進路

「今配ったプリントは進路希望票だ。来週末までに書いて提出するように」

 そう担任が言ってHRが終わった。生徒からはブーイングが漏れるが担任は気にもせず教室を出て行く。皐月は手にしたプリントをぼんやりと眺める。

 そこには担任が言ったとおり、希望する進路を記載するように説明書きがあり、その下には第三希望までの高校の名前を書く欄がある。

(行きたい高校か)

 皐月は中学二年生であり、そろそろ秋も深まってきた。そういうことを考えるべき時期なのだろう。とはいえ今までそういうことをなにも考えていなかったので困惑している。

 座ったまま動けずにいる皐月のもとに夜空がやってきた。

「なにを固まっているのよ」

「いや、これどうしようかと思って」

「やりたいこととかないのかしら」

「なんにも」

「そうよね。図書室に行きましょう」

 皐月には前後の文脈が理解できなかったが、夜空にはきっと考えがあるのだろうと黙ってついて行く。恵奈は委員会で集まりがあるので後から来ると夜空が言ったことにだけ頷いた。


「で、進路なのだけど」

「うん」

「皐月はなにも考えていないのね」

「う、うん」

「それでも構わないのよ。この時期の進路希望なんてただの入り口だもの。とりあえず、そろそろ"そういう時期"ってことに生徒に気づかせるためのものだから」

 そういうものかと思いつつ、にしてもなにも考えてなさすぎるのもな――と皐月は上を見た。薄汚れた天井にはもちろんなにも書いていない。

 夜空がどこからか近場の高校一覧を三冊持ってきたのでパラパラとめくる。そこに書いてあることはどれも予想の範疇で、心惹かれることは書いていなくて、その中からなにかを見つけ出せる気が皐月にはしない。

 しばらくして恵奈が合流し、三人でそれぞれ一覧をめくる。

「あ、ここ制服かわいい」

「偏差値が衝撃的ね」

「それは困る」

「ねえねえ、三人で同じ高校行こうよ」

「そういう決め方したくないわ」

「冷たい! 夜空冷たい!」

「夜空さん真面目だから」

 三者三様にあれこれ言いながら気になった高校をピックアップしていく。のだが、皐月の手はあまり進まなかった。

 結局、皐月はほとんど首を傾げたまま下校時間になり三人は解散した。

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