第11話
少し久々の登校で、
今まで、沙紀以外のクラスメイトが
それが今は、
混乱する
「聞いたよ、梅林さん。」
「虐待受けてるんだってね。」
「大丈夫だった?」
「学校来ていいの?」
「施設に行ったって本当?」
「心配したんだよ。」
「どうして相談してくれなかったの?」
「これからは何でも言ってね!」
好奇心半分、心配半分。
――あなた達に何がわかるの?沙紀ちゃんだって、知らなかったのに。
彼らの言葉に悪意が無いことも、自分が彼らに心を開いていないこともわかっている。虐待の事実を沙紀すら知らなかったのは、自分が言ってなかったからだということも。
それでも、
どうやらクラスメイトの耳には、“虐待”の事実だけ入っているらしい。
さらには、男子が当たり前に話し掛けてくるので、誰も
「許せないよな!小柄な女の子に暴力振るうなんて!」
「何かあったら呼べよ!男子何人かで行ったら、さすがに怯むだろ!」
「いや、今は施設にいるんだから、家族と会うことはないんじゃないかな……」
そこで、話を遮るように、大きな物音がした。
クラスメイト達は、
そこには、机に片手をつき、
どうやら、今しがたの物音は、沙紀が机を叩きながら立ち上がった音だったらしい。
綺麗な顔立ちの無表情というのは、そこそこ恐怖を与えるらしく、クラスメイト達は固まっている。
数秒後、沙紀は笑顔を浮かべた。目が笑っていない、綺麗な笑顔だ。
それを見たクラスメイトの何人かは、思わず後退る。
過去、この笑顔に怯まなかったのは、
沙紀は笑顔のまま、スタスタとクラスメイトの群れに近付き、
今度は物音を立てずに、とても静かに、だ。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「
「それでも、
クラスメイト達は返事に詰まったが、一瞬の後、誰かが「もちろん」と言った。
それをきっかけに、他のクラスメイト達も口々に賛同の声をあげる。悪は見過ごせないと言わんばかりに。
次々とあがる声を、沙紀は一喝した。
「即答できないくせに、責任取れないこと言ってんじゃないわよ!あんたらは
先程まで賑やかだった教室が、しんと静まり返る。
いくつか抗議の声があがったが、沙紀は無表情のまま、それらを潰していった。
「クラスメイトのために何かしたいって思っただけなのに……」
「この間まで、
「なんで藤島さんにそんなこと言われなきゃいけないんだ!」
「少なくとも、あんた達より私の方が
「じゃあ、梅林さんを見捨てろって言うのか!」
「そうは言ってない。状況をややこしくして
そのうち、クラスメイト達からあがる声の数は減っていき、一人、また一人と自分の席に戻っていった。
朝の
沙紀は小さく息を吐いて、
その動作は何気ないものだったが、やはり見た目が整っているだけに、絵になるものだ。
そして、それを沙紀に気付かれないように、
それはともかく、先ほどの沙紀の発言には問題があった。早く言い訳なり弁明なりしないと、沙紀がクラスから浮いてしまう。
「やっちゃった、って思ってるわ。孤立するんでしょうね……あ、
その言葉に、
普段から気が強く、友人といえば
そんな沙紀が、自分の発言を後悔しているとは。
沙紀と違って、自分は
面倒見のいい彼女のことだ。
どんどん顔色が悪くなる
「
それを見て、沙紀は困ったように笑う。
「ごめんね。気にしないでっていうのは無理だろうけど、私は私の言いたいことを言ったんだってことはわかってほしいわ。」
沙紀はそう言って立ち上がり、自分の席に戻ろうとした。
それを
「沙紀ちゃん、ありがとう。」
笑みは無理矢理作ったが、その言葉は無理矢理ではなかった。
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