番外編

exile番外編 混浴!? モザイク!? ノーラス温泉上陸作戦! 美人女将危機一髪! 湯けむりの向こうで何かが起こる……!

 浮気現場遭遇、第一回。

「んっ……そこはだめっ……サリスヴァールさま……」

 ばたん。ドアが開いて。

「うわぁあッ何やってんですかぁぁぁっ!?」


 第二回。

「あんっ……いじわるね……サリスヴァールさま……」

 がさごそ。落ち葉焚き用のイモと熊手を担いだ背中が見えて。

「って、出たあぁぁぁーーー!」


 第三回。

「こ……こんな格好……恥ずかしいわ……サリスヴァールさま……」

 そこにひょっこり、ばけつとぞうきん、モップを抱えてほっかむりをしたお掃除ニコルが現れて。

「ってまたかああーーーッ!」


 ……以下、全シチュエーションにおいて同文に付き省略。


 悪運がいいのか悪いのか――失敗すること五十回。

 可愛い女性兵士をさくっと口説き落とし、いざ出陣という体勢に入ったとたん、なぜだか知らないが悉く現場を暴き立てられ、せっかくの女の子には逃げられるわニコルにはぎゃあすか騒がれるわザフエルにはねちねちイヤミを言われるわと肩すかしとお預けを喰らい続けて幾星霜。チェシー・エルドレイ・サリスヴァールは怒り心頭に発していた。

「いい加減にしろよ」

「えっ……な、何……?」

 無論、自業自得であることなど考慮する男ではない。よって何気なくノーラス城砦の裏庭にニコルを呼びだし、一見ぶらぶらと温厚に話をつけると見せ掛けていきなりぎらりと剣を抜き払い、木に押しつけて凶悪な形相で詰め寄るという、短絡的強迫行為に出たのであった。逆恨みとはまさにこのことである。

「な、何のことです」

 ニコルは何のことか分からず眼を白黒させて口ごもった。チェシーの殺気を感じたのか、先制のエフワズが見る間に赤くするどく光り始める。

「うるさい」

 チェシーが剣を振り回す。

「事あるごとにカサコソ出没しやがって。貴様、何度私の邪魔をすれば気が済むんだ」

「ひっひえええ!」

 ニコルは思わず真っ青になって助けを呼んだ。

「ざっ……ザフエルさぁんっ!」

「お呼びでしょうか」

 荒涼とした、一陣の風が舞い散る。

「お召しにより参上仕りました」

 ニコルは何が何だか分からないまま叫んだ。

「た、た、助けてえっ!」

「御意」

 刹那、凍り付くような声がしたかと思うと――


 うわぁぁぁ。どかーん。ぎゃあああ。ぷしゅぅぅぅぅ。その間、約〇.〇一秒。


 なぜこの場に都合良くザフエルが現れたのかとか。もしかして毎度の如くのぞき見をしていたのではないかとか。やっぱりどう考えてもニコルの後をねちねちつけ回していたとしか思えないとか。まあ、いろいろ思い浮かぶ表現内容は違えども結局言いたいところとしては『ザフエルさんあんたそこでいったい何をしていたんですか』というまごうことなき一点にキッチリ集約されるのであるが、如何せん声を荒げて問い詰める間など勿論有ろうはずもなく。

 ザフエルの放った、完全なる八つ当たりこと聖呪最強の魔法《天国の門ガルテ・カエリス》の稲妻は、ノーラス城砦の裏山深くに突き立ち、岩を砕き、チェシーをぶっ飛ばした挙げ句ニコルまでも天高く放り投げたのであった。



 ぷしゅぅぅぅぅ。

 地上のザフエルはカードを装着した黒いサーベルを残心の所作で振り、潔癖な手並みで鞘へとおさめつつ、うっすらと肩越しに振り返った。

 ぷしゅぅぅぅぅ。

 まだ変な音が噴き出している。

 おもむろに眼をほそめる。

 ほわほわと次第に白い湯気が立ちこめてゆくなか、ちょうどニコルがきゃああぁぁぁ……と悲鳴の放物線を精確に描いて落下してきた。ザフエルの腕の中にどすん、と落ちる。ちなみにチェシーは山の向こうの木のてっぺんに引っかかっているので残念ながら角度的にもこの場から見ることはできない。

「痛ったぁああ!」

 ニコルは両手を振り回しながらぎゃあぎゃあ喚いた。

「いいいきなりなにするんですかザフエルさ」

 とそこでぽかんと絶句する。

「……へ?」

 あまりのことにザフエルの腕から降りることも忘れ、お姫様抱っこされたまま呆然と周りを見回す。

 あちこちの岩肌から白い煙が立ちのぼっている。だが何かが燃えた気配はない。

 ニコルは眼をぱちくりとさせた。空気がみるみる暖かく湿ってくる。

 無惨に崩れ果て、瓦礫と木っ端と残骸の岩場と化した裏山の一画。

 そこから、天然の湯がまさに湯水の如く湧出している。周辺をしっぽりとあたたかい乳白色に塗り込めているのは噴出する水蒸気だ。いや、これは蒸気というよりむしろ――

「温泉ですな」

 まるで他人事のように首を振りながら、ザフエルはいかめしい口調で断定した。



 ということで、後日。

 無事、ノーラスに温泉療養施設ができたのであるが。

 落成式当日、何やら嫌すぎる予感とともに発覚したのは驚愕の事実であった。

 その名も『ザフエル温泉』。

「って何でザフエル温泉なんですかーッ!?」

「残念ながら今年度予算特別会計がもうありませんでしたので」

 ザフエルはそっけなく言った。

「我がホーラダイン家の私財をなげうち、いえ、むしろ惜しみなく投入し建築いたしました」

「だ、だ、だからって……!」

 ニコルはよろよろした。ザフエルの気持ちは嬉しい。激しく嬉しい。

 超ごーじゃす古代神殿風の大理石浴殿、きらめく噴水に打たれるもよし薔薇の花散る香水の湯に浸かるもよしの岩風呂、薬湯、露天風呂、滝湯も完備の天然シャワー、そしてなにより源泉掛け流し! 素晴らしいノーラスの眺望!

