翌日
修学旅行の翌日。皐月と夜空はいつかと同じように、早朝の教室でしゃべっていた。
いつかと違うのは内容が修学旅行の思い出話な点だろうか。
「楽しかったねえ」
「皐月が恵奈に怒鳴り散らしたときはどうしようかと思ったわ」
「ご、ごめん」
「いいのよ、ちゃんと謝って和解したもの」
皐月が照れたように笑い、夜空は穏やかに微笑んだ。夜空は最近、穏やかな顔をしていることが多い。前のような無表情とは大違いだ。クラスの一体何人がそのことに気がついているだろうか。
そのことを思うと皐月は一人勝ちしたような、もったいないような複雑な気持ちになる。独り占めできるのは嬉しいけど、もっとたくさんの人が夜空の良さに気がついてくれたらいいな。そう思うのだ。
その時、教室の扉が音を立てて空いた。
二人がびっくりしてそちらを向くと、恵奈がずかずかと教室に入ってくる。
「おはよう」
「早いのね」
「言いたいことがあって」
恵奈は真面目な顔で二人の前に立つ。皐月と夜空も真面目な顔で首肯した。
「あのね、えっと、その」
「ゆっくりでいいよ」
「駄目、ちゃんと言う。あのね、二人と友達でいたいな」
「……」
「簡単に前いたグループを見捨てたりはしないけど、それでも、夜空と皐月と一緒にいたい。どうかな」
「……」
「だ、だめ?」
皐月と夜空は顔を見合わせた。恵奈は不安そうに二人の様子をうかがう。
「はは」
「ふふ」
「え」
「「いいよ!」」
恵奈は目を丸くした。その表情を見て二人は声を上げて笑う。
「恵奈はわたしたちの友達だ」
「そうね。友達が一緒に過ごすなんて当たり前じゃない」
「だから、いいよ。一緒にお昼食べよう。一緒に遊びに行こう」
「でもべったりはしないわよ。そんなの面倒だもの」
くすりと釘を刺す夜空に、恵奈は焦ったような顔をする。
「もうしないし! 友達って、いつでもどこでもべったりなものじゃないってこと、二人はそう考えてるってこと、わかったから」
「なら大丈夫」
「よろしくね」
「うん!」
「とりあえずカバン置いておいでよ」
「わかった。すぐ戻るから」
恵奈は自席に向かってぱたぱたと走っていった。きっと本当にすぐに戻ってくるだろう。
空は夏より少し高くなっていた。雲は薄く、風はわずかに冷たさをはらんでいる。いずれ日差しにも冷たさが交じるだろう。だとしたら、次は三人でなにをしようか。皐月はにんまりと笑った。
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