徒歩

 冬休みも終わり、皐月、夜空、恵奈の三人は昼休みの図書室でのんびりと本をめくっていた。

 皐月と夜空は元々読書が好きだし、そうではない恵奈も二人に勧められて童話やエッセイなどの軽い読み口の本を読むようになっていた。

「え、ムーミンパパって意外とハードな人生送ってるんだね」

 恵奈が夜空に勧められたムーミンの本をぱたりと閉じて目を丸くする。

「そうよ。なのに前向きで行動力があってユーモアで男らしくて素敵よね」

「夜空の好みってそっち系?」

「ふふ、どうかしら」

 いたずらっぽく笑う夜空に恵奈と横で聞いていた皐月がつられて笑う。

 秋から冬にかけて、三人は進学のための準備を少しずつ進めていた。行きたい学校の文化祭を見に行ったり、偏差値を調べたり、模試を受けたりもした。中学二年生だから準備が早かったかもしれないが、新しいことに挑戦したかった三人は待ちきれなかったのだ。

「恵奈、本読むの早くなったよね」

「うん。国語の成績がすごい良くなった」

「皐月もこの間の模試の成績良かったでしょう?」

「そうそう、夜空に教わった数学がびっくりするくらい上がった」

「教えた甲斐があったわ」

 目標が定まっているためモチベーションが高く、三人とも調子がいい。そのためよりモチベーションが上がる。三人の勉強に対する意気込みはかつてないほどである。

 しかしもう一つ、三人がいつも一緒にいる理由があった。

「もうすぐ二年が終わるねえ」

「そう、ね」

 恵奈のつぶやきに夜空が視線をさまよわせた。皐月は口を閉じたままだ。

「三年になったらクラス替えだね」

「ええ」

「寂しいな」

 困ったように恵奈が微笑む。クラス替えで三人が離ればなれになるとは限らないが、一緒になるとは言い切れない。それは三人とも考えていたことで、口に出さないようにしていたことだった。

 とはいえいつまでも先延ばしにできることでもない。口に出さずにいられるほど大人ではないのだ。

「だとしても」

 そんな空気を変えるように皐月がニカッと笑う。

「友達でしょ」

 その一言に夜空と恵奈がはっとして顔を見合わせる。そして頷いた。

「そうね」

「そうだった」

「少なくとも学校は同じなんだし、一緒に過ごすことはできるよ。後一年だけど一緒に頑張ろう」

 ね、と笑う皐月に、夜空は少し目頭が熱くなった。

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