目標
帰宅した皐月はベッドに寝転がって天井を眺める。
「やりたいこと、かあ」
将来なにをしたいだろうか。大人になったら自分はなにをしているだろうか。なにも思い浮かばなかった。皐月の父親は会社勤めのサラリーマンで、たしか営業職だと言っていた。母親は飲食店勤務だが、元々は父親と同じ会社の技術員だったはずだ。
いつ、どうやって進路を決めたのだろうか。聞きに行こうにも二人ともまだ仕事から帰ってきていない。
「でもそれって今決めなきゃいけないのかなあ」
皐月にはわからない。自分のやりたいことってなんだろう。最終目標は日本家屋の縁側で猫を撫でながらぽっくり死ねたら良いと思う。でもそこに至るまでになにをしたらいいのだろう。
日本家屋を買うためにはお金がいる。お金を稼ぐためには学がいる。
それならば。
「……とりあえず高校行くか」
そんな決め方でいいのかどうかはわからない。夜になったら両親に相談しようとは思う。それでもたぶん両親は反対はしないだろうし、勉強することを妨げるタイプではない。
あとはどこの高校に行くのかあたりくらいはつける必要がある。そんなに小うるさくなくて、穏やかな校風だといいなと思う。
起き上がってパソコンを起動し近所の高校をざっとピックアップする。すぐに校風や立地などの一覧が出てきた。ざっと目を通して、通いにくい学校や硬そうな学校を対象から外していく。
そうすると残ったのはわずかで、あとは自分の学力にあった高校をとりあえずとして進路希望票に書いてみた。
「こんな簡単なんだな」
将来を決めるということはもっと難しいことだと思っていた。でも、やり始めてみたらあっという間に絞れてしまった。
ふと、初めて夜空に話しかけたときのことを思い出す。
あのときはなにも考えていなかった。なのに結構な面倒に巻き込まれて、それでもなんとかなって夜空と、そして恵奈と今を過ごしている。人生ってそういうものなのかもしれない。
踏み出してさえしまえば、あとはどうにでもなるんだ。
進路希望票を鞄にしまって再びベッドに転がる。夜空と恵奈も今頃同じように進路について考えているのだろうか。きっと三人とも違う高校に行くことになるだろう。
それでも将来縁側で猫を撫でるときに、夜空と恵奈が一緒にいたらいいなと思った。
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