第18話ペニョを愛した猫

 俺ははぐれペニョを見ていた。

 優しい目。

 「このペニョも食べてしまうんですか?」

 俺はドワーフおばちゃんに聞いてみる。

 「当たり前だよ、家畜だからね」

 おばちゃんは二重あごをさすりながら言った。

 俺は目を閉じた何故かここにきて人間だった頃を思い出す。

 ★

 朝に学校に登校していると校門の前に生徒達がざわざわとざわめいていた。

 救急車が見える。

 赤いランプがくるくる回っている。

 俺は校門に近づいて行くと、ある男子生徒二人組の言葉に耳を疑った。

 「学校一可愛い桃川愛が刺されたらしい」

 「刺した男は学校もてをつけられないような大金持ちの家でさぁ、その息子が桃川をずっとストーカーしてたらしいぜ、全然振り向いてくれないから刺したってよ」

 ワナワナ足が震える。

 俺はいてもたってもいられず救急車の方に駆け寄った。

 「愛!」

 叫んでも反応がない、ここからじゃ愛の姿も見えない。もっと近くに行けたら……。

 救急隊の人が俺を押し退けて救急車に愛を乗せるとそのままサイレンを鳴らしながら行ってしまった。

 その日の晩に愛は亡くなった。

 学校側は、この事を隠そうとしている、殺人者の母親も学校のせいにしようとしている。

 責任のなすりあい、殺人者は生きている。

 愛は死んでしまった。

 大人達は殺人を無かった事にしようとしている。

 馬鹿はどっちだ、ヘドが出る。

 はじめて着る黒いスーツ、愛はあの可愛い笑顔で俺を見ている。

 写真の愛は生きてるようだ。

 帰り道、俺は思った、「ストーカーされてた事、なんで言ってくれなかったんだ……」

 しかしよく考えて俺は苦笑した。

 「当たり前か、俺なんか頼りになんねぇよな」



 俺はそっと目を開けた、猫の俺に戻っている、はぐれペニョが豚のような鼻をひくひくさせて俺に近づいてきた。

 こう見るとペニョも可愛いもんだ、目も綺麗だし、愛のような目。

 俺ははっとした。

 いや、愛のような目じゃない、愛の目だ!

 『えへへ、やっと気づいたね、本当にダイは鈍いんだから。私、ペニョに生まれ変わったよ、ダイが猫に生まれ変わっみたいに』

 頭の中で愛が語りかけてくる、懐かしい可愛い声。

 目の前にいるのが、あの愛。

 『あー、ブサイクって思ったでしょー、なによぉ、これでもこの姿気に入ってるんだからね』

 俺は下を向いて唇を噛み締めた、涙がでないように。

 そんな姿になって最後には食べられる運命なのになんでそんなに、明るく話できるんだ。

 「俺はお前を守れなかった、ストーカーを追い払う事もできない、だから俺に頼る事ができなかったんだろ?」

 俺は血を吐くような苦しさで愛に話しかけた。

 『だって、言ったらダイすぐ心配するじゃん。迷惑かけたくなかったから、それとごめんね』

 「なんで謝るんだ」

 お前は何も悪い事してない。

 『ダイより先に死んじゃって、ダイを悲しませちゃった、私知ってるよ、ダイは本当はさみしんぼうだって』

 俺の目から涙が溢れてくる。ずっと我慢してたのに。

 自分の胸をたたき、毛をむしりがら俺は涙を流し、うおおおおっとさけんだ。

 びっくりしたのか心配そうにドワーフのおばちゃんは俺をのぞきこんだ。

 「猫の神様、お願いだ、愛と俺の体を取り替えてくれ、猫の姿なら愛はまだ生きていくことができる、柵の中だけじゃなくいろいろな所に行ける、死を待つ人生じゃなく」

 泣きながら俺は走って行った、どこに行くあてもなく。

 

いつの間にか夜になっていた。

 俺は村の風車小屋のてっぺんに座り込んでいた。

 梯子がかたんとおかれ、そこへクララが登ってきた。

 「猫族の方は考える時、悲しい時は高い所に登るとチキさんから聞きました、彼女もダイ様を心配しております」

 「一人にしてほしい」

 クララはすっと俺の耳元でささやいた。

 「えぇ、ダイ様は一人です、クララという者はいません、ここにいるのは空気か夜のとばりです、だから気にしないで下さい、あなたは今は一人です」

 クララは俺を優しく抱いた。

 涙がまたでそうになる星を見よう、とても綺麗だ、でもなんだ? 滲んでいる、おかしいなぁ。

 クララの腕に涙の粒をおとしながらまた俺は泣きはじめた。

 『あーぁ、ダイが私を好きなら早く告白しておけばよかった。

 だってね』

 

 次の日、イワシの串焼きをドワーフのおばちゃんにご馳走になり、さらにお野菜をもらい大きなバッグまでもらった。

 「こんなにもらっていいのですか、バッグまで」

 クララはたずねる。

 「いいって、いいって、なんせあの猫ボーイが来てからはぐれペニョが他のペニョと仲良くしだしたんでね、お礼だよ」

 俺とクララとチキはその村を後にした。

 『また一緒にサンドイッチ食べようね』

 そう聞こえたが、聞こえるのはペニョのペオーンプオーンという鳴き声だった。





 

 

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