旅立
修学旅行当日である。皐月は予定よりも早起きをして待ち合わせ場所である学校の最寄り駅に向かった。
そこでは既に夜空がいて、本を読んでいる。
「おはよう夜空。早いね」
「皐月も早いわよ。まだ待ち合わせの20分前じゃない」
「張り切っちゃって。恵奈、まだかな」
「そんなに早めに来るタイプじゃないでしょ」
夜空の言うとおり、恵奈がやってきたのは待ち合わせを数分すぎてからのことであった。恵奈はのんびり歩いてきて、二人を見つけると大きく手を振る。
ここ最近、恵奈は昼食や休み時間はずっと皐月と夜空と一緒にいる。べたべたした付き合いが面倒な二人は若干違和感を感じていた。
「おっはよう!」
「「遅い」」
「遅くないし! 時間通りでしょ」
「アウトかな」
「アウトよ」
「そうかなあ」
そう言いつつも待ち合わせの時間自体を早めに設定していたため、三人は遅れることなく予定の電車に乗り込む。まずは新幹線停車駅まで移動して、そこで学年全体で集合する。新幹線で移動した先では自由行動だ。
「つうか二人が早いんだよ。学校でも早いしさ」
「5分前行動が鉄則だから」
「時間を守らない人に人生の何が守れるというのかしら」
「わー、まじめ」
茶化しつつも「気をつける」と小さく言う恵奈は悪い子じゃないんだろうなと皐月は思う。夜空もそこまで深く追求せず、車窓を見送っている。新幹線停車駅は通勤中のサラリーマンや通学中の学生でごった返しており三人はもみくちゃになりつつも、なんとか集合場所までたどり着いた。
新幹線内では三人並んでの席であり、学年で複数の車両を貸し切っているためくつろいで移動できる。
「ついたらぶどう狩りだよね」
「そだよ。修学旅行のテーマは"食育"。ということで食べ物関連の施設を回るからね」
「私、そんなに食は太くないのだけれど」
「だいじょぶ! あたしが食べる」
「あー。恵奈めっちゃ食べるから」
「でもそんなに太ってないでしょ。努力の証」
三人は女子中学生らしい雑談をしながらお菓子を食べたり窓の外を眺めたりのんびりと過ごす。外の天気はよく、これからの旅行が楽しみになる光景だった。
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