仲違

 「誰の! 誰のせいでこんなことになったと思ってるわけ!?」

 「は?」

 「恵奈がろくに地図も読まずに適当に進むからでしょ!! こんなに時間ロスしちゃって! それを『戻れる』? 時間は戻らないんだよ!?」

 「な、そんなに怒らなくたっていいでしょ。まだ間に合うんだし」

 「だから! そこで開き直るな!」

 皐月の剣幕に恵奈はたじろぐ。しかし皐月は止まらずになおも恵奈に詰め寄った。

 「だいたい朝だって、なんで普通に遅れてくるの? 時間を気にしろ! 間に合うように行動しろ!」

 「ちょっとでしょ」

 「ちょっとだったら他人の時間を奪っていいのか!? そもそも普段からわたしたちにひっつきすぎなの! お前は母親離れできない幼稚園児か! 休み時間くらい好きなことさせてよ。なんでずっとずっと誰かと一緒にいなくちゃいけないわけ?」

 「え」

 「友達ってなに? 年がら年中四六時中ずっと一緒にいてトイレまで離れないのが友達? 違うでしょ!!」

 日頃の鬱憤が爆発したのか、皐月は今この場に関係のないことまで怒鳴ってしまう。まずいな、言い過ぎてるな。そう思いながらも彼女の勢いは止まらない。恵奈は完全に泣き出しそうな顔で皐月を見つめている。

 「あ、あたし、迷惑だった……?」

 「迷惑とまでは言わないけど、距離感を考えてほしい」

 「いつも一緒にいて同じことするのが友達じゃないの?」

 「少なくともわたしはそうは考えない。邪魔でしょ、そんなの」

 「じゃ、ま」

 恵奈の目から涙が溢れる。皐月は「あ、まずい」という顔で口をつぐんだ。なんでそこまで言ってしまったのだろう。そんなこと言うつもりなかったのに。

 けど悪いのは恵奈じゃないの。見境なしにべったりしてきて、夜空との静かな時間を邪魔する恵奈がいけないんじゃないの。

 皐月の目が曇る。わたしって、こんなに性格悪かったっけ。なんか吐きそうだ。こんなの嫌なのに。嫌なこと言う自分なんか嫌なのに。皐月が言いよどんでいる間に恵奈はしくしくと泣いている。皐月はそれを見てますます腹が立つ。完全な悪循環で、収集がつかなくなりつつあった。

 周囲からの好奇の視線も煩わしくてしょうがない。え、ねえ。どうするのこれ。皐月の目の前が真っ暗になりそうだった。

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