「……真正面にあの悪趣味極まりない巨大金看板が掛かりさえしていなければ、な」

 どーんと掲げられた、丸にザ印の巨大看板が燦然と陽を反射して照り映える様子を絶望的な面持ちで見やりながらチェシーが頭を抱えた。

「何の。それがどうかしましたか」

 後光にも似た金看板を背に、ザフエルは腰に手を当て平淡に応じる。

「芸術は爆発です」

「だめだ。この男のネジのぶっ壊れぶりはもはや疑う余地もない」

「ちなみに」

 ザフエルはニコルを見ながらぼそりと付け加えた。

「……魅惑の混浴となっております」

「混浴!?」

 ニコルはぎくりとした。真っ赤な顔で鼻を押さえる。

「ど、どうして!」

「何か問題でも」

 問い詰める視線がやたらと冷たい。

「師団所属全員に均等な入浴の機会を与えるべく決定された事項によもや反対なさろうというおつもりではないでしょうな」

「そそそそんなことは言ってません! 言ってませんけど……!」

 ニコルは青くなったり紫になったりしながらぶんぶんと頭を横に振った。

「結構。では、失礼いたします。ちなみに将官専用は最上階、露天となっております」

 ザフエルはゆっくりと含み置いて、踵を返した。

「ごゆっくりどうぞ」



 翌日より大浴場は魅惑の混浴目当てのむくつけき兵士たちとヒルデブルク鬼軍曹ほか豪腕女性将校有志との激しい決戦の場となった。貞操防衛軍結成にともなう阿鼻叫喚の混乱のさなか、決死の中央突破を試みる男性軍と女性軍は苛烈なる戦闘を行い、近年まれに見る一進一退の攻防戦を繰り返すこととなる。

 物語はやがて伝説を生み、伝説は絶望を生む。

 ヒルデ軍曹に単騎挑んで山の向こうまで放り投げられた勇者、数少ない女性兵士の信頼関係を裏切ってまで覗こうとしたところを発見され連行され女だらけの査問会議に掛けられひぃひぃ言わされることになったならず者――考えるだに恐ろしい悲惨なその末路に思いを馳せるとき、第五師団(の一部)は目の前に立ちはだかる強大な敵(正当防衛です)に歯がみし、また決して叶わぬ無念さにただただ落涙するのみ、なのであった……。


 そのような状況下。

「師団長~~、アンシュも温泉にゆっくり入りたいですう」

 寝室の準備にやってきたアンシュベルが、胸にお着替えやらシーツやら枕やらをいっぱいに抱えつつもぶすぅとしたむくれ顔を作って言った。

「何で混浴なんかにしちゃうですか。いつ覗かれるかわかんないし。もう、副司令のばかあっ! はい師団長歯磨きどうぞ」

「あ、はい」

 ニコルはぷんすか怒るアンシュベルからはぶらしとコップを受け取った。

「まあまあそう怒らず。とりあえず僕も一度行ってみたいとは思ってるんだけど時間がねえ、なかなか取れなくってさ」

 洗面所へゆき、水差しからコップに水を注いで、さっそくしゃかしゃか歯磨きし始めながらなだめにかかる。

「え、師団長も? で、でも、うーん」

 アンシュベルは不安そうに手を結び合わせて口元へ押し当てた。おずおずとニコルの表情を見つめる。

「それって大丈夫なんです?」

「あ、ああ、ひょりゃひょうりゃけろ」

 ニコルは口元をぷくぷくの泡だらけにしながら苦笑いした。

「れもまあひょうはんへんようのおひゅろがあゆってひってたはらほっぴらっぴゃららいじょうびゅじゃないかなあっておもっぺ」

「ええっ将官専用っ?」

 アンシュベルは嬉しさのあまりみるみるほっぺたを暁の朱に染めあげてゆきながら眼をきらきら輝かせて飛び上がった。

「あ、アンシュもそっち行きたいです! 是非連れてって下さいです!」

「もひろん」

 ニコルは泡だらけの顔でにっこり笑ってうなずいた。がらがらとうがいをし口をゆすぐ。

「うがいはいいから早くお顔拭くですっ!」

 アンシュベルがタオルを突き出しながらゆさゆさニコルを揺さぶった。猛烈に急かす。ニコルは揺さぶられながら笑った。

「はいはい。じゃ、善は急げだ。今から行く?」

「うわあい行こ行こ行こ行こ行こ!」

 ということで。

 二人はさっそくいそいそと将官専用の温泉へと向かったのであった。

 昼間は混浴を求めて殺伐としていた階下の大浴場だったが、今は湯も抜かれ、しんと静まりかえって人影もなく、不気味なほどに冷え込んでいる。湯の流れるおだやかなせせらぎの音以外はまったく聞こえてこない。

 獅子の噴水周りに浮かんでいた薔薇などもすべてきっちりと衛生的に片づけられている。さすがはザフエルの名を冠した施設である。完璧に清掃が行き届いている。そんな様子を横目に見ながらニコルは階段を示した。

「あっちだよ、アンシュ」

「えへへ」

 アンシュベルはにこにこしながらニコルの手に腕をからめた。ぴったりと寄り添い、しがみついてくる。

「うわーい、師団長と一緒にお風呂ですぅ~♪」

「はしゃぎすぎだよアンシュ」

「だって嬉しいんだもん」

 階段を上がりきり、真っ直ぐに続く廊下を見晴るかす。

 浴場の入り口は廊下の突き当たりにあった。ニコルは持ってきた明かりを台に置いた。注意書きを見つつ、壁にしつらえられたランプに火を入れる。

 まぶしい明かりが浴場全体にふわりと広がった。

 アンシュベルは眼をみはった。感嘆の声が浴殿に吸い込まれる。

「うわあ……」

 円形の大きな浴場の天井にはまるで薔薇窓のようなステンドグラスの天窓が入れられていた。どういう仕掛けになっているのか、そこから柔らかい光のかげりが差して、月明かりのようにゆらゆらと降りささめいている。

 浴場の中央には天使の彫刻が刻み込まれた染み一つない純白のアーチ石柱が立ち、その足下は湯から上がって休める島となっていた。南国風の花を飾ったテーブルや寝椅子が置かれ、手すりのついた階段が幾何学的な影を湯の表面に落としている。

 光と、影と、壁の色と。すべてが溶け出した黄金にきらめいているかのようだった。ゆったりと張られた湯には絶えずさざ波が立ち、花が浮かび、壁際の聖女像が抱いた壺からふんだんに湧く源泉の滝からは真っ白な湯けむりが視界を遮るほど暖かく立ちこめている。

「こっ、声もないです……」

「右に同じ……」

 あまりのごーじゃすさにしばし硬直する二人であった――が、何はともあれ温泉に来たからには目的を果たすのが第一である。

「と、とりあえず入ろっか」

「そ、そうでしたっ!」

 いざ入るとなればアンシュベルの行動は早かった。ぱぱぱぱっといきなり全部を脱ぎ散らかし、くるくるとまるめてかごに放り込んだかと思うと嬌声をあげつつザ印タオル一枚を持って突進してくる。

「師団長も早く脱ぐですうっ♪」

「ちょ、ちょっ……きゃあああ!!」

「逃げるなですぅっ♪」

「ま、待って引っ張らな……きゃあああ!」

「げっへっへ何かわいこぶってるですかぁっ師団長もちゃっちゃと脱ぐですうっ♪」


 一気にメガネを取られシャツから軍衣の下までしゅばばばと脱がされたあげく胸に巻いた包帯がわりのサラシ布の端っこを掴まれてくるくるくるくるとコマ回し、あああれえええご無体なご無体なあっ! と大騒ぎした後。シャワーを浴びるのもそこそこに、二人して一緒にばっしゃーん! と盛大に湯へと飛び込んだのであった。

