獲物

 ビニールハウスの中には山ほどのぶどうが生っていた。列ごとに種類が違うらしいぶどうは、どれもまるまると太っていて、見るからにおいしそうである。

 「わーーー!?」

 「おお」

 「こういうふうになっているのね」

 三者三様の意見を述べつつ、ビニールハウスの奥へと進んでいく。

 途中途中で恵奈が立ち止まってぶどうに手を伸ばそうとするが、夜空が突き進んでしまうため諦めることを繰り返している。どのぶどうが一番おいしそうかを真剣に吟味する夜空は、そんな恵奈の様子など気づくこともなくぶどうを見つめていた。

 一方皐月は既に目についた小振りなぶどうの房を手に持っていて、食べながら二人のあとに付いて歩いている。

 「皐月ずるい」

 「ずるくない。恵奈も食べる?」

 「いる! ありがとう! おいし!」

 単語のみを発して皐月からぶどうを受け取った恵奈は満面の笑みで口に入れる。それはとてもみずみずしくておいしい。甘さと爽やかさ、わずかな酸味がありそれらが口いっぱいに広がる。なんてややこしいことは考えずに恵奈は皐月のぶどうをせっせと食べた。

 「恵奈、自分で取りなよ」

 「だって夜空が進んじゃうから」

 「適当なの取りなよ」

 「選べないの!」

 「……これね」

 ようやく立ち止まった夜空が一つの房を手にとってハサミでもぎ取る。そのぶどうは粒こそ小さいものの色が濃く、甘さが凝縮されているようだった。

 皐月と恵奈もそのぶどうを覗き込む。

 夜空はぶどうを食べた。

 「……」

 「どう? おいしい?」

 「そうね」

 「どっちよ」

 「とてもおいしいわ」

 感無量な夜空の表情に、皐月と恵奈はぱっと笑顔になる。

 「わたしも食べる!」

 「あ、あたしも!!」

 「どうぞ。せっかくだから他の種類も楽しみましょう」

 三人は心ゆくまでぶどうを堪能した。その後お腹がいっぱいになり、苦しくて動けなくなったほどだ。30分制限のぶどう狩りであったが、長いようで短いようで、やはり長いようで。皐月も夜空も恵奈も、満面の笑顔でぶどう農家をあとにしたのだった。

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