冷徹

 そこまできて、他人のふりをしていた夜空がようやく口を開いた。

 「皐月も恵奈も落ち着きなさいよ」

 「夜空」

 「皐月は言い過ぎ。恵奈は少しは悪いと思いなさい。とりあえずここにいるの恥ずかしいから移動するわよ」

 夜空は皐月と恵奈の袖を取って、ぶどう農家の方へと歩き出した。

 しばらくして皐月は少し落ち着く。なんであんなこと言ってしまったのかとぼんやり考えた。たぶんはしゃぎすぎちゃったんだろうなあ、と思う。

 「恵奈」

 「う、うん」

 「ごめん。言い過ぎた」

 「ううん、あたしこそ……いろいろごめん。調子に乗りすぎた」

 「うん」

 恵奈はタオルで顔を拭いて皐月の方にまだ濡れた目を向けた。夜空はなにも聞いていないかのように前だけを見て進んでいる。

 「あのね、その。友達にハブられて、新しい友達作ってぼっちにならないようにしなきゃって焦ってた。空回りしてたんだと思う。だから夜空と皐月につきまとっちゃった……だと思う。すごい二人は仲いいから、早く混ざらなきゃって」

 「うん」

 「でもなかなかうまくいかなくて、二人はさらっとした対応しかしてなくて、どうしていいかわかんなくなっちゃって。今回の旅行でいいとこ見せて認めてもらおうって思ったんだ」

 「ぶっ飛んでるわね」

 夜空が呆れたように口を挟む。恵奈は一瞬怯みつつも話を続けた。

 「けどあたし地図とか読めないし、スマホのアプリもよくわかんないから適当に進んで迷惑かけた。ごめん」

 「いいよ」

 「え、いいの」

 「ちゃんと謝って、今後気をつけるならそれでいいよ。それにわたしもきつい言い方したから、ごめん」

 皐月はため息を付いて恵奈を許す。恵奈が空回りしているのは皐月にも夜空にもわかっていたことだ。しかし皐月にはその空回りの仕方が、以前の自分を見ているようで腹が立った。それを、ついつい恵奈にぶつけてしまったのだ。

 夜空も僅かに皐月と恵奈の方に振り返る。

 「私も途中でちゃんと言えばよかったわ。ごめんなさい。ちょっと、どうしていいかわからなかったの」

 「夜空が謝ることなんてない、よ。あたしが暴走しちゃったんだし」

 「それを止めるのも友達でしょう」

 「とも、だち」

 「あら、違ったかしら。恵奈はそうなりたかったのだと解釈したのだけれど」

 ふふ、と夜空がいたずらっぽく笑う。皐月もつられて微笑んだ。

 「どうかな? わたしも夜空の言うことに同意だけど」

 「あたし、夜空と皐月と友達になりたい! お願いします!」

 「うん、じゃ、行こっか」

 三人はようやく並んで進みだした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る