「やったぁ貸し切りですぅ! ああん最高! 師団長、すんごい気持ちいいですうっ!」

 すっかり子どもに戻ったアンシュベルが、ばしゃばしゃとお湯を跳ね散らかして、はしゃいでいる。ニコルは思いっきり濡れた髪の水気をぶるぶるふるいながら笑った。

「そうだね、こんなにのびのびお風呂入れるなんて久し振りかも」

「ノーラスに来てからはずううっと」

 アンシュベルは真っ白な肌に水のしずくをいくつもつけてニコルに飛びついた。

「お部屋のちっちゃなお風呂にしか入れなかったですもんねえ」

「まあね」

 ニコルはアンシュベルを抱き止め、かぶりを振った。

「でもあれはあれで気持ちいいよ。アンシュしかいないから安心できるし」

「えへ、アンシュは師団長のお世話を独り占めできて嬉しいですけど」

 むにゅむにゅとアンシュベルは人なつこくくっついてくる。水面にうっすらとかすれる湯けむりの下、アンシュベルはなおいっそうぷよよんとニコルにしがみついた。

「えへへ」

「そ、そんなにくっついたら、は、恥ずかしいよ……」

「えへへー師団長~~ぱふぱふ~~」

「な、な、何なんだか」

 ニコルはやたら気恥ずかしくなってアンシュベルから眼をそらした。アンシュベルはそこではたと両手を打ち合わせた。

「そうだ師団長、アンシュがお背中流すです」

「え」

 ニコルはぴき、と顔を引きつらせた。

「お、おせ、お背中って」

「温泉と言えばお背中ですっ! ほら早く上がるです」

「え、ええっ!?」

 アンシュベルは大喜びで温泉からあがり、蛇口の前にちいさな椅子を持ってきてニコルを座らせた。手にザ印のちいさなタオルを持っている。

「まずは泡泡ですっ」

「は、はい」

 アンシュベルはせっけんを大量に泡立ててぶくぶくにしながらきゃあきゃあ大喜びでニコルの背中に泡をこんもりとくっつけた。

「きゃーー泡ーー泡ですーー!」

「な、何がそんなに楽しいのかぼぼぼ僕にはよく分からないんですけど!」

「きゃーーー泡あわわわ~~アンシュたら人魚姫ですぅ~~!」

 といつの間にやら背後でどんどんぱふぱふと異様な大盛り上がりである。ニコルはおそるおそる振り返った。

「!」

 まったくもって何が楽しいのか、胸やら腰やら掌やらに泡を大量にくっつけてくねくね踊りまくっているではないか!

「楽しいですぅ~~!」

 アンシュベルはすっかり紅潮しきった顔でにっこりとニコルを見下ろした。

「師団長も人魚姫ごっこするです」

「え、遠慮しますっ!!!」

 あまりの衝撃に椅子から転がり落ちる。

「ちょちょちょちょっと待ってってばアンシュ、う、うわあっ」

 アンシュベルが嬉々として飛びついてきた。大喜びで泡をたっぷり塗りつけてくる。

「きゃ、きゃあああ……あああ!?」

 抵抗虚しく、頭のてっぺんからつま先まで全身カニのあぶく状態となったニコルはあきらめてしょんぼりと座り込んだ。

「何か天ぷらになった気分……」

「さてと、綺麗になったことですしさっそく流すですぅ」

 さんざん遊びつつも身体や髪を洗い終わり、いざシャワーの蛇口をひねらんとしたアンシュベルであったが。

「あ」

 とそこでなぜか突然、妙にこわばった声をあげる。

「ん?」

 シャワーで石けんを流しながらニコルは振り返った。

「何?」

「あ、あの」

 アンシュベルは困った様子でもじもじと指先を突き合わせている。

「何か困ったことでも?」

「え、えっと、その、」

 アンシュベルは照れ隠しに頭に手をやり、身体をくねらせた。

「温泉来れるのがあんまり嬉しくって……その、タオルとお着替えをお部屋に忘れてきちゃいましたーーー!」


 ……。

 …………。


 ――な、な、何ですとーーーッ!!?


「仕方ありませんです」

 アンシュベルはきっと唇を引き結んだ。決死の表情でニコルを見返す。

「自分の失敗は自分で何とかするです。ここはあたしが単身取りに帰るです!」

「で、でも」

「とりあえずタオル貸してくださいです」

「えええっ、でも、これは」

 ニコルはびくびくして最後の牙城たるタオルを防衛しようとした。その手からアンシュベルがさっと手際よくひったくる。

「あうっ」

「あたしならスカートだし、とりあえずのーぱんでも大丈夫です」

 アンシュベルは胸を張った。

「どうせ誰もいないですし。ぱんつ持ってすぐに戻ってきますですあの夕日が沈むまでには必ず戻る走れアンシュベルってことで」

「な、何か違う気がするけど」

 ニコルは顔を引きつらせつつも何とか気を取り直してうなずいた。

「分かった。任せるよ。お願い」

「はいっ了解ですっ」

 アンシュベルは心底嬉しそうに背筋を伸ばして敬礼し、いきなり勢いを付けて駆け出そうとした。

「では不肖アンシュベル行きまあすっ!」

「っと待ったあ! お風呂で……」

「きゃあっ!」

 走っちゃ危ないよ、と続ける間もなく、アンシュベルは思い切りその場で、すってーん! とずっこけた。

「あ痛たた」

 どうやら思いっきり尻餅をついたらしい。ニコルはあわててアンシュベルを助け起こした。

「大丈夫?」

「ううっおしり痛いです青たんできちゃうです……」

 なかなか立ち上がれず、ぺたりと床に座り込んだままアンシュベルはめそめそ泣いている。ニコルはやれやれと額に手を押し当てた。

「気をつけてよホント」

「うええん……ごめんなさいですう……」

 アンシュベルはお尻をさすりさすり、よろよろと温泉から出ていった。

「やれやれだよ」

 ニコルはしょんぼりとため息をついた。何度か眼を瞬かせ、心細い表情でアンシュの出ていった後を見やる。

「ま、いいか」

 どうせ誰も来ないのだし、と思うことにして半ば無理やりに気を取り直す。滅多にない一人だけの時間だと思えばいい。しばらく湯に浸かっていればすぐにアンシュベルも戻ってくるだろう。

 そう考えるうち、この豪奢な温泉がまるで今だけは自分の秘密の隠れ家になったかのような気がして、ニコルは少し嬉しくなった。何だかんだ言いながらも看護部隊のビジロッテ中尉からは傷病兵たちがこの温泉施設を本当に有難く思っているとの報告があったし、表向き埒もないことばかり言っているようでいて案外ザフエルも兵たちのことを考えているのだなあ、などとほんのり見直してみたりもしつつ、今度は波を立てないようゆっくりと湯船に降りて、とろりとした光を帯びる湯にうっとりと身を沈める。

 肩肘を張ったいつもの力が抜ける。

 ほうっとゆるいためいきがもれた。

 ぼんやりと周りを見回す。

 壁の一部はガラス張りの戸になっていた。ガラスが曇ってさえいなければきっと漆黒の夜空が見上げられるだろう。

 と、そこでニコルはぱちくりと眼を押し開いた。

 そう言えば確か、露天があるとか言っていたような気がする。もしかして、あの戸の向こう側は――

 こぽこぽと源泉の湯が流れ落ちる音が聞こえてくる。

 ニコルはぶくぶく鼻の頭まで湯に沈みながら、しばしぼうっとし、それからやおら思い立ってガラス戸まで泳いでいった。指先で白く曇ったガラスを拭い、おでこをくっつけて外を見る。

