災難

 目的の駅に到着して、三人は早速歩きだす。先頭の恵奈は地図を片手にずんずん進んでいった。その足取りは迷いがなく、皐月と夜空も喋りながらついていく。

 しかし途中から雲行きが怪しくなってきた。

 「ねえ恵那。こっちで本当にあってる?」

 「え、う、うーん。たぶん」

 「怪しいわね。ちょっと地図を見せてちょうだい」

 「だいじょぶだから!!」

 地図を手放さずに恵奈は突き進む。皐月と夜空は顔を見合わせるもののついていった。だが三人はどんどん住宅街に迷い込んでしまい、抜け出せそうにない。目的地はぶどう農園なのだから山の方に進まなくてはいけないのではないか。

 「恵奈」

 「なによ」

 「地図!」

 苛立った皐月が強引に恵奈から地図を奪い取る。その間に夜空はスマートフォンで現在地を確認した。地図と現在地を照らし合わせた結果、三人はまったく方向違いの位置にいることが判明する。

 「え~な~」

 「だって!」

 「だってもさってもない! なんで地図が読めないのに突き進んじゃうの!?」

 「うう」

 「皐月、怒っても仕方がないわ。方向はあちらのようだから進みましょう」

 「うーん」

 夜空は皐月をなだめて正しい方角へ歩きだす。泣きそうな顔で立ちすくんでいた恵奈もしょんぼりとついてきた。

 かなり間違った方向へ進んできてしまったため、一度駅まで戻らなくてはいけない。途中途中で皐月と夜空が位置取りを確認しつつてくてくと住宅街を歩いて行く。

 相変わらず恵奈はしょんぼりしたままで口を利かない。皐月は徐々に苛立ちが増していく。夜空は特にコメントしない。そんな最悪の雰囲気のまま三人はなんとか最初に到着した駅まで戻ることができた。

 ようやく見知った場所についた安心感からか、恵奈はぽつりと口を開く。

 「ちゃんと戻れるんじゃん」

 それを聞いた皐月の目が釣り上がる。夜空が静止する間もなく、皐月は恵奈を睨みつけた。

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