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 私それを、地の民が為の機構アース・トロンと名付けた。私の翼が変形したそれは、姿というものを持っていない。鏡のごとく、見る者のありようによって姿を変える。観測者の愛する存在、欲する存在、欠けを埋めてくれる存在にあてはまるように変身する。観測者の存在なしには、地の民が為の機構アース・トロンは自らを定義できない。定義のないそれは、精霊の位相エイドスにしか存在しえない。

 ゆえに地の民が為の機構アース・トロンは、観測者を欲するのだ。そしてひとたび見つけたならば、欲望の姿を写し取りその存在に寄生する。自己同一の共依存により観測者を取り込んだ後は、精霊の位相エイドスの物質により編まれた虹の糸で繭を作り、外部の一切を遮断するのだ。

 一つ、また一つと、極彩色の繭が地上にできていく。地の民が喜びの地ハレルヤへと旅立っていく。私は羽をむしり、さらに地上へとばらまく。さあ繭よ、地に満ちよ。増えよ。増えよ。

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