 暗くてよく見えない。しかし、確かにこの内湯が外に続いているのは間違いなさそうだった。

 周りをきょろきょろ見回し、誰もいないことを改めて確認してから、ニコルは湯から上がった。こっそりとガラス戸を開け、露天風呂に出る。

「う、うわっ……」

 さあっと涼しい風が吹き抜けてゆく。同時に、瀑布にも似た音が全身を包み込んだ。湯の飛沫が顔に掛かる。ニコルは思わず手で眼をかばった。

 おそらくこここそが本当の源泉掛け流しになっているのだろう、暗くて見えないほどの高さから滝となって落下する湯が、途中の岩に弾け、泡沫の白糸となって砕け落ちている。

 目の前は漆黒の闇、そして頭上には満天にきらめく星。

 風に木々の葉が揺れている。どこかで梟が鳴いた。森がざわざわと息づいている。

 飾りも何もない。荒々しい自然を岩ごと削り出し、その只中に身を投げ出すかのような放埒な感覚が押し寄せた。

「す、凄いな」

 半ば呆然として、視界を埋め尽くす自然に心を奪われる。

「こんなお風呂初めてだ」

 よく分からない笑いがこみ上げた。驚きと喜びと感激と予想外の気持ちが入り交じって、本当に、他に何と言っていいか分からなくなる。

「凄すぎてほんとに……」

「ん?」

 ふと。

 きい、と背後で小さなちょうつがいの音がした。

 濡れた石を踏む足音。

「おう、いたのかニコル」

 続けてざぶり、と湯を掻き分け近づいてくる音が聞こえてくる。


 ……。

 …………。


 …………へ?


 ニコルは一瞬、真っ白になった頭で考え込んだ。

 質問です。な、何ですか今の声は?

 

 問いと答えが無駄にきちんと整列されて脳内に表示される。

 一、空耳。

 二、気のせい。

 三、も、も、もしかして(激しく滝汗だらだら)。


 なぜか……

 頭の中から、妙に正確なちっちっちっちっ、という時限爆弾にも似た拍子を刻む音が、それも次第に全てを圧する巨大な爆音と化してゆきながら聞こえて来る。い、いや、本当のところは聞こえてきてほしくなど全然ないのだが、ちょ、ちょっと、いくらなんでもそ、それは……!


「さすがはホーラダイン。あぶく銭を湯水の如くつぎ込んだだけはあるよな」

 何もかもぶちこわすかのような、いかにも蔑ろに含み笑うチェシーの声がする。

「……そう思うだろ、君も」

 ちーん。

 頭の中で押し鈴が鳴る。答えは三番、大正解である。おめでとうの脳内ファンファーレと優勝のくす玉。ぽん、と紙吹雪が散って。

 ま、待て。

 ニコルは完全に硬直した。誰がこの状況で楽しく答え合わせをしろと、い、言っ……


 ――ふふふふふふんぎゃわぁぁぁぁぁぁぁああーーー!!



 つるんっと足を滑らせ、頭から露天風呂にばしゃあんとぶっ倒れる。盛大な湯柱があがった。

「ららられわあわなななんなんでちぇちぇっちぇっごぼごぼごぼ!!」

「しゃべるか溺れるかどちらかにしろ」

「むむむひゃいわないでぐごぼぼぼ!」

 この際溺れようが溺れまいがそのような些末事なぞどうでも良い! ニコルはザリガニのごとく湯船の隅へもがき逃げながら、驚天動地の形相で振り返った。

 湯けむりの向こう側にたなびく人影が見える。ひどく背が高くて、傍若無人な男の、み、み、見るからに、じゃななななくてみみみみみ見てない見ない見えない……あああ!!!

 ニコルは全身を真っ赤っ赤に茹で上がらせてぶるぶると震え上がった。


 ――な、な、何で……こ、こ、こんなところに!


 あまりのことにぶくぶくぶくと泡を吹いて失神しそうだった。

 いや待て、むしろ泡! 泡さえあれば!

 とっさに周りを見回す。激しい水しぶきが眼に入った。どうどうと轟音たちこめる滝壺の真下へと飛び込む。

「うわあああたたたた!」

 頭上から凄まじい水量の湯が塊となって降り注いできた。

 押しつぶされそうな衝撃だが諸肌見られることに比ぶればそんな熱など何するものぞである。とにもかくにも両手で必死に身体を抱き込み、全身をかばいながら、転げ出しそうになる心臓もろともに悲鳴を呑み込む。

 ザフエルさんじゃあるまいしいいいいいきなり背後から現れるだなんて、ひ、ひどすぎる! もしかしたら、み、み、見ら……うあああぎゃあああ……!!


「何だ、どうかしたのか」

 チェシーはニコルがどうしようもなく脳内七転八倒していることなどまるで気にも掛けていないようだった。

 半ばはだけたザ印タオルをかろうじて腰に一枚巻いただけの姿で、座り心地の良さそうな場所を吟味している。

 憎々しいまでの余裕だった。次第に面倒くさくなったらしく、ぐいと見回し、最も眺めの良い場所をさっとぶん取ったかと思うと激しく挙動不審なニコルのことなど端から無視しきったていで腰まで浸かり、思いっきりふんぞり返っている。

「なかなか良い眺めじゃないか」

 肘を岩に乗せ、夜を眺め渡しながら、横柄に含み笑う。

「なっなっ眺めってななななな何が」

「そりゃあ」

 チェシーは気のない様子でいい加減に答えようとして、ふと眉をひそめた。

「……」

「な、な、何!」

 ニコルはぎくりとすくみ上がった。心臓が跳ね上がる。

 逃げた反動で、ばしゃ、と激しく湯が揺らいだ。チェシーの表情が湯けむりに隠れる。

 直接の照明がないことだけが幸いだった。だが、その薄暗さがかえってチェシーの漂わせる不覊奔放な本性――常日頃の懶惰な姿勢とか態度とか誰かを値踏みするような視線といったようなもの――をまざまざと過激すぎるほどに想像させて、もう、それだけで頭の中がいっぱいいっぱいになってしまいそうだった。

