挽回

 「ねえ、あたしに地図の読み方教えてよ」

 歩きながら恵奈が言った。皐月と夜空は笑顔で首肯する。

 「まず地図っていうのはだいたい上が北なわけね。で、今いるのがここでしょ。行きたいのはここの農園。そこまでは良い?」

 「うん。……うん」

 「そこにコンビニがあって、十字路があるでしょう。私たちはコンビニから見て十字路の斜め向かいにいる。だから現在地はここなのよ」

 恵奈はひらめいた顔で再度頷いた。

 「なんでここが目的の農園だってわかるの? 農園はこのあたり、たくさんだよね?」

 「農園の住所がここだから。地図に小さく番号が振ってあるでしょ。それが住所。それで――」

 皐月と夜空は地図の解説をしながら前に進む。恵奈は途中途中で質問したり地図を回したりしながらついていく。そうしてゆっくりと地図の読み方を理解していった。

 「あとわからないことはある?」

 「だい、じょぶ。だと思う」

 「じゃあ、ここから先は恵奈に地図を読んで案内してもらいましょう」

 「いきなり実践!!」

 「大丈夫よ。私達も一緒に地図を見るわ」

 うんうんと頷く皐月に、穏やかに微笑む夜空。恵奈は不安を抱えつつも、地図とにらめっこを始めた。

 そして予定よりも時間はかかったものの、なんとか予定の範疇でぶどう農家にたどり着く。恵奈は大きく息を吐いた。

 「着いた!!」

 「うん、良かった」

 「これであなたも一人で地図が読めるわね」

 「うん! 夜空も皐月もありがと」

 どういたしまして、と二人は微笑む。これなら明日以降は地図を恵奈一人に任せても大丈夫だろう。三人共やりとげた達成感でいっぱいだった。

 しかし本番はこれからである。さっそく農家でぶどう狩りの受付を済ませて、三人はビニールハウスへと入っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る