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フェニックスモールを、地方の適当なショッピングモールと侮ってはいけない。セレブリティのドレスコードをクリアできる代物から、低所得世帯御用達のマレーシア製大量生産品までなんでも揃う。僕たちが向かったのは、ちょうどその中間のランクの洋服屋だ。
ケルビムは僕のパーカーとジーパン、そして適当な上着でごまかし、ショッピングモールに出かけた。記憶を失っているとはいえ、やはり女子は本能的に買い物が大好きなようだ。目を輝かせながら、嬉々として試着を繰り返している。
「ねえミライ、今着てるのとさっきの、どっちのほうがかわいいかしら。」
試着室から身を出した彼女は、ハイネックのグレーセーターにスリムタイプのジーンズを纏い、上からダウンコートを羽織っていた。やはりマネキンから身ぐるみ剥がしただけあって様になっている。だがかわいいというより、彼女のスタイルの良さが際立ってクールな印象を受ける。僕としては今着ているもののほうが好きだが、一般的なかわいさだと、先ほどまで来ていたニットコートに合わせたコーディネートのほうがよさそうだ。そう伝えると彼女は、
「それなら今のにするわ。私が服を見せる相手は、ミライしかいないもの」
そうしてケルビムは、女性が最低限持つべき衣服(下着含む)を手に入れた。値は張ったが、煙を吐くことくらいしか趣味のない独身貴族の僕は、それなりに潤沢であった。大した出費ではない。むしろ女性に服を買うという、今までにない経験を得られた分おつりがきそうだ。
購入した服を早速着て、話し合いの結果、ケルビムは記憶が戻るまでの間、僕の家に居候をすることになった。さすがに何もしないごく潰しで構わないというわけにはいかないので、家事や簡単なアルバイトはしてもらうことにはなるが、無理はさせないつもりだ。生活していく中で、少しづつでいいから記憶の手がかりを探そう。そういう結論になった。
「不束者ですが、よろしくお願い致します。」
こちらこそ。
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