「いや」

 チェシーはわずかに身じろぎした。かすかに声色を変える。

「何でもない」

「な、な、……」

 今にも止まりそうになっていた心臓が、ふいに、動き始める。

 詰めていた息が、一気にこぼれ出た。

「何でもないんなら、べ、別に」

「そんなことよりもだ」

 チェシーはやおら身を起こした。

「う、うひゃあっ!」

 少しチェシーが動くだけでまた息が止まりそうになる。ニコルは両手で顔を覆ってぶしゅぅぅぅ……と撃沈した。こ、これは、もう、何というか――

 頭の中の血管が古ぼけた蒸気機関みたいにこっぱずれて全部びよんびよんと四方八方に吹っ飛びそうだった。

「熱いんなら片意地張らないで移動しろよ」

 チェシーは改めてじろじろと不審の眼差しをニコルへと走らせた。ニコルは激しく首がもげそうなほどにぶるぶるとかぶりを振った。

「いいいえいえいえだいだいダイジョウブですってば」

 ばちゃばちゃとやたらに飛沫を上げて必死にごまかしながら引きつり笑いでチェシーを押しとどめ、そのまま源泉側へと後ずさる。

「あああちちち!」

「それ見ろ。言った事じゃない」

 チェシーは苦々しく唸った。

「人の忠告は聞くものだ」

「わわわ分かりましたからちちち近づかないで……!」

「は?」

 チェシーはいきなり口の端をへの字にひん曲げた。苛立ちまぎれに今にも立ち上がりそうな所作を見せる。

「何言ってるんだ君は。わざわざ熱いところへ……」

「はははまさかそんな馬鹿なっ!」

 ニコルは大袈裟に笑い飛ばそうとした。

「こんなの、ぜんっぜん熱いわけないじゃないですか! へのつっぱりにもなりませんですよ!」

「……」

 チェシーの表情が不可解なものへと変わってゆく。


 し、しまった……!


 ニコルは卒倒しそうな叫びをまた呑み込んだ。

 まさに大失言。

 断じて行えばチェシーも之を避く……なんてことなどあるわけないではないか! 誰よりも強引で唯我独尊で利かん気負けん気の強いごり押し主義の輩を前にこんなところ呼ばわりのうえ、『ぜんっぜん』熱くない宣言までしてしまったのである。これぞすなわち男と男の熱湯ガチンコ勝負、元帥杯争奪城内我慢大会に参加せぬとはフッこの臆病者の鶏頭の腰抜け野郎めとあからさまに中指立てて挑発中傷するも同然の墓穴行為ではないかあああ……!!


「ほう」

 得心したらしい。チェシーはうっすらと口元を邪悪な笑みの色に染めた。

「なるほどね」

 眼だけで源泉の滝を上から下まで嬲るように追いながら続ける。

「それほどまでに言ってくれるなら、是非私も打たれてみるとするかな……この上もなく、ゆるりと、ね」

「ちぇ、ちぇ、チェシーさん……そっ、そうじゃなくて……!」

 ニコルが悲鳴にも似た反駁の声をあげようとした、まさにその時――



 さて。時間はやや遡る。

 そのころ、アンシュベルが何をしていたかというと。

「い、急がなくっちゃです」

 ニコルの着替えやらタオルやらを抱えて急ぎ戻っている最中だった。

 と、突然、背後の闇から有無を言わさぬ声が追いすがる。

「お待ちなさい、レイディ・アンシュベル」

「うひゃあっです」

 アンシュベルは飛び上がった。反動で手にしていた着替えやらブラシやらタオルキャップやらハンドクリームやらへちま化粧水やらコットンやら何やらかんやらをごんごろごんごろと四方八方に撒き散らかす。

「たっ大変ですっ」

「こんな夜更けに」

 声だけが足音も立てず、すうっと忍び寄ってくる。暗い影がするどくさしかかった。

 アンシュベルはひぃぃと震え上がった。頭を抱え込んでがたがたと震える。

「すっすみませんですこっこれには深い理由がありましてですっっ」

「……何をしているのです」

 冷ややかな問いかけが放たれる。言うまでもない。声の主はザフエルであった。あまりの恐怖にアンシュベルは我を忘れ口走った。

「つっつまり師団長が今温泉に入ってて、で、で、あたしがお着替えを持って行くのすっかり忘れちゃってて、それで――」

 あたふたと自己弁護も兼ねてまくしたてる。とそこでアンシュベルは口をつぐんだ。気まずい顔で絶句する。

「……喋っちゃった……」

 がくりと頭を垂れる。

「ってそれどころじゃないです! 今からお着替え持って行くんだから、いいですか副司令、ぜぜぜ絶対に、覗いちゃ、ダメですからね!」

 アンシュベルは力いっぱいぱんつを持って振り回しながら力説した。

「慮外なことを」

 ザフエルは歯牙にも掛けぬようすでぱんつから視線をそらした。

「だったらいいですけど」

 アンシュベルはお着替えを拾い集めながら疑いの目を向けた。

「……ちなみに何模様だったですか?」

「苺」

「もちろんアンシュのですからね!」

「……」

「師団長のは絶対に見せませんからね!」

「……」

「睨んでもダメです。副司令のえっち!」

「不愉快ですな」

 ザフエルは冷淡に吐き捨てた。ふいと背を向ける。

「せっかくヒルデブルク軍曹からの伝言を伝えてさしあげようと思っていたのに」

「えっ?」

 アンシュベルは眼をぱちくりとさせた。

「炊事長さんが? 何だろ」

「さあ」

 ザフエルは今にも立ち去りそうな素振りを見せながらつぶやいた。

「何やら新作トルテの味見がどうのこうのと」

「きゃーーー! トルテーー行きます行きますーー!」

 ばたばたばたと。

 ……いきなり陽動作戦に引っかかって駆け去ってゆくアンシュベルなのであった。


「ふむ」


 ザフエルは腕を組んだ。苦々しい光が黒い瞳にくすぶっている。

 床に散らばった着替えの山をじろりと睨み付ける。

 いつもの水玉ぱじゃま。いつものナイトキャップ。いつもの、白い――


 ……。


 表情は微動だにしない。ザフエルはいきなり踵を返してすたすたと歩き出そうとした。

 ぴたり。

 なぜか、足が止まる。

 計り知れぬ時間をかけ、また、足を踏み出す。

 また、立ち止まる。

 うろうろ。うろうろうろうろ。一歩進んで、二歩下がる。怪しいことこの上もない。うろうろ。まだうろうろ。さらにうろうろ。

 いったい何往復したことだろうか。

 ……気が付いたとき、ザフエルはなぜか、ニコルの着替えを腕に抱えた状態で将官専用温泉の真正面にいた。



 半ば心外、半ば至当。さもありなんである。ザフエルはびくとも動かぬ鉄の表情で、ゆらゆらと湯けむりの立ちこめているであろう温泉内湯の様子を壁越しに見つめた。

 無論、この場から温泉内が透視できるわけもない。

 水音も、しない。

 ザフエルはかすかに眉を吊り上げた。機械的に着替えをかごへ落とす。

 師団長としてノーラス防衛の重責を担う身でありながら身辺警護を置かぬとは何事か。つつがなく入浴を済ませられるのならそれでもよいが、いつ何時敵が侵入するか分からぬ状況で単独行動を取るなど以ての外、軽率以外の何ものでもない。

 仕方がない。

 むっつりと口元をゆがめ、サーベルの柄に手を置いて有事に備えた体勢を取る。

 分かっているだろうがこれは警備である。決してこの機会に温泉内でゆったり湯を使っているであろうニコルのはんなりポーズを妄想しようとか考えているわけではない。断じてない。うなじとか、上気した頬とか、言語道断である。

