第10話

――みおれいの家で手当てを受けてから一週間後。


 みおは、自宅の家事をこなしていた。


 あの後はあっという間だった。

 綾華は警察と児童相談所に連絡し、その日のうちにみおは施設に連れていかれた。


 しかし、その翌日には自宅に戻された。

 いや、みおが自ら自宅に戻った、というのが正しい。


 いつものことだ。「戻らなければ、れいの家がどうなるかわからない」と脅されたのだ。


 権力を持つ父がいるとこうなることぐらい、みおもわかっていた。

 それでも一旦施設に行ったのは、れいや綾華の厚意が嬉しかったからだろう。


 たった一日の自由を与えられ、みおは自宅に逆戻り。

 ただし、父や兄からの暴行はここ一週間無い。火傷や痣などの傷跡がみおの体から消えない限り、警察や児童相談所の職員が何度も来るのが鬱陶しい、というのが理由だ。


 しかし、近所では「みおが虐待を受けている」という噂が既に広まっていた。


 みおが外出するときは、近所のおばさま方が遠巻きに見てきて、こそこそと何かを話している。

 それでもみおに近付かないのは、巻き込まれたくないからだろう。


 おばさま方にはおばさま方の家庭があるのだ。他人のみおを助けて、巻き込まれでもしたら大変だろう。

 だから、みおは気にしない。誰にも助けは求めない。


 こんな惨状を知っても、友達でいてくれる沙紀がいるだけで、みおは幸せなのだ。


 この一週間、沙紀はみおを助けようと、みおの家を訪ねて来ては連れ出そうとしてくれたが、みおはそれを拒んだ。


 沙紀まで巻き込んでしまっては、沙紀の家がどうなるかわからないからだ。

 幸い、みおがすぐに戻ったことで、れいの家には何もなかった。しかし、沙紀の家にも何もないという保証はない。


 みおにとって一番怖いのは、父や兄の虐待ではなく、自分のせいで誰かの幸せな家庭が壊れてしまうことだ。


 自分が少し痛いのと怖いのと気持ち悪いのを我慢すれば、何も壊れなくて済む。そう考え、みおは自分の家庭が既に壊れていることから目を逸らす。


 ここ一週間、ゴールデンウィークも挟み、学校には行けていなかったのが、また明日から登校する予定なのだ。


 出来上がった夕食をテーブルに並べ、みおは小さくため息を吐く。一仕事完了だ。


 あとは父や兄が食べ終わる頃に、片付けに来ればいい。父や兄が食卓に座り、食事を始めたのを見て、みおは学校の準備をするために、自室へ戻った。


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