いものがあるのだ。
ニコレからは「同属嫌悪なんじゃない?」などと言われた事もあるが、自分でも何が原因なのか、よく分からなかった。
「……で、再生の魔法って?」
不機嫌そうに口を尖らせて訊く……いや、「この際、あんたでもイイから訊いてやる」といった態度だ。
「最近、上級生から広まって来た噂さ。滅びたものを元の形に戻す事ができる禁断の魔法……だから『再生の魔法』とか呼ばれてる。本当にそんな呼び名なのか、細かい出所がどこなのかまでは不明だけどね」
「胡散臭い話よねぇ。まあ、噂なんて大概はそういうもんか」
ニコレはまるで信じていない様子。まあ、当然と言えば当然だが……。
「ねぇ……。それって禁断の魔法って言ったよね?」
「おっ? プリーネはヤケに食いつくな」
ディルクはようやくプリーネが自分の話に興味を持ってくれた事で、実に嬉しそうだ。
「イイから答えて! 禁断の魔法なのよね⁉︎」
「そういう話らしいよ。そりゃそうだろ? 魔法の基本原則を覆す、常識外れな魔法なんだからさ。『禁忌』という扱いになって当然だろ?」
「実在すれば……の話だけどね〜」
ニコレは「くだらない」とばかりに鼻で笑う。
「じゃあさ……もしかしたら……ここの図書館にその『再生の魔法』に関する資料があったりしないかなぁ?」
プリーネは直ぐ目の前にある校舎を指差した。
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