10
一人も取りこぼしがあってはいけない。私の使命は、すべての地の民を
しかし一人だけ、
私は再度、地へと身を落とした。今度は人の身を纏わない、天の使いのままの姿で彼の前へと顕現しよう。自らの存在に、
今まさに会社の屋上から落ちているミライを、私は優しく抱きかかえた。
「何してんのよ。私に無断で死ぬなんて、許されると思ってるわけ。」
呆気にとられるミライ。やはりこいつは間抜けだ。格好だけつけている間抜けだ。
「ケ、ケルビム、お前、なんで」
「いい香りがしたからね。やっぱり私は、天使になってもあなたの吐く煙が好きみたい。」
私はミライごと自分を、翼を広げて包み込む。半径二メートルほどの、純白の球体が宙に出来上がる。その中には私とミライだけしかいない。他のすべては隔絶されている。
私は背中から翼を切り離し、
「待たせちゃってごめんなさい。これで準備はできたわ。さあ、一つになりましょう。」
「いいのかケルビム。天使は、人間と交わってはいけないんじゃ」
「もういいの。ミライが幸せになれば、すべての目的は達成されるの。ミライは何も考えなくていい。私があなたを幸せにする。」
私はミライを強く抱きしめる。衣服などというものは、とうにその定義を失った。空間の中にある、私とミライと、煙管以外の一切は消失した。
そして私とミライも、その境界線を失いつつあった。情熱があふれ出し、どろりと溶け合う。私とミライの再定義が始まる。人の形を失った人間と、翼を捨てた天使がお互いを貪る。
幸せだった。天の使いとしてのみ存在していれば、その快楽を味わうことはなかっただろう。私であるミライが笑う。ミライである私も笑う。恵みの中で二人は一つとなり、そして人でも天使でもなくなった。アルファにしてオメガ。始まりである終わり。
地の民はすべからく救われ、そして天の使いもまた救済された。すべては歓喜の中にあった。ハレルヤ。ハレルヤ。ラッパのような、十四万四千人の歌が聞こえる。主よ、来てください。
主の恵みが、すべての者とともにあるように。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます