帰途

 修学旅行最終日。三人は他の同級生たちと新幹線の駅に向かっていた。旅行はあっという間で、嫌なことも、楽しかったこともあった。それでもトータルで見れば楽しかったのだと皐月は思う。

 帰りの新幹線の中は行きと違ってとても静かで、同級生たちが遊び疲れていることが伺える。皐月と夜空、恵奈の三人も騒ぐことなく静かにうたた寝をしたり、窓の外を見たり、時折ヒソヒソと話したりしていた。

 言うべきこと、今でなくては言えない感傷的な言葉はなにも出てこなくて、でもなにか言いたくてそわそわする。

 「皐月」

 「あ、夜空起きてたんだ」

 「ええ。恵奈はすっかり眠っているようね」

 「散々はしゃいでたから」

 夜空は静かに微笑む。

 「今後はどうなるのかしらね」

 「どうって?」

 「恵那よ」

 「さあ。本人が決めることだよ」

 「皐月が自分で決めたように?」

 「うん」

 なおも夜空は嬉しそうに笑う。恵奈が今後、元の友達の輪に戻るのか、それとも皐月と夜空と過ごすようになるのかはわからない。正直皐月にはどうでもいい。だってどちらにせよそれは恵奈の判断だ。皐月がすることはそれを尊重することだけである。

 夜空にしてもそこまで深くは考えていなかった。恵奈は友達である。たとえ恵奈が元の友達を選んだとしてもそれは変わらない。同じクラスにいるのだから話す機会くらいあるだろう。

 「恵奈が満足できる結果ならそれでいいわ」

 「夜空は大人だね」

 「皐月も十分成長したわ」

 「まだまだ、これからだよ」

 「あら、楽しみね」

 二人はくすくす笑って窓の外を見る。外は夕闇が近づいていた。そして三人が住む街に近づいている。皐月はわずか3日離れていただけなのにひどく懐かしいような気持ちになった。ここまで来てようやくホームシックになったのかもしれない。

 たまには家や学校を離れるのも良いものだと思う。そうでなければ恵奈と一緒にどこかへ行ったり、喧嘩をしたり、友達になることなどなかっただろう。

 恵奈はまだ寝ているようだ。自分も少し寝ようと皐月は目を閉じた。

 

 二人の会話は恵奈の耳にも入っていた。

 恵奈は考える。自分がどうしたいのか。残りの学生生活を誰と過ごしたいのかを。それは難しいようで簡単で、すとんと胸に落ちてきた。

 きっと誰かに怒られたからだろう。寝ぼけたふりをして恵奈は下を向く。

 「ありがとう」

 その声は誰にも届かなかったけれど、あたしに聞こえてるから大丈夫。恵奈は目元をこすった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る