断首

彼の魔力は自然と携わることによって与えられた恵みであって、魔法使いや魔術師たちと違い鍛錬を積み重ねて得たものではない。


そのため狼少年丿眼ロンギガス・アイも効力が15分程持てばいい方である。

・・・がしかし、エロは強く、彼は気付かず城下町へ行くたび行くたび、その鍛錬を僅かながら重ねて来ていたのであった。

これは通常魔力を持たない者に対して増えることは起こり得ず、すなわち、凄まじいムッツリ感である。


「もってあと数回、数十分がチャンスだな。」

彼はそう呟くと、会場内を動き始めた。


あたりにはたくさんの貴婦人方が会場内で踊っていて、それを上から眺める有名貴族や商人たちがいる。

この式典では女性同士の踊りの中には男子禁制のため、探すにはどうしても周りを駆け回る他無い。


たくさんの人とぶつかりながら遠巻きにあの貴婦人を探す。


「ダメだ・・・一か八か、中に入ることは出来ないだろうか。」

息切れがひどい。

なぜだろう、駆け回ることなんて慣れているのに非常に肩が重くのしかかる。



彼は羊のフードを装飾したときのことを思い出す。

まさか、あのとき肩に何か魔法をかけられた?


であれば魔力源を追えば・・・なんてことがいっかいの羊飼いに出来るはずもない。


当たりを見渡す・・・向こうもこちらを探しているはずなのだが、見当たらない。


この魔法は遠隔発動の術式の可能性が高い。

すでに俺を捉えているならば殺しているはず。

向こうは見られたことに気づかれているのだから。


狼少年丿眼ロンギガス・アイはあと2回が限度だろうか。



激しくリズミカルな音楽からゆったりとしたものにに変わる。



今がチャンスかもしれない、貴婦人たちの動きもゆったりとしたものに変わる。



狼少年丿眼ロンギガス・アイ!!」


捉えた!!しかし、この色は・・・


「守ろうとしている?」


ふと彼は自身の牧場を思い出す。

羊にはボスが居ない。

羊は一匹では逃げず、全体の仲間たちで逃げる。

羊は鳴かず、ゆったりとした「魔法」、オレンジの色の波動で仲間に知らせる。

狼から仲間を守るためだ。


先程肩を叩いて励ましてくれた貴婦人に間違いないのだが、見かけより若く、そして必死にこちらに守る色を送っているのが分かる。


わけがわからない、一体どうなっているんだ???

見付けたはいいもののどうする?

どうすれば!?


焦りが隠せない。

息を切らしながら近くの脇まで走り寄る。


「もう・・・止めないか・・・」

肩が重い。切れ切れの言葉で投げかける。


「・・・私に話すフリだけをそのまましてなさい。あなたのそのチョーカーの呪いを、今必死で防いでいるんだから・・・」


彼女はよく見ると顔を強張らせ、そしてそれを必死に押し隠していた。


すると突然、首のチョーカーがきつく締め上げられる。



彼は混乱する頭で必死に考えた。



俺を守ってくれている?

この色は穏やかなオレンジ・・・。

そしてきつく首を締め上げられるチョーカー。

彼女が俺の首を?・・・いや違う、この色は・・・



彼は最後の力を振り絞り、狼少年丿眼ロンギガス・アイをさらに強めた。




記憶の片鱗からチョークに触れた女性・・・。


チョーカーから、ドス黒い糸が貴婦人へピンと張り詰めている。


首を締め上げられながら、最後の言葉を振り絞る。



「・・・あいつだ!!!」



会場内が、静止した。

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勇者ですが老後が心配です。魔王を倒した後は居酒屋をチェーン展開しようと思います。 筆まめ猫ろんだ @kakukotoyomukoto

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