 だが、その時。

「ちぇ、ちぇ、チェシーさ……!」

 絹を裂くにも似た、有り得べからざるニコルの悲鳴が響き渡った。

「無頼な!」

 ザフエルはぎらりと黒瞳に殺意を宿らせるや否や、サーベルを抜き払って風呂内へと駆け入った。ブーツの甲高い踵音が響き渡る。

 髪を振り乱し四方へ眼を走らせる。誰もいない。まさか拉致されたか――

 とっさに顔を上げてガラス窓の彼方へと視線を突き立てる。

 外だ。声は外から聞こえてきた。

 床に流れる湯を踏み散らし、一気に駆け抜けて、硝子戸をたたき割らんばかりの勢いで押し開け露天風呂へと躍り出る。

「閣下!」


 恐怖におののく薔薇の瞳と。

 その、己が忠誠の全てを捧げた主たる白い裸身へ、今にも挑みかからんと迫る野獣まがいの男の背中と。

「な、何だ……?」

 チェシーが愕然と振り返ったその拍子に、ぱらりとザ印のタオルが湯に舞い落ちる――様子が、目に入った。


 ザフエルは、ゆるく深い息をついた。酷薄な、仮面の微笑にも似た逆鱗のまなざしを湯おもてに漂うザ印タオルへとくれ――

 次の瞬間、野獣男の心臓めがけて本気の切っ先を突き立てようとした。

「……きゃああああ馬鹿ぁぁぁああああ!!!!」

 悲鳴。

 ばしゃー。

 頭にすこーんと木の手桶が命中する。見事なまでに筋の通った一連のお約束。


 ……。


 なぜか、湯をかぶっている。前髪からも、サーベルの切っ先からも、湯のしずくがぽたぽた伝い落ちるほどだった。

 こうなった理由の一端なら分かる。思い切り風呂内に踏み込んだせいだ。膝上まで濡れたうえにブーツも完全に湯の中と来ては濡れるのも致し方有るまい。だがそれだけで全ては語れない。

 ぷかぷかと湯に浮いた手桶が所在なく回りながら流れゆくのが見える。


 ……無言で立ち止まる。


「な、な、何やってるんですか!」

 予備の手桶を振り回しながら、ニコルが滝の向こう側で叫んだ。

「ザフエルさんの、馬鹿ああああっ!」



「馬鹿とは」

 ザフエルはやや気まずい顔で眼をそらした。

「心外ですな」

 むすりと応じる。もはやその眼に激情の闇はない。

 ニコルは真っ赤になりながら必死に言い返した。

「い、い、いきなり飛び込んで剣を振り回すなんて常識の範疇外です!」

「不審者を退治しようとしたまでのこと」

「ふ、不審者って!」

「……そこの一名」

 ためらうことなくサーベルの切っ先をチェシーの喉元へと突きつける。

 ニコルは呆然と切っ先の示す行方を眼で追い、そこに見えかけた姿にぎゃああ! とひっくり返った。

「あわわわわああ!」

「冗談も大概にしてもらおうか」

 ばちゃばちゃ暴れるニコルを捨て置き、チェシーは腰に手を当て堂々と肩をそびやかせた湯けむり姿で憤然と言い返した。

「心外はむしろこっちの台詞だ。いったいどういう……」

「問答無用」

「とっ、とにかく! もういいですから二人とも出ていってください」

 ニコルは悲痛な声を振り絞って湯の表面を叩いた。

「何でみんなわざわざ……馬鹿あっ!」

「ふっ、誰がそんな間抜けな釣りに引っかかるものか」

 チェシーはぬけぬけと言い放って濡れた金髪をかきあげた。どかりと湯に身を打ち沈め、湯けむりをふっと鼻先で吹き飛ばして嘲笑する。

「口先で男の勝負に勝とうなんて卑劣極まりない」

「勝負とは」

 ザフエルが聞きとがめる。

「何です」

「ふん」

 チェシーは顎をしゃくってそっぽを向いた。口元にぎすぎすとした薄笑いが滲んでいる。

「そこの生意気なちびに聞けばいいだろう」

「だっ誰も勝負なんて挑んでませんってば勘違いしないでください!」

 ニコルは頭を抱えながら半泣きで訴えた。

「ぼ、僕はただ……出、出、出るのを……最後にしようと!」

 ザフエルの鋭すぎる視線が突き刺さる。ニコルはまたまた悲鳴を口の中へと無理やりにぎゅうぎゅう詰め込んで反論した。

「ごごご誤解ですって別にだから我慢勝負しようとかそんなつもりは皆目……!」

「委細承知」

 ザフエルが重々しくうなずく。ニコルはようやく分かってもらえたと思い、ほうっと安堵の吐息をつこうと――

 その目の前で。

 いきなりザフエルが軍衣の襟をゆるめた。

 ぽい、と濡れた上着を投げ棄てる。


 ……。

 …………。


 ――ぶぼばはわああーーーーッ!!


「何であんたまで」

「濡れてしまったものは仕方有りませんので」

 ニコルが衝撃のあまり何やかやと噴出している間、チェシーは聞くからに嫌そうな口振りで顔をそむけた。

「余計な手出しは無用に願いたいね」

「誰が看過すると言いました」


 ――なななんでそうな……あああ!! 


「この私に挑戦するとでも?」

「縷言は無用に願います」

「……五分と耐えられずに尻尾巻いて逃げ出すがオチだと思うが?」

「そのお言葉、そっくりそのまま返すことにならねばよいのですが」

「ほう……?」


 ――たたた頼むから喧嘩ならよそでやっ……うあああ無理無理無理無理……!


 まさに正視できない状況である。と、いきなりザフエルは抜き身のサーベルを提げたまま湯の中へと歩み入って来た。


 ――墓穴第二弾ぐぁゃぁぁぁああ……


 ぎらり、と村雨の刃が湯から突き出している。

 あり得ない光景だ。理解不可能。ニコルはふいにくらくらと目の前が暗くなるのを感じた。こ、これはきっと悪い夢だ……そうに違いない……眼が覚めたら……きっと……いや、ちょっと待って……あ、あれっ……

「……なぜ剣を手放さない」

 チェシーの声がなぜかひどく遠く、くぐもって聞こえた。

「いつ何時敵に襲われるや知れませんので」

「敵が風呂にいるとでも」

「どうやら」

 ザフエルが素知らぬていを装ってつぶやく。

「ご本人にはその自覚がないようですな」

「ほう」

 チェシーは物騒に笑い飛ばした。

「どこのどいつだそんな危険人物は」

「いずれお気づきいただけるものと」

「早々に探し出して血祭りに上げておかねばな」

 何処吹く風でいなしつつ、ちらりとザフエルの胸元へ視線を走らせる。

「ずいぶんと派手な傷だな。らしからぬ」

「余計なお世話かと」

 チェシーは湯の飛沫を指先に遊ばせながらへらりと問うた。

「興味ついでだ。前から一度聞いてみたかったんだが」

「何なりと」

「あんた、誰の手先だ」

「奇遇ですな」

 ザフエルは眼を閉じる。

「私も以前からそのお言葉をそっくりそのまま貴方に返して差し上げたく思っていました」

 当然、喧嘩の合間も三人仲良く雁首揃えて湯に浸かったままである。してニコルが真ん中なのは言うまでもない。

「け、けんかならそとで……」

 ニコルはふらふらになりながら何とか声を絞り出した。立ち上がろうにも立ち上がれず、そのうえ降りかかる湯の熱いこと熱いこと。立ちこめる熱気とのぼせ上がった熱気、それぞれが頭の中で、うにょん、うにょんと、変なぐるぐる模様を描き始める。

 もう出たい……出たいけど……も、もし、こんな間近で……見られ……や、嫌だ、そ、そ、それだけは絶対に嫌やややれ……ほへ……


「いい加減に出ろよ」

「貴方が出ればいいでしょう」

「そっちが先に出ろ」

「ぼ、僕は最後で結構です……」

「お前には聞いてない!」

 ぴしゃんと押さえつけられる。ザフエルもチェシーもこんなときに限って無駄に意地を張り合ったりしてまったく何を考えているのか! 

 ニコルはまたぶくぶくと沈みかけた。目の焦点が合わない。顔が真っ赤に火照って、ゆでだこみたいにぐらぐらしてくる。


 ああ、だめだ、完全にのぼせて……きた……ぶくぶくぶく……か、神様お願い、こいつらを何とかして……あう……


「だいたいだな」

 またチェシーが調子に乗って煽る煽る。もはや双方ともニコルのことなど眼中にない。

「ピラピラと薔薇なぞ浮かべやがって悪趣味極まりないんだよ」

「ふっ」

 ザフエルは優雅に湯をすくった。

「薔薇に限らず花やハーブを浮かべ香りをたしなむのはティセニア貴族ならば当然のこと」

「ふん、女々しいことだ」

「香りが苦手ならばさっさとお出になればよろしいでしょう」

「薔薇の香りよりあんたの鼻持ちならない貴族臭ふんぷんのほうがよっぽど鼻につくと思うがね。ああ臭い臭い。何だこの女の腐ったような臭いは」

 ばちばち。今までにない激しい火花が散り始めた。

 ばちばち。ばちばちばち。

「……ひ、ひぇぇぇ……!」

 ニコルは振りしきる火花を避けつつ、とにもかくにもこの場を収めようとした。弱々しく手を上げる。

「あ、あの、発言よろしいでしょうか……」

「却下」

「黙ってろ!」

「う、うぇぇ……だ、だからその、わ、わざわざですね……こんな場所で、そんな、む、ムキになって喧嘩しなくても……」

「うるさい。黙れ。嫌ならさっさと出ていけ!」

「で、でも!」

 ニコルはへなへなしながら泣きそうな声で言った。両手で身体を隠しながらびくびくと身をちぢこめる。

「み、見られたくないんだもん……」



「はあ!?」

 ふいにチェシーは陰険な眼で振り返った。

「そんなちっこいの誰がいちいちじろじろ見たりするか。野郎のケツなぞ見たくもない! 可愛らしい女性の裸ならこの身裡にたぎる情熱の限りを尽くしても観賞させて頂くがな!」

「……ひぇぇ……!」


 あああ……終わった……もう、もうだめ……めまいが……。

 ニコルはがくりと首を後に折った。意識が遠ざかる。だ、だめ、本当に、こんなところで気を失ったら……!

「おい、どうした?」

「閣下」

 ぶくぶくと目の前に大きな泡がいくつも見えた、ような気がした。チェシーとザフエルの声が遠く重なる。

「ニコル、この、馬鹿!」

 するどい声とともに、ざばと身を起こしたチェシーが湯けむりをかき分け近づいてくる。

「こ、来ないで」

 言ったつもりが出てきたのは声ではなく泡だけだった。ごぼ、という嫌な音が湯を掻き回す。

 息が。

 息が、できない。

 目の前が真っ暗になってゆく。

「馬鹿、何やってる。くそ、どこだ、これか?」

 湯の底を探るいらだたしげな声とともに、ふいに、ぐいと足首を掴まれた。

 引きずられる。

 あ……足ぃッ!!?!

 あまりの感覚にニコルはすべての気力を振り絞って意識を取り戻した。沈みながらも必死でチェシーの手を蹴りつけ、振り払う。


 ――やややややややややめて逆さづりだけはお願い止めてぇぇぇぇ………!!


「みだりに触れるな」

 思いも寄らぬ勢いでザフエルが立ち上がった。珍しく声を荒げる。

「聖騎士の玉肌だ」

 いきなり至近距離にまで踏み込んできたかと思うと、サーベルの切っ先にあからさまな殺意をぎらつかせてチェシーに突きつける。

 その間に、ニコルは何とかもがいて起きあがろうとした。激しく咳き込む。一瞬、湯の上に顔が出た。

 必死に息を吸い込もうとした、そのとき。

 ぎらりとサーベルが光るのが見えた。その向こう側に、なぜか。

 ……ひつじがいっぴき……ぞうさんがにひき……

 ……。


 ――ぎゃぁぁぁああああぁぁあwふじこぉぉぉぉぉ……!!!


 眼前にざばあと立ちふさがる戦慄の光景。それはさながら良識の崩壊、高らかなる悪徳の栄え、暴虐の限りを尽くし全てを殲滅させんとする怪獣映画のごとき自主規制と墨塗りと野性のモザイク王国百花繚乱スペクタクルであった!

 あまりの衝撃に今度こそ完全に意識を失い、ぶくぶく泡を吹きつつ後ろへとぶっ倒れる。それだけではない。まさに泣きっ面に蜂、ひっくり返った勢いで背後の岩にごきん! と後頭部を強打する。

 火花が飛んだ。壊れたのは岩か、希望か。そのままあえなくも沈んでゆく。


 ……万華鏡の河が見えた。

 何か大きな乗り物に乗って、ごとごとと進んでいる。

 ここは、どこだろう……? 川のほとりは色とりどりに揺れる星くずの花畑だ。

 唐突に砂の嵐が混ざり込んだ。心地よいイメージ画像とムード音楽に切り替わる。どこからともなく抑揚のない声がした。しばらくお待ち下さ……ピー……ピー……ガー……(途絶)


「おい、起きろ、眼を覚ませ!」

 チェシーの手が沈むニコルの腕をむんずと鷲掴んだ。

 ザフエルが絶句する。

「サリスヴァール、待ちなさ……」

「そんなこと言ってる場合じゃない。思い切り底まで沈んでるんだぞ!」

 チェシーがモザイクを蹴散らして怒鳴る。

 ニコルは弱々しくもがいた。ここで、逃げ……なきゃ……本当に……!

 振り払おうとした手が、むなしくくずおれる。

 どうどうとなだれ落ちる滝の水圧に抑え込まれ、動くことも、息をすることもできない。ただ、息せき切ったチェシーの声ばかりが反響して聞こえてくる。

 まるで雪のようにはらはらと舞う湯の花。

 迫り来るモザイク。

 なのに――

 次第に、音も、声も、漆黒の闇に呑み込まれて。


 ふつりと、途切れる。


「意地を張るのもいい加減にしろ、馬鹿……!」

 今度こそ逃れられぬ強さでチェシーは抗うニコルの手首をがしりと掴んだ。力任せに湯から引きずりあげられる。

 悲鳴にも似た飛沫が上がった。

 伸ばされた腕。ひどく濡れた髪。もはや隠しようもなくのけぞる身体の、ずっと隠してきた、あの秘密が、ザフエルとチェシーの目の前に、ついに――


 と、そのとき。

「……ああっあんなところに悩殺せくしー美女がーー!!」


「何っ」

 聞くやいなや――

「どこだ!」

 チェシーはせっかく釣り上げたニコルの裸を見もせずにぽいっと滝の向こうへ放り投げた。貪欲な眼差しでがつがつと悩殺美女を捜し回る。

「美女はどこだ!」

「あっちです」

 はちまきにたすき姿、勇ましいちびのアンシュベルがびしぃっとあらぬ方向を指さして教える。思わずつられて見上げたチェシーの眼前に、謎の影がどすーんとばかりに飛び降りてきた。

「なっ……!」

 頭にバンダナ、腰に前掛け、手には巨大な二丁お玉。勇壮にして一本気なその姿こそ、第五師団最強のおばちゃんと恐れられた鬼の糧食担当長ヒルデブルク軍曹その人であった。

「いざ、成敗!」

 華麗な手さばきで二丁おたまをぐるるると回転させるなり、どりゃあっとばかりにぶん投げる。

 何という音速のうなり! 銀にきらめく正義のおたまは交差する光の弧を描いて襲来し、スカーン、スコーン! と続けざまにチェシーの脳天へ直撃した。

「ぐふっ……直撃だと……!」

 チェシーはのけぞりながらよろめいた。

「……理不尽だ……なぜ、私が」

 がくりと膝を折る。

「美女でなくて悪かったね!」

 剛胆な笑い声が闇を斬る。討ち取られたチェシーはそのままニコルの上にばしゃああんと激しい水しぶきを上げてぶっ倒れた――全裸で。

「ぎゃぁぁ、ぁぁあ、あああぢぇじーざざざあぁぁぁーーーーーー!」

「閣……!」

 身も蓋もない大変なニコルの悲鳴にザフエルが血相を変えてチェシーを蹴っ飛ばした。己の痴態も忘れ、ニコルを抱き上げようと手を伸ばす。

「もしもーし♪ 副司令さん♪」

 ぞっとするほどにこやかなアンシュの声が呼び止めた。

「さっきはトルテ情報どうもですぅ♪」

「……」

 ザフエルは、ぎごちなく振り返った。

 アンシュベルは小さなおなべを左手に、そして右手に巨大な赤い骨を担いで、とことこと近づいてくる。

「それは」

 ザフエルは無表情に呻いた。

「何です」

「てへへへへ」

 アンシュベルは、この上もなくにっこりとした。ザフエルの顔がかすかにひくり、と緊張する。

「待ちなさい……」

「『マグマトカゲの骨』と『魔法水』でっす♪」

 アンシュベルは、くすっ、と邪に笑ってマグマトカゲの骨を鍋へと放り込んだ。みるみる不気味極まりないどす黒い煙が立ちのぼる。

 ぼひゅ、と面妖な爆発音を立てて、何かが――

「あっれー? 練術失敗しちゃったかなあ?」

 アンシュベルは小首を傾げ、舌を出す。

 同時におなべの中から何かが飛び出した。

 ザフエルの頭にぽてんと乗っかる。

 無数のつぶらな瞳と。無数のもじょもじょした触手を持った、半透明の――アレ。

 それが、極めてゆるーい張力で支えられながら、ザフエルの頭から顔面へ、つつー、と垂れ落ちてくる。

 ザフエルは眼の焦点をゆっくりと鼻先のソレへと寄せ――

 直後、ばしゃああんとニコルめがけて盛大にぶっ倒れた。当然しがみついたら動かない。

「ぎゃぁぁ、ぁぁあ、あああざざざぶえるざあぁぁぁーーーーがあーー!」

 即座にヒルデ軍曹が湯に飛び込んだ。乱舞するモザイク映像の下からニコルの腕を引っ掴んで引きずり上げる。

「よっしゃ、脱出だよ」

「はいですっ!」

 間一髪。爆発的な増殖を始めた不気味な物体を後に、三人は這々の体でまろび脱出したのであった。


「あ、ありがとう、アンシュ」

 ようやく一息つく。

 ニコルは大きなタオルで身をくるんだまま、真っ赤な顔で弱々しくあえいだ。大発生した不気味な物体は見る間に露天風呂から溢れかえって、失神中のチェシーやらザフエルやらをモザイクの嵐に巻き込みながらどんぶらこっこと押し流してゆく。

「一時はどうなるかと思ったよ……」

「師団長ぅぅ!」

 アンシュベルが泣いてすがりついた。

「ごめんなさいですっ、あたしの、あたしのせいで」

「いいんだよ、アンシュがヒルデさんを連れてきてくれなかったら、今ごろ」

「うぇぇん、ホントごめんなさいですう……」

 ぐすぐすしゃくり上げて両目をこする。

「さすがに准将さんまでいたとは想定外でしたです……」

「……え?」

「あやや!」

 アンシュベルはいきなりなぜか真っ青になってぶるぶるかぶりを振った。

「ななな何でもないですっご無事でホントよかったですっ!!」

「う、うん……うん?」

 釈然とせぬままうなずこうとして。

「え」

 思い切り、眉をしかめる。

「今……なんて言った?」

「え?」

 アンシュベルは、ぴき、と顔をひきつらせた。

「い、いえ、そのう、別に、なななな何も! ですぅ……けど?」

「こらあっ!」

 ニコルは真っ赤になると、いきなりタオルを振りかざして鬼の形相でアンシュベルを追いかけた。

「きゃあああごめんなさいですうっ!」

 アンシュベルは頭を抱えて逃げまどう。

「女ってバレたらどうする気だったんだよーーー!!!」

「そ、そんときはそんときでどっちかにお嫁さんにもらってもらえば!」

「馬鹿あっ、そういう簡単な問題じゃないんだってば!」

「やれやれだよ」

 ヒルデ軍曹がくたびれた様子で首を振る。

「あたしゃ何も知らないからね」

「す、すみません」

 ニコルはあわてて立ち止まると、胸にタオルを押し当てたまましょんぼりと頭を下げた。

「今まで、その、嘘ついてて」

「いいんだよ」

 ヒルデ軍曹は、タオルにくっついてきた不気味な物体にぱっぱっと塩こしょうを振った。あっという間にひからびるスライムを見ながら、強面のウィンクをする。

「あんまり無茶するんじゃないよ」

「は、はい」

 ニコルは少しだけほっと表情をゆるめて、気を取り直した。

「もう二度と混浴だけはごめんです……」

 懲りないアンシュベルが、ひしとニコルに抱きつく。

「アンシュはお風呂大好きですけど?」

「アンシュはもういいの!」

「ううっごめんなさいですぅ……」


 苦笑いしながら露天風呂を振り返る。

 もはやザフエルの姿もチェシーの姿もそこにはなく――

 ただ、ザ印タオル一枚が枝に引っかかって、ひらひらと白く揺れているだけ、なのであった。


【おしまい